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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
4章 騎士団学校編
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2. 過去とのリンク


「繋がってる?」


 意外な言葉に目を瞬かせる。アクラと前の二人を交互に見比べ一考すると、知的な青年が口を開く。


「原因はわかりませんが、今までこんなことなかったでしょう。前世の影響を受けていると考えてしかるべきです」

「?」

「特に(イグニス)の方」


 何故か不機嫌に眉を寄せた。

 サーシャからの返答を待ち、口を閉じてしまったので困る。イグニスを再度見ると、彼は隣のルートヴィヒと話をしていた。


「何なん? あれ。揉めてんの?」

「いや、そういうわけでは無いようだが」


 当たり前のように二人が会話している。その光景をぼんやりと眺め、数分後ようやく今世の異変に気づいた。

 イグニスがルートヴィヒと普通にコミュニケーションをとっている。サーシャが知る過去数百回の間、イグニスは人前に出たことがない。

 残虐非道を極めた火の神は、生きとし生けるもの全て本能のままに蹂躙してきた。サーシャも何度も殺された。しかし今世は違う。


 イグニスは登場当初からルートヴィヒに好意を抱いていた。自分が神であることを名乗り、ルートヴィヒの前に限り姿を現す。こんな異常事態今までなかった。


「何百年も生きて、性格が丸くなったのかな」

我々()の本質は突然変わりません。きっと前の世で貴族の子供の評価が上がったのでしょう。それが今世に表れている」

「何かあったかなー」


 首をかしげると、アクラは


「例えば、サーシャ様の命を救ったとか」


 とズバリと言い当てる。自覚のない野生児は益々首を傾けるが。実際、水中ダンジョンで何度も死にかけた。その度にルートヴィヒが万能薬で回復を図る。薬一つで家が一軒建つ高額なものであったが、当然サーシャは知らない。


「まあ、いい方向に変わったのなら良かったじゃん?」

「良いのか悪いのかは判断しかねます。確かに今までにないバリエーションではありますが」


「サーシャ」

「いつまで話してんだよ。グズグズしてねえで次行くぞ」

「時間に遅れる。急げ」


 まだ何か話したげなところ、弟たちが割り込んだ。対面する自分らの間に身を滑り込ませ、手を握る。

 両の手を二人に繋がれ、先へ先へと引っ張られて行く。自分の方が兄のはずなのに、何故だかいつもリードされてしまうのだ。後ろを振り返って、アクラに告げる。


「今世は色々事情が違うんだ。説明するからアクラも来て」

「……どこに」

「王立騎士団演習場。ルートヴィヒと一緒に入団したんだ」

「え」


 固まるアクラ。サーシャもこのパターンは初である。毎日新しいことの発見で楽しい。

 ルートヴィヒは箒を取り出し、サーシャは風魔法を展開する。同時にエアドライブを効かせて揃って上空に飛び上がった。



 ハルハド王立騎士団養成学校。

 騎士団直属の学校にサーシャは現在通っている。国防の要となる勉学と演習を日々行い、最高学年卒業をもって正式な騎士団入りとなる。エスカレーター式のため、入学してしまえば未来は約束されたも同義だった。


 ハルハド領地の貴族たちで構成され、高貴さと優雅さと高度な剣術が要求される。リリエンタール家に認知されたサーシャは、出生の点においては十分入団の資格を持ち得ていた。しかし生まれついた野生児の性分で、紳士たる立ち居振る舞いに難あり。必死にマナーを勉強し何とか補欠合格を果たしたのだ。


 そのため、今回は魔術師学園には所属していない。そもそも入園案内が届かなかった。両親と再会した後の話であるので当然と言えるが。ちなみに学園に入園しなかったのはサーシャだけではない。ルートヴィヒも兄を追う形で入学する。勿論主席合格。弟の方がいつの世も優秀だなんて、もはや傷つくプライドなどなかった。


 半日かけて水の聖域から移動し、一同やや疲れた顔をして演習場に到着する。アクラを除いて、他三名は短時間でハルハドとミーティの二国間を横断したのだから当然と言える。

 すでにあたりは夕暮れに包まれている。薄闇に紛れて長身の人物が一人、演習場の真ん中で腕を組んで立っていた。


「来たか」

「お待たせしましたー」

「そっちから呼んでおいて遅刻か。貴族とは随分いい身分なのだな」

「……だってさ。ルートヴィヒ。君も謝りなよ」


 脇を小突くと、弟が僅かに顔を顰めた。


「遅刻の原因は全てサーシャだろう。私は止めたぞ」

「だって、急にアクラに会いたくなったんだから仕方ないじゃん」

「それに『貴族』呼ばわりはサーシャに対する嫌味だ。初めから彼は君しか見ていないだろ」

「えー」


「何をごちゃごちゃ話している」


 イライラと目の前の男が毒づいた。確かに彼の怒りはサーシャに向いている。ルートヴィヒに怒っていないのは、単純に信用貯金の問題である。養成学校一の秀才に不満を抱くものなどいない。


「ごめんなさい」

「謝罪は己の武をもって示せ」


 そう言って男は剣を取り出し、風を切った。鋭い音がして、風圧で芝生が捲き上る。その凪いだ風がサーシャまで届き前髪が揺れた。


「じゃー、お手合わせ願います」


 サーシャは短剣を取り出し、指の間で回す。筋肉が未発達なので男のように片手剣は扱えない。模擬刀ではなく真剣での演習。サーシャが望んだ特別講師による特別授業である。通常の授業はとうに終了していた。

 二人の剣が交差し、金属音が演習場に響く。


「よそ見をするな」

「してませんよー」


 特別講師──セルゲイ。魔術師学園Fクラスの担任は度々こうして騎士団養成学校の講師となってくれている。セルゲイは元々魔術師よりも武人の方に才がある。


 学校が変わっても、なんだかんだ彼とも縁があった。

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