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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
2章 少年期編
14/153

10. ふわふわなもの


 担任が焼けた肉を生徒たちに配り、全員で朝食をとる。


 ひと休憩したら出発だ。

 約半分の道のりが過ぎたとはいえ、まだまだ目的地まで気は抜けない。護衛を雇う予算を割り当てられなかったFクラスは、担任一人に子供達の安全の責任がズシリとのしかかる。


(サーシャが言うように、体力をつけないと持たないな)


 と、担任も肉に齧り付いた。




***********




「じゃん! 見てみて、きれ〜」


 所変わって、キャンプ場近くの森の中。サーシャが裏すきの終えた毛皮をルーナへと広げる。


「獣くさ」

「ええ」


 結構苦労して筋肉や脂肪膜を剥がして加工したのに、辛辣な言葉に少しだけシュンとなった。


「もっと洗えばいいのかな〜。がんばろ」

「僕、寝袋くらい持ってこれるよ」

「んー」


 ウサギを獲った一番の目的は食肉ではなく、寝具を作るためだ。いい加減担任と寝るのは疲れる。心配している気持ちはわかるので蔑ろにはしなかったが、腰が壊れそうだ。

 担任だってあんな無茶な体勢を続けていたら、疲れも取れないだろう。


「急に荷物に寝袋が増えたら怪しまれそう。盗んだとか」

「まあ、道中商店もないしね」

「拾ったとかも無理があるし」


 と、言いながらルーナは頭をひねる。怪しまれる、と言うのならサーシャの行動はほとんどが怪しい。

 担任はだんだんスルースキルを身につけたようだが、本来ならば魔物を狩ったり、今こうして消えていたり、言及すべき点が山ほどある。そんな思考をいざ知らず、サーシャは呑気にルーナの心配をした。


「てか、ルーナも相当怪しくない? ずっと一緒だし」

「僕は気配いい具合に消せるから大丈夫」

「なるほど」


 そういえば学園内でもルーナは当然のように歩き回っている。サーシャと共に授業に出たり、演習を見学したり、寮でも一緒の部屋で普通に寝ている。完全部外者のはずなのに騒がれたことは一度もない。


 俺もいつかそんな魔法が使えるかな〜。


 気配を消した際にはルーナを後ろから思い切り驚かそう、とかしょうもないことを考えていると、遠くで号令の笛が鳴った。出発するらしい。


「行こう」


 馬車の元へ行き、クラスメイトに続いてサーシャとルーナは乗り込んだ。




***********




 街からだいぶ離れているため、馬車は生徒たちで貸切だ。各々座ったり、寝転んだりとスペースを広く使える。

 担任も御者台から客室側へ移動し胡座をかいて座った。


 バッ


 と、馬車の隅で毛皮が広げられ全員の目が点になる。


 トントントントントン

 スリスリスリスリスリ


 (…………は?)

 (適正ゼロが、なんかし始めました)

 (放っておけ)


 生徒たちと担任が目だけで会話をし、不自然に車窓へ皆々目を向けた。見たくない。サーシャは一心不乱に毛皮を石で削ってなめしていく。


 途中立ち寄った休憩所の泉では、全員身を清める中サーシャだけが毛皮を真剣な目で洗っていた。突然突風が吹き「あ〜、やりすぎ」と言って、空に飛んで行った毛皮を追いかけている。

 そして捕まえた毛皮をまた念入りに洗う。一時しかない休憩時間に、サーシャはこれまでないほど忙しそうに動いていた。


 夜になって担任がサーシャを呼ぶ。石鹸の匂いを香らせて、どこかから音もなく現れた。

 いつも夜更けまでどこにいるのか、と担任は思っているがあまり心配はしていない。サーシャが大丈夫なのだから大丈夫なのだろう。

 但し夜はやはり魔物が怖い。昼間より活動が活発になり凶暴性も増すので固まっていた方が守る側としてもやりやすい。


「ほら、来い」


 と毛布を羽織って膝を示すと、サーシャは笑って辞退した。その手には今朝獲ったアルミラージの毛皮が毛布の形になって抱えられている。

 一日中(本来ならもっとかかるはずだが)手製に込めていたそれはふわふわ仕上がっている。


「布団作りが得意なのか」

「これは必要に迫られただけで」

「それが欲しかったんだな」

「今までお世話になりました」


 そう言ってサーシャは生徒たちが眠る暗闇に引っ込んでいく。

 ふとサーシャが足を止めた。


「今夜も寝て大丈夫ですよ」

「は?」

「この子が守ってくれるので」


 そう言って毛皮を持ち上げる。

 アルミラージは中位の魔物だ。下位の魔物はその匂いに恐れ、まず近寄ってこない。それを理解して後担任は次なる疑問抱くが、今日は聞くまい、と口を噤む。話をするには時間が遅すぎる。


 薄暗い中で眠る小さな山が一つ増えて「おやすみなさい」と小さく呟くのが聞こえた。

 急に暖かさがなくなったように感じる膝の上を担任は黙って毛布で囲う。そしてそのままサーシャの言葉に従って瞳を閉じた。

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