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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
5章 魔物編
137/153

11. 魔物との付き合い方

 

 男は予定よりも大幅に遅れて帰宅した。

 そして、一か月ぶり発した一言は、意外なものであった。





 時は戻り、里のはずれの静かな湖畔にて、ファリャと人魚姫は優雅な昼下がりを過ごしていた。


 人身供物用の底なし沼とは別に、里内にはピクニックを楽しめるスポットもある。

 決して広くはない里ではあるが、何分住人の数も少ない。数少ない憩いの場でさえ、人っ子一人いない貸し切り状態で涼めるので良いことである。


 人魚姫は無表情にファリャの隣に陣取る。陸の上ではお茶や読書を楽しみ、湖に入ると人型を解除し連れ添って泳ぐ。ファリャは穴だらけの体のため本格的に泳ぐことは出来ない。

 溺れることのないよう、長い尾ひれで自分の周りを巻き取って包み込む。守られているのだと、遅れて気がついた。



 そうこうして過ごしていると、突然頭上の濃霧が割れ爆発音と共に隕石が降ってきた。垂直に落ちてきた落下物は湖畔に盛大な水柱を上げる。呆気にとられていると、続いて夢魔の甲高い声が耳に飛び込む。


「ただいま~♡ ファリャちゃん、いいこにしてた~?」


 夢魔の後にアマデウスとホーリードラゴン。三者揃って空から自分たちを見下ろしている。音もなく湖畔にさざ波を立てて舞い降りた。


「我のいぬ間、何か問題はなかったか?」

「何もないよ」

「体調は?」

「いいよ」

「ふむ」


 ノルマと称される時間がない分、精神的にも楽だった。

 問題があるとすればモンスターの侵入だろう。毒霧で弱り切ったスライム相手に相当の時間を要し対処した。悲しいくらい非力な戦闘であった。

 数度頷いたアマデウスは人魚姫を見て、その後夢魔とホーリードラゴンに顔を向ける。


「では、問題ないな」

「        」

「いいんじゃない? 中毒もおこしてないし~」

「…………(コクリ)」


 ドラゴンの発した言語は聞き取れなかったが、四人の間で何らかの同意がなされたのだと察した。

 それが何か検討もつかないが。


 そして話は冒頭に戻る。


「ファリャも魔物と契約してはどうじゃ」

「えっ」


 突然の提案に動揺する。どうして話がそこに繋がったのか理解が追い付かず、なんとなく解説を求めて人魚姫を振り返ってしまった。勿論、彼女の表情には何もない。

 アマデウスが咳払いをして意識を自分へと戻す。


「そなたは強くなりたいと言っておったじゃろう」

「え? 言ったけど」

「その手法として修業をするとか。しかし考えてみればその方法は無意味じゃ。この五年間全く成長が見られぬどころか、退化しておる」

「ぐぬぬぬぬ」


 スライムとの悪戦苦闘を見られていたかのよう。


「我の戻った記憶を辿るに、そなたは『器』としても、かなり特殊なのじゃろう。通常、精霊と契約せずとも、精霊の断片のみで器なりの戦力が見込める。しかし、……これは我の嗜好の問題じゃが精霊が嫌いじゃ。よってずっとそなたと精霊との接触を遮断してきた」

「そんなことできるの?」

「容易。我自身が精霊に嫌われておる。我がそなたを片時も傍から離さなかった」

「へえー」


 確かにそうだ。アマデウスと会ってから精霊の姿が近くに見えない。

 ということは、火の神も? 彼とアマデウス(当時は違う名前だったけど)が顔を合わせたのは初回だけでそれ以降は遠くにいるだけだった。


「話を戻そう」


 再度咳払いしたので、過去のことから今へと頭を切り替える。


「そなたは精霊との接触を断たれると極端に生命力も減らしてしまうのじゃろう。精霊と魔力の循環すべきところ、その機能を使用しなかったため魔力の目詰まりを起こしておる。老廃物は体内に残り、フィルターが障壁と化してしまったのじゃ」

「???」

「このまま放っておくと人間としての機能も壊れちゃうってことねん。明日死んじゃってもおかしくないわ~」

「夢魔」


 ピシャリとアマデウスが窘めた。


「そこで魔力の消化方法として提案したいのが魔物との契約じゃ。精霊用のフィルターを魔物用に変換させて目詰まりを解消する。循環が上手くゆけば、自ずと生命力も向上し戦力も期待できよう」

「な、るほど?」

「ただし『器』はあくまで精霊用の器じゃ。魔物契約など異物とみなされ、拒絶反応が出てもおかしくはない。魔力の馴染ませ方に相当なコツが必要じゃし、何よりも契約する魔物との相性が重要じゃ」

「はえー」


 魔物との相性。つまりアマデウスは美人を率先して契約しているわけではなかったのか。いらぬ誤解をするところだった。


「でも、パッチテスト代わりに置いてった人魚姫ちゃんとうまくやってたみたいだしぃ~。それも一か月もの長期間」

「……パッチテスト? いや、今の人魚姫は攻撃能力低いし。何もされてないし」

「魔物の魔力に合わないと、攻撃の有無かかわらず引きずられるのよ~。ファリャちゃんが弱ければ自ら命を絶っちゃうし、強すぎると逆に魔物の本能が牙をむく。結局、双方の歩み寄りが必要なのよね~」

「        」

「うるさいのう」


 最後のアマデウスの言葉はホーリードラゴンに向けられたものようだった。どうやら揶揄われたらしく、バツが悪そうに口を尖らせている。


「ともあれ、契約に必要な魔物の見繕いが想像以上に難儀した。ファリャに見合う魔物がなかなかおらぬ。それなりに高魔力でなければ目詰まりは解消できぬからの。一か月要して得られたのがようやく一つ」

「一つ?」


「何が?」、と問う前にアマデウスが湖畔に目を移す。


「契約に足る魔物の卵を湖に沈めた。ファリャも共に入れ。契約の先導には人魚姫をつけよう。詳細は彼女に聞くように」


 有無を言わせぬ勢いに質問のタイミングを逃す。

 気が付けば人魚姫に腕を取られ、ファリャは湖へと飛び込んでいた。

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