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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
3章 魔術師学園編
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3. 作戦会議

 なんとかアクラを説得し、就寝を免れた。


 話したいことをすぐ話さないと、なんだかんだできっかけが失われる。というかサーシャ自身忘れっぽいので、さっさと伝えてしまいたい。

 尤も、食事だけは摂った。骨と皮では肉体を維持できない。


「では、此度は如何なされるのです?」


 アクラが何杯目かのお茶をサーシャに注ぎ渡してくれた。ありがたく頂戴し、美味しいお茶に口を付ける。

 今度はレモン味がついている。茶葉の出所は不明。


「こんかいはまじゅちゅひがくえんに、しょうてんをあてる」

「それは何故でしょう?」

「いきぬき。いつもがんばってけいやくしてたけど。こころおれてきたから」

「つまり今世は捨て回ですか?」

「どうせしぬからすきなことしたい」

「いつもは好きなこと、出来ていなかったのですか?」

「…………」


 ずばりと反論されてサーシャは面食らう。確かに好きなことをしまくっていた。

 冷や汗を垂らしつつ、咳払いをして誤魔化した。


「がくえんあやしくない? そのなぞにせまるのもおもしろいでしょ」

「人間程度の営みに面白みは感じませんが」

「アクラもにんげんきらいだよね。なんでそんなにだめなの?」

「人間が嫌なのではなく、サーシャ様以外に興味は毛頭ありません。誤解なきよう」

「ふりきってるなー」


 ちょっとアクラの熱量に腰を引きながら、サーシャは話を進めた。


「いやほら。いままでにゅうえんあんない、とどいてたでしょ。あれずっとふしぎ、だったんだよね」

「何がですか?」

「ここせいいきなのに。どうしてゆうびんぶつが、とどくんだろうって。にんげんに、にんちされてないはずなのに」

「確かに、そうですね」

「きぶんてんかんに、ちがうことしてもよくない?」

「サーシャ様は相変わらず呑気ですね。そんなところも好きです」

「どうも」


 やんわりと手を重ねてきたので、やんわりと押し返した。

 子供の姿をしているからと、いちいち子ども扱いするのはやめてほしい。

 自分を見つめる甘い瞳から視線を外し、来る入園の日まで準備を進めることとした。




 そして二年後。


 サーシャとアクラは学園の大楼門の前に揃って立っていた。

 異国の着物に身を包んだ美人に周囲の視線が集まる。爽やかな白縹(しろはなだ)色の長髪を一つにまとめたその男性はにこやかに微笑んだ。


「サーシャ様、いよいよですね」

「うん。っていうか、これだけ視線を我が物にしておいて、涼しい顔をしていられるのが凄い」

「なんのことです?」

「……なんでもない」


 相変わらずアクラの視界は恐ろしく狭い。突っ込むのも疲れたのでサーシャは答えるのをやめた。

 父親に見えるアクラはサーシャの半端後ろに従い、付かず離れず着いてくる。

 保護者は正門でお別れとなるのだが、周りと違う動きをするサーシャたちはそういう意味でも視線を集めた。


 その不審な行いに他方から声がかかる。

 黒い魔術師帽を目深に被り、漆黒のローブに体を包んだ大きな男が二人の前に立ち塞がった。

 サーシャはやや懐かしく思いながらその男を見上げる。Fクラスの担任である。


「何をしている、ここから先は生徒のみの立ち入りに限られている。保護者はお立ち退き願いたい」


 筋骨猛々しい腕に乱暴に手を取られ、サーシャはアクラから距離を置かれた。


「いつまでも子供気分でいるな。入園したからには親はいないものと思え」


「サーシャ様」

「あ、そうだった」


 二人を隔てた担任に、アクラは冷たい視線を送る。この展開も何度かあったのに、やるべきことを毎回忘れてしまう。

 サーシャはカバンから一包の粉末を取り出し、頭上に軽く指で弾いた。解ける包みからは桜色の粉末が飛び出し、水魔法で希釈したのち霧にして学園全体に振り撒いた。


 この間たったの三秒。

 霧を吸い込んだ学園内の人間は、目を瞬かせた後アクラに目を向け会釈を行う。それは目の前の担任も同様であった。夢から覚めたように声を若干和らげる。


「お戻りでしたか、ネロ先生」

「ええ」

「入学式が間も無く始まります。先生もお急ぎください」


 桜色の粉末は薬草を加工したものだ。あらかじめ設定した記憶を刷り込ませ、認知機能を妨げる混乱の作用を持つ。度々蒔き直しが必要だが、人体に影響のないこの程度の魔法で充分だ。今まで誰にも気づかれたことはない。


 アクラは担任の腕からサーシャを柔らかく浚うと自分の腕の中に誘導する。少年はまたも子供扱いされたと、顔を顰めた。

 担任と距離を置いて講堂へ向かい、アクラはサーシャへと囁く。


「お見事です、サーシャ様」

「ん。でもこういう状態異常の魔法はウェントスのが一番うまいんだけどね」

「非常にお優しい解決方法です。さすがサーシャ様です」

「そういうの、むず痒いからやめて。大したことないのに過剰すぎる」


 何故かアクラの方が誇らしげに頬を染めているの呆れる。

 過保護者を称するアクラは完全にサーシャを自分の子供として認識している。子の収めた成績を誇るような顔にサーシャは何度目かのため息を吐いた。



 講堂に着くと魔力の適性検査がすでに始まっていた。

 歩みが遅かったためサーシャがやはり一番最後である。過去何度も行ってきた適性検査であるが、今回は今までと違う。

 不敵に微笑んだサーシャの様子に気づいたアクラは顔を傾ける。


「サーシャ様?」

「ふふふ。今日の俺は一味違うよ。見ててね」

「適性検査をですか? あの意味不明な? サーシャ様がするといつもゼロの?」

「いつもは、ね。今回は対策を練って来た」

「?」

「この二年間それなりに鍛錬を重ねて来たから、良い結果出せると思うよ。聖域に種も蒔かなかったから、魔力は十分すぎるほどある」

「種に何か関係が? 何のためにですか?」


「今世はAクラスを狙う」


 少年の瞳が愉快気に染まる。

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