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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
2章 少年期編
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21. 部屋探し


「部屋作り、がんばろ〜」

「おー」

「ん」


 三人いるとさすがに手狭で不便だったので、イグニスが出した案を早速実行することにした。本日は平日で授業があるのだが、目下の急務を最優先に処理した方がいい。

 授業を真面目に受けるがモットーなサーシャだがサボることに特別抵抗はない。相変わらずの緩さにルーナはため息をついた。


「てか、(イグニス )が出ていけば良いだけじゃない」

「てめえが出てけよ。仮契約の分際で本妻面してんじゃねーよ」

「契約の時期は決まってるんだよ。そんなことも分かんないの、バカなの?」

「うっせ、てめーのがバーカバーカ!」


 微笑ましく喧嘩している二人をサーシャは眺めた。

 中身は随分年上らしいがこうして見るとその辺の子供と変わらない。


 神様の会話はよくわからないけれど。

 喧嘩をするほど仲が良い。仲良きことは美しきかな。うんうん頷いていると、くるりと二人がサーシャを振り向いた。


「一人で達観した顔してんじゃねーよ、クソガキ」

「サーシャはどう思うの。部屋割り」

「俺は個室がいいと思うよ。これからどんどん物が増えていくし、広い方が嬉しい」


 学園の教材は何分量が多い。

 辞書や箒などの重い物、嵩張る物は教室に置いておけるが実験用具はその都度購入しているので置き場所がない。実験で出来上がった薬剤や魔法石は各自持ち帰っている。

 おまけに最近サーシャには収集癖が出来た。草やら石やら何でもかんでも拾ってきて飾ってしまう。部屋は、すでにサーシャの私物で溢れそうな状態である。


「目につくの手当たり次第拾ってきてんじゃねーよ」

「つい、綺麗だったので」

「すっかり花屋の状態だよね。天井なんてドライフラワーだらけだし」

「あ、ラベンダーで香油作って見た。いる?」

「いい香りだねー」

「クサっ!」


 二人が対照的な反応を示したのがおかしい。

 ひとしきり笑って、さあ本題だ。


「部屋はとりあえず三部屋でいい? 物が増えたら追加で作るとして」

「まだ増やす気なの。まあいいけど」

「部屋分けんのはいーけど、鍵かけんの無しな。たまには一緒寝ようぜ」

「精霊神って物理効くんですか。見てて壁とかすり抜けそうなんですけど」

「物理じゃなくて結界とかそっちの方」

「そういうのまだ作れないんで」


 いらない心配だ。精霊神を弾くような結界など作れるわけがない。でもいつかは作ってみたい。適正ゼロには遠い遠い夢のような話だけど。


 寮塔は学舎から離れたところに位置している。

 最近知ったのだが魔術師学園は富裕層から輩出された期待を背負った子供が多いようだ。所持している物品、ふとした時に出る所作、高貴な価値観が完全に貴族なのでサーシャはついて行けていない。


 野生児のサーシャにとって雨風が凌げる場所があれば、それで十分だった。過不足があれば己の力でほぼどうとでも出来る。

 布団を作ったり、ドライフラワーのための花棚を作ったり、両親や支度店に頼むまでもない。


 しかし一般の生徒はそうでないようでこの寮生活に大いに不満を抱いていた。魔術適正検査によるランク分けは住居にまで反映されてしまう。

 Aクラスは国賓級の部屋(……というか一軒家)を居住地区に持つことが出来、一方でD〜Fクラスは完全に烏合の衆同様の扱いだ。


 犬小屋と呼ばれる、大きさだけは馬鹿でかい石造りの寮塔だ。

 そこに詰められるだけ詰めた部屋割りに、満足できる富裕層などいない。蝸牛の貝のように渦巻いた部屋が一階層に施され、尖塔の中心には上下階を行き来できる階段が伸びている。


 一階は寮生の共用スペースだ。

 中心には寮母が住まう管理室があり、そこを起点に食堂、座談室、洗濯室、大浴場、自習室、簡易的な図書室などがある。

 当然管理側が管理しやすい配置になっているのだ。ちなみに清掃は寮生の分担制を取っている。


 二階からが生徒たちの住居。

 二階の中心、三階の中心がDクラスの上級生が多く部屋を構えている。要は当たりなのだ。低い階の中心ほど寮外へ移動が容易ゆえの。

 逆にはずれは上の階の渦の外巻きに位置する部屋。移動距離が半端ない。当然はずれを割り当てられたFクラスのサーシャは、寮に入ってから二十分くらいひいひい歩きながら自室に戻っている。


 サーシャですらこうなのだから、他の生徒の鬱憤は凄まじい。

 寮の中の生徒は常にイライラしており、肩をぶつけようものなら即座に拳が飛んでくる。それも引っ越ししたい大きな理由であった。


「引っ越し、もっと上に行く?」

「そうだね。下はもう生徒でいっぱいでうるさいし」

「今25階だっけ? 外から見るともっと上ありそーだぜ」

「上すぎると移動が大変なんですけど」

「人間ってマジ無能」

「そこは空間魔法で移動できるようにしようか」

「なるほど」


 ルーナに言われて、なら今までもそうすれば良かったような、となんとなく少年の方を見る。するとルーナもこちらを見ていて、呆れたようにため息をついた。


「君、足腰を鍛えるから魔法は使わないって言ってたじゃない」

「そういえば、そうだった」


 忘れていた。随分自分に厳しい枷を課していたものだ。


 三人はスタスタと階段を登っていく。何故かイグニスが不機嫌に眉を寄せた。

 階段や廊下には色あせた赤い絨毯が敷かれている。石造りの中はヒヤリとしていて空気が心地よい。コツコツと絨毯を介して石を蹴る感覚もまた面白い。


 生徒がいない寮塔はしんと静まり返りどこか現実感のなさを感じる。

 一階層登り、空き部屋をどんどん開けてみた。石畳の床に木製の机とベットの木枠が一つ。なんてことない普通の部屋だ。26階の奥へも満遍なく回り、何もないことを確認して三人は上層へと向かった。


「二人は飛んでいけるのに、こんな地道でいいんですか?」

「ん、あー」

「あぁ。サーシャにはわかんないんだね」


 疑問を抱いて聞くと、珍しく二人の精霊神は目を見合わせた。その後すぐに離れたが。


「ほら、ここになんかあるの、わかる?」


 ルーナがふわりと天井へ飛び、螺旋の階段から離れた天井部をこんこんと叩いた。

 叩かれた天井は僅かに光を放ち、瞬間鋭い音を立ててルーナの胸元に光線が飛ぶ。それを難なく弾いたルーナだが、弾かれた光線は進路を変えて石の壁にぶつかる。壁は爆音と共に粉々に吹き飛んだ。

 人が受けたらひとたまりもないそれにサーシャは目を丸くする。


「正規ルートを通らないとなんか来るみたい。僕らは大丈夫だけどサーシャは面倒でしょ」

「てか、単純に仕掛けがあるのルートだけじゃねえしな。それがよくわかんねーけど」

「楽で安全なルートを所望します」


 キリッといい顔で言ってのけたサーシャに二人はそれぞれの笑みを浮かべた。

 なんてことない寮塔だと思っていたら、なかなか不明な仕掛けがあるらしい。ということは探られたくない何かがあるということだが、その発想に至らないサーシャは何も考えず足を進めた。

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