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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
2章 少年期編
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75. 忍び寄る不穏


 モヤモヤする感情をサーシャは一旦脇に置いた。


 利用されているからと言って今まで良くして貰った事実は消えないし、おそらくこの先も関係は変わらない。

 神と人間との間の絶対的な差を人間ごときが考えてはいけないのだ。

 ただの事実であると受け入れるのみ。


「さて、これからどうしようか?」


 海の上でぼんやりとしていたら、ルーナが銀色の髪を揺らした。イグニスは面倒そうに頭を掻く。


「なんかクソガキ、立場的に面倒なことになってっしなー」

「そうよねぇ」

「ハルハド側からしたらお尋ね者だし。帰れないなら拠点変えようか」

「あー、駄犬のとこ結構住み心地良かったのに。つらー」

「ごめんね」


 自分の安直な行動のせいで住み慣れた寮塔に帰れなくなってしまった。エルーシュカを助ける時は特に国と敵対するとか裏切るとか考えていなかったけど、結果的にこうなってしまった。


「なってしまったものは仕方ないわ。切り替えましょ!」


 ウェントスが明るく言い、仲間になったばかりのアクラはだんまりと目を閉じている。


 なんかちょっと大所帯になったなー。


 空中でぴょんぴょんと跳ねるウェントスは明るいが、体の大きさは一回り小さいままだ。握っている手は未だ冷たい。

 サーシャは尋ねる。


「ねえ、大人になってからの試練ってまだ待てる感じ?」

「そうね、タイミングは器の判断だからいつでもいいんじゃないかしら」

「ならちょっと自由時間にしない?」

「………」


 神たちは互いに顔を見合わせ呆れた顔をした。

「サーシャに自由時間でない時などあっただろうか。常に遊んでいるように見えるぞ」と顔に書いてある。少年は見なかったふりをした。


「俺、ウェントスと出かけてくる。いい?」

「え? 私はいいけど」

「はぁ? 何だそりゃ、オレたちはどーすんの?」

「だから自由時間ってことで」


 あからさまに不満を示すイグニスに手を振る。ルーナも眉を寄せ快諾をしていないが無視した。アクラはそもそもこっちを見ていないので気にしない。


「サーシャはいつ戻るつもりなの」

「一ヶ月くらい。ガイアのおじいちゃんとこに集合しよ〜」

「わかった」

「……あーあ、クソつまんねー」

「じゃあ一旦解散ってことで」


 それを合図にサーシャとウェントスは上空に飛翔する。

 風に流れるように晴天の空の下あっという間に遥か彼方に消えていった。彼らの姿が見えなくなると残された神たちは、飾っていた感情を奥底に仕舞う。

 無表情のまま一言も声を発せず方々に姿を消した。




「うふふ、風が気持ちいいわ〜!」

「だよね〜。ウェントスとの浮遊、俺好き。思ったことそのまま魔法に出来るんだもん」

「少し捻って旋回して進むのもいいわよね! 二回、三回、四回……」

「目が回る〜!」


 青空の中で無邪気な声が響く。


 片方の手を繋いで空を自由自在に飛び回る。飛んでいる鳥も驚くような奔放さで、空は全てサーシャとウェントスのものであると言わんばかり。


 光の粒子を軌跡にして二人はどんどん進んでいく。山を越え、谷を越え、川を下り、海を渡る。平野を抜けると人々が住まう町があった。

 ハルハドの住居は煉瓦作り、ミーティーは木材をベースに作られていたが、見えてきた町は砂作りだ。

 国が違えば気候条件も違う。住居環境に適切な其々の作りが見ていて楽しい。


「この辺りは酪農に特化しているんだ。ごはんが美味しいんだよ」

「来た事あるの?」

「ルーナとイグニスと遊びに。チーズが格別だったな~」

「羨ましいわ。もっと早くサーシャちゃんに会いたかった」

「これから一緒に沢山出かけようね。俺、移動は風魔法の方が好きだし」

「うふふ。嬉しいこと言うじゃない」



 住居区画を抜けると一面に砂の海が視界に広がる。

 ここから先は砂漠になっているのだ。ウェントスの瞳が不思議そうに瞬く。


 風が多方向から吹き、砂の海には巨大な山が多数連なっている。人の足では渡れない砂漠は、駱駝を使うかホウキを使うかしないと横断できない。


 昼の灼熱の太陽はジリジリと肌を焼くので少し痛い。氷の粒を降らせたが一瞬のうちに水滴に変わった。髪や肌を水滴で煌めかせ、ウェントスは頬を赤らめて笑う。

 ずっと飛び回って遊んでいたら、辺りはあっという間に暗くなる。


「今日はこの辺りで休みましょうか」

「いっぱい飛んで疲れたねー。でも楽しかった」

「お腹も空いたわあ。近くに果物でもなっていると良いけど」

「俺が探してくる。ウェントスは待ってて〜」

「わかったわ。ありがとう」


 ウェントスに見送られながら、少年は高揚する気持ちを噛みしめた。

 得体の知れない不安が、心の奥から湧き上がるのを感じながら。

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