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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
4章 騎士団学校編
126/153

20. 夢魔からの伝言

 

「……次の世」


 思わぬ単語に再び言葉をなくした。

 彼女は微笑みながらこちらの出方を待っている。また一つパズルのピースがはまる。


 ようやく今世の全体像が完成した。アマデウスはとっくの昔に作り上げていただろう構成図。



 始まりはルートヴィヒが戦果をあげたコングの大討伐。

 初級の魔物とはいえ、実戦経験のない子供がまともに太刀打ちできるのか。身近な子供がルートヴィヒなので、認識と現実の乖離が凄まじい。

 十歳という齢は大人に比べ筋力も知識も経験値も何もかも足りない。必ずどこかで綻びが生まれるはず。無血の勝利などあり得ない。


 当初イグニスと抱いた違和感はそれ。戦闘の痕跡が皆無だった。

 誰も彼もが、……ルートヴィヒですら魅入られたように、すり替えられた事実を信じた。

 この事件をきっかけに人の数が減り始める。コング討伐から戻ってきた子供の数は半数であったが、自分を含めそこに疑念を抱いた者は誰もいない。


 その後行われた叙勲式。

 表彰を受けて帰ってきたルートヴィヒだが、普段以上に疲れきっていた。貴族社会においての気疲れかと思われたが、実際彼は操られていたのだろう。

 意識下にない行動を無理強いされ精神的に参ったのだ。彼からは色濃く血の香りがした。ルートヴィヒが手を下したのか、他の者が行ったのかは不明だ。

 ともあれ、叙勲式をきっかけに騎士団長であるエヴァリストが姿を消す。そこに出席していた貴族数名も。

 当時大きな騒ぎにならなかったのは、皆平等に幻覚でも見せられていたか。


 花祭りが連日行われ、人々は夜の街に繰り出す。

 ちょっとした火遊びとちょっとした開放感。祭事中はある程度の羽目外しが容認され、生徒らが授業に参加せずとも問題にはならない。

 神を讃え、王を敬い、街の繁栄を願う。花祭りの主題はハルハド信仰への地盤固め。それ以外は些事として放られる。


 やっと違和感を覚えたのは花祭り最終日。アマデウスの睡眠薬で五日眠り続け、目覚めた時異変に気づいた。

 人の数が極端に少ない。

 アマデウスは「王宮に人が集中している」旨話したが、嘘だ。街に漂う気配を読めば、大体の町民の数がわかる。

 そこをあえて尋ねなかったのは恋に盲目であったから。


 アマデウスとのデートはいつも人気のない場所で。その度に要人が命を落とすので、誰が犯人であるか、連想ゲームは容易かったであろう。


 違和感は至る所に落ちていた。

 弾き出した答えの回答を求めて、サーシャは顔を上げる。夢魔との視線が絡み合い、彼女はにこりと笑う。


「いなくなった人たちは、魔物に食べられたの?」

「過程を随分飛ばしてきたわねん。どうしてそう思うの?」

「魔物は同族狩りを殆どしないよね。アマデウスが魔物との仲介をして、ハルハドの人たちを食事として与えたんじゃないの? 食事供給の代わりに、君たちはアマデウスに力を貸している」

「…………」

「アマデウスの力は、……魔法のようだけれど魔法じゃない。精霊に頼らず、魔物を召喚しているんだよね。彼の魂は淀んで傷だらけ。精霊に好かれるはずの体質のはずが、むしろ誰も寄り付かない」

「……ンフ」


 夢魔は笑うばかりで明確な答えは返してくれない。


 イグニスやアクラを含め、妖精フェアリーもアマデウスに魔力のブーストを求めなかった。

 それは何故か? 彼には既に精霊と異なる契約者がいたから。彼の『器』特性は失われている?


 彼女の様子を見るにどうやら答えに足りないらしい。

 けれどやはり説明が面倒なのか、別の話題を持ち出されてしまった。


「それで、ファリャちゃんが処刑される理由はわかったの?」

「今までの違和感の断片を人々に戻したんじゃないの? コング討伐で戻らなかった子供たち、叙勲式にて殺された騎士団長、市井に蔓延する疫病、原因不明の行方不明者。そのどれにも俺は不在にしていたし。もともと俺を嫌う人間は多かったから、疑いの芽が芽吹いたのかも」

「あは。私たちは精神攻撃が得意だから記憶の改ざんや感情の刷り込みもわけないし。敢えてファリャちゃんを犯人役に仕立てて罪を全て被ってもらったのよん」


 悪びれない。

 精神の外側ではサーシャの肉体は虫の息であろう。肉体から引き剥がされたからこそ、まともに思考が働き会話ができるが。それもいつまで続くのか。


「でもなんで俺が犯人役?」

「理由は簡単よ。ハルハド戦において最も脅威であるファリャちゃんを潰したかったから。それにあなたにはハルハドを恨む動機があるしねん。……ハルハド信仰上ではファリャちゃんが神の子孫なんでしょ? ブラフの現国王ではなく、ハルハド建国の父エンゲルベルトの子孫こそが正統。なのに何故か王位を外され不遇な処遇……あら、何その顔? もしかしてこっちは考えてなかったのん?」


 図星だ。

 言われてみれば確かにリンクする。前の世のルートヴィヒは気づいていたのか? だから態度があんなにもおかしくなった。


「今更だけど。元々は早急にあなたを殺して終わるはずだったのん。何度か危うい場面があったでしょ? でもファリャちゃんを知るうち考えが逆転したみたい。これからも一緒にいたいんですって。だから殺すのは必要最低限のこれっきり。それも苦痛の最も少ない方法で」


 利用価値、という単語が頭をよぎる。

 そして思考は振り出しに。「次の世」の意味は。


「アマデウスはこの世界をループしてる?」

「ファリャちゃんと同じくねん。私はリセットされるからピンとこないんだけど、あの子の方は確信したみたい。現にあなたの反応を見るに間違いなさそうだし」

「…………」


 アクラ以外にもループに巻き込まれている者がいる。更に会話を重ねようとして、突然視界が霞み始めた。

 直立していた足から力が抜け、軟体動物のようにその場に潰れる。

 頭上で夢魔が笑った。


「そろそろ終わりねん。眠くなってきたでしょ? ゆっくりお休み」

「アマデウスは……、か、れは」

「処刑後の後始末に忙しいのん。そうそう、あの子から伝言よ。『次はこちらから迎えに行くから黙って待っておれ。精霊とは極力関わりを避けろ』、ですって。わかった?」

「…………」


 思考による判断は不可能。

 本能的に瞬き一つで了解を伝え、その瞬間サーシャの命は潰えた。

4章登場人物まとめを活動報告に記しました。

5章へ続きます。

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