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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
5章 魔物編
139/153

13. キメラ

 

 呆然としたアマデウス。

 ホーリードラゴンだけが落ち着いた様子で長い首を地上に下ろし、ファリャと目線を合わせる。


「オヌシ ナニヲシテキタ」

「わかんない。気づいたら卵に囲まれてて、いつの間にかこうなってた」

「ソウカ」


 ドラゴンが口を開く。鋭い牙が垣間見え息を吹きかけられる。全身を覆う髪の毛が空中に舞い上がり、その瞬間全員がファリャに目を止めた。笑い転げていた夢魔ですら、一転動きを止めファリャの姿に魅入る。と思ったら急に抱きしめられた。


「この子、すっごく、かわいい~♡」

「ファリャ様、天使みたいですね。人間の文化で見たことあります」

「どストライクよぉ〜。ねね、私と契約しましょ!」

「……ファリャ」


 気持ちを回復させたアマデウスがファリャの腹を撫でる。腹だけでなく、肩も、腕も、首も。穴だらけだった体が、どういうわけか、どこもかしこも隈なく修復されている。修復というより、新品と取り換えたという表現が相応しい。


「どこも痛まぬか? ……なぜ」

「オソラク コゾウガイッタ セカイデ サイセイシタノダロウ。フェニックスノ サイタル トクチョウダナ」

「なるほど。親和性が高いものと混じったのか。……魔力も、回復しておる」


 体中の異常を確かめたかと思ったら、今度は翼の骨格を撫でる。

 関節部分を慎重に伸ばし、その大きさに男はため息をついた。


「全長ニメートル程度じゃな。飛ぶには小さいのう。これは飾りか?」

「さあ」

「そなたは魔法が使えぬ。もし飛べるのならば便利じゃな」

「そうだね」

「何か出来ることがないか確認してみよう。契約ではなく、キメラ化してしまうなど思ってもみなかったが、問題が解決したのならば言うことはない。良かったの」

「…………」


 良かった、のか?

 突然魔物と混じって良かったと言っていいのか疑問だ。

 頭を傾げていると突然視界が開けた。


「うふふ~。だってもう必要ないでしょ?」


 手刀にて髪の毛を切られた。ハラハラと風に攫われていく大量の毛髪。瞬間夢魔のフィンガースナップと共に空中で灰になって燃えた。


「かわい子ちゃんは私好みにカスタマイズするわぁ〜」

「あの、私も良いですか?」


 愉快犯の夢魔だけでなく意外にも人魚姫まで参戦してきた。魔物の癖に人間じみた、女の子のような遊び方に玩具の少年は戸惑う。どこから取り出したのか、あっという間に少女の洋服が草の上に並べられていく。フリルだらけのドレス、ネグリジェはまだ良いが、セーラー服、バニーガール、水着が飛び出した時はアマデウスでさえ顔を引き攣らせた。趣向がニッチすぎる。

 丁重にお断り申し上げた。





 キメラになって良かったのか?


 結論を言えば最高だった。数日前に動揺していたのが嘘のよう。

 小さめかと思われた翼だが魔力の込め方でその大きさを変えることができた。或いは大きさを変えずともコントロール次第で飛行が可能。


「凄い凄い凄い! 楽しい〜! おもしろーい!」

「良かったのう」

「あはは。単純ねぇ〜」

「…………」

「ウルサイ……」


 里の上空を八の字を描いて飛ぶ。あえて落下し、ぴたりと空中で止まり、旋回してまた上方へと戻る。鳥というより虫の動きに近い。ホーリードラゴンが煩わしそうにため息を吐いた。

 勿論、始めから上手に飛べたわけではない。コツを掴むまで何度も落ちたし怪我をした。折れてちぎれた所を勿体無いとアマデウスが拾って食べ、致命傷になった際は自らの炎で焼いて癒した。非常に便利。雑すぎる野生児、復活である。

 一方で戦闘方法は模索中だ。


 魔法もいいが、魔物になってみるのも悪くなかった。実際なってみてわかったが、魔物の暮らしも人間の暮らしも大きくは変わらないのだ。知能の低い低級の魔物は食糧に、中級の魔物は害獣に該当するならば駆除する。上級ならば意思疎通が可能なため共存出来る対象となる。

 人間だって、家畜は食べるし、田畑を襲う獣は駆除、そして同種族同士共同体を作る。かなり乱暴な括りかもしれないが、考えを改める。


「ファリャ。早う降りてまいれ。昼にしようぞ」

「もう少し〜」

「あの子、本当に単純ね」

「…………」

「ヨソデ ヤッテクレ」


 手を広げて自分を呼ぶアマデウス。上機嫌に飛び込むと男の喉が嬉しそうに鳴った。抱き込まれる寸前で空中に逃げる。空を切った大きな両手は再度空へと向けられた。


「ファリャ……、いい加減にせぬか」


 窘める体ではいるが顔の緩みが酷い、と魔物たちは呆れた。


「デレデレね〜。やっぱりファリャちゃんが元気なのが一番嬉しいのねぇ」

「…………」

「アンナ アマデウスハ ミタコトガナイ」


 三者三様、違った意味のため息をつくのであった。

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