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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
3章 魔術師学園編
88/153

1. 幾度目かの目覚め


 気がつくと、そこはベッドの上だった。


 随分昔に見たことがある天井。素朴な木の梁が交差し、目の前に 精霊( スピリット) 妖精( フェアリー)が通過した。幼少期、サーシャと共に過ごした彼らが、当然のようにそこにいる。

 体を起こすと、目線がかなり低い。

 手のひらを見て、ベッドへ伸びる小さな足を見て、サーシャは絶望のあまり寝具へ倒れた。


「うそー……」


 前回かなり良いところまで行った。


 これ以上ないくらい順調だったと思う。

 精霊神たちと何とか巡り会えて『器』に三種の魔力を注ぐことが出来た。道中忘れていた分、かなり時間をロスしたが、それでもなかなかの好成績だったはず。

 常々不運な事故が重なり、精霊神たちを会えないこともざらであったのだ。

 時間に追われて結局一種の神と本契約に望むことは珍しくない。契約云々どころか、サーシャの周りは死亡フラグが多く、全然関係ないところで死んだりもした。

 前回は十五歳。経験上なかなか長寿の部類に属する。


「なにが、わるいのかなー」


 小さくなった体は発声がしにくい。言いたいことがあるのに舌がもつれる。

 ベッドに体を横たえながらサーシャは考える。

 サーシャの死には、神たちとの関係悪化が起因することもあるので少し振り返ってみた。


 ルーナリアと出会えるかは時の運である。今回は仲良く過ごすことが出来た。

 イグニリスティは扱いが難しい。突き放しても懐に入れすぎても殺しにかかってくるので注意が必要だが、幸いにも良い距離感だった。

 ウェンデレミーナは良いお姉さんと言った立ち位置で、こちらが腑抜けていない限りまず手は出ない。

 アクドゥラハルラはサーシャと連動している。


 っていうか精霊王までは行ったから神は関係ないな。


(こんかい、なにかとくべつなこと、あったかな〜?)


 思い返せどもよくわからない。


 そう、サーシャは今無限ループの中にいる。

 何度も何度も覚え切れないほど死に、その後人生がリセットされてやり直しが始まる。

 巻き戻る年齢はランダムだが、概ねこの妖精の家からリスタートとなる。

 死に方によって前回の記憶がないこともある様だ、と学んだ。


 前々回は精霊王まで辿り着けず、拷問に近い形で死んだため脳が大きく損傷した。

 損傷した形でリスタートしたので記憶が最後のあの瞬間まで戻らず無邪気に過ごしてしまった。何も知らず、何も察せない、けれどなんとなくわかる、そんな曖昧な生き方は非常に楽だった。


(いまは、ぜんぶおぼえてる)


 今回は殆ど痛くなかった。見た目はグロかったかもしれないが脳に与える衝撃はほとんどない。

 ベッドの上をジタバタしていると、妖精が不思議そうに金色の鱗粉を散らす。


「あら、おはよう。サーシャ」

「起きたの? お出かけしましょう」

「うふふ。今日もいい天気なの」


 相変わらず妖精は美しさと無邪気さを絶妙に混ぜ合わせた笑みを作る。

 かわいいな〜、なんて思いながらベッドから起き上がった。


「ねえね、おはよ〜」

「おはよう、可愛いサーシャ」

「今日はどこに行く?」

「早くサーシャとお出かけしたいわ」


 ブースターの役割を知っている彼らはよくお出かけに誘う。別に嫌ではないので共に遊ぶが、どこかで何かのフラグを立てるので恐ろしい。

 正直家に閉じこもって誰とも接触しないよう過ごしたいが、それは以前に実験済みだ。

 家に閉じこもっていたら、突然ウェントスが現れサーシャを拐ってしまう。

 そのまま何故か空から地上に落とされ死んだ。怠惰が祟り、碌な魔法が使えない当初は受け身すら取れなかった。理不尽すぎる。


(ウェントスはだらしないの、きらいだから。あれはしかたないな)


 一人でうんうん頷き、玄関で待っている妖精と手を繋ぐ。

 瞬間移動の魔法が始まり、サーシャの体は空中に溶けた。

 姉に行きたいところも聞かれて、目的の場所を伝える。と言っても直には飛べないので、その真上の辺りを指定した。


 とりあえず、今後の方針を話し合うべく彼の元に向かうことにしよう。

 素直な妖精たちを上手く誘導し、彼の住まう聖域へと飛ぶ。彼の聖域は阻むものが水くらいで危険は皆無だ。

 海の真上からドボンと体を沈め、とにかく下へ下へと沈んでいく。途中苦しくなってくると水妖精が補助魔法をかけてくれるから助かる。幼子でも彼に会うのは容易である。


 暫くしてして彼が待つ玉座の部屋に着く。

 死ぬ度に何度も来てるので慣れたものだ。


 トントントン


 ノックして扉を開く。


「おじゃましまーす」


 と、トコトコ入っていくと、思った通り目的の人物は玉座に肘をかけて眠っていた。

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