七杯目☆彡 宝モノ
昨夜みるくは、夢を見た。
……たくさん、――がいた。まるで今にも踊りだしそうな煌びやかな――たち。きっと踊るのは4分の3拍子、格調高いワルツ。兵隊さんもいたみたい。
でも日本人はみるくだけ。白と黒とアジアの肌色もあったけど……全員、ヒトとは違ってた。みるくには分かる。なぜか雰囲気だけでわかるの。
そして懐かしさがよぎる。昔、彼らにとてもよく似た人と過ごしたことがある。だって同じ、彼ら特有の香りがする。嗅ぐとみるくの体からふわっと要らない力が抜けていく。
……ほっとするというのかな。なかでも果実みたいな甘い香りが好き。
キラキラの中でも、ひときわ惹きつけられたのは王子さま。重厚な玉座に座って見下ろしてる。笑顔もなくて怖そうだけど、本当は違うの。だって、馬で森から来るとき優しかった。
本当は、壊れないようにそうっと丁寧に扱ってくれた。
それに誰かも言っていた。普通の人だって。……だから怖くない。
異界から来た異人か? だって! SF小説みたいな話だな。でも頷いた。牢屋でデビルに聞いてきたから大丈夫。
元の世界、え~と人間界? のこと、彼らはどうやら異界って呼ぶの。そこから来たみるくは『異界の人』……だから異人になる。
あってる? よかった。それで昔から、たまに異人はやって来てたみたいなの。
でも、珍しくって皆忘れてるってデビルは言ってた。擬人たちは忘れっぽいんだって。変なの。
……デビルは大丈夫かな? みるくのこと忘れないかなあ。次、会う時までみるくのこと覚えていて欲しいな。
あ、ぼーっとしてたら、いけなかった。
王子が異人は追放だって言ってる。困るなあ、行くところもないし……。
え、続きがある? 他国なら処刑!!
いやだ、なにそれ。死んだら帰れない。お母さんにもう会えないの? 友達にも? 先輩も? それとも死んだら帰れるの? わからない、でもいやだ。
帰れたとしても、死にたくない。
え? 「落ち着け、その可能性もあるというだけだ」
うん。深呼吸して落ち着くよ。
……でも、やっぱり困るよ。途方に暮れるってこういうことなんだね。
うん? 「貴様がもし、宝を持っていれば。それを大人しく差し出すというのならば。追放はしまい。このコーヒー王国の客人として丁重にもてなそう」
本当に? ここにいていいの! でも、どうしよう……。宝ものなんてみるく、日本から持ってきてない。お金もないよ……。
そんな……! 「そうか、持ってない……か。宝がないのなら、では国外追放となる」
正直に話したら、ちょと悲しそうな顔したあとで偉そうに告げられた。
やっぱり、いやだよ。も~! どうしよう。宝ってやっぱり、お金なのかな? 宝石なのかな? それとも……。なに、なんなんだろう? 一体、宝って、彼らが欲しいモノって――?
――みるくちゃんは、分かってない
――お金なんかよりも、よっぽど、価値があるのに分かってないな~
閃いた! あの時の言葉、デビルの言ってたこと。違ってても構わない。どうせ追いだされるのなら、ちょっと恥ずかしいけど言うんだ!!
「宝ならばあります。王子、あなたの目の前に」
「ほう? 私の前に、か。……分からぬな。もし、それが下らんモノならば容赦はせぬぞ」
一瞬、王子の眼が光った気がした。気のせいだろうか。
みるくは立ち上がり、ばっと勢いよく手を胸の前に持っていく。仁王立ちで挑むように見上げる。
「宝は、私。この『牛飼 みるく』が宝です! これを王国に預けましょう!!」
周りの騒めきが強くなる。馬鹿なっ、という言葉が聞こえる。
しかし、みるくは胸を張る。
――馬鹿で結構、もとよりダメもとなんですから。それに昔から珍しいものって、それだけで稀少価値が付くことあるでしょう。
なら、忘れちゃうくらい珍しい異人は立派な珍品! 十分に宝であるはず。
そしてデビルを信じるならば……こう言えばいいはずだ!!
「王子! 私は、ずっとはいれません。しかし私は王国のお役に立ちます。だから元の世界に帰る手段が見つかるまで、この王国に置いてください」
お願いします、と頭を下げて王子を見据える。王子は目を閉じ思案しているようだ。いや、怒ってるのか? 体が細かく震えている。
「役に立つとは大きくでたな。――それで? 一体、貴様に何ができるのだ?」
コホン、と咳払いの後、王子は研ぎ澄まされた表情で問いかける。
「……が、できます」
「なに?」
みるくも負けじとキリリとした顔で言い放つ。
「美味しいコーヒーを淹れることが、できます。王子、わたし――いいえ。みるくは、貴方に、今まで飲んだことのないような、めっっちゃくちゃ美味いコーヒーを飲ませてやります!!」
みるくが学校の部活で、――その名も『喫茶クラブ』で鍛えた腕前、披露してやる!!
王子:大きくでたな
みるく:……(大きくでてしまった)
ゲイシャ:ハラハラするな~、ちょっと宝持ってるけどお~、森に落っことしちゃったぁ~テヘペロとか言えばいいのに。あたま、っと容量悪いなあ。
みるく:……(嘘付くなって言ったじゃん!)
モカ:飲んだことないような美味いコーヒー……、ですか。仮にもコーヒー王国の王子に向かって、よくもまあ厚顔無恥に言い切れたもんですねえ。さぞや美味しく淹れるんでしょうねえ? 不味いなんてこと一ミクロンもあるはずないでしょうし、どれほど美味しいのか早く栄誉にお預かりしたいことですねえ。しかし、その栄誉はまず今回の功労者であるゲイシャが頂くべきでしょうね。ええ、王子は繊細な方ですから。ちょっと、の違い、水の好みもあるのですから。違いの分かる男、コーヒー王子がお腹痛くなると大変です。それに比べてゲイシャならば、ドブ水で淹れて頂いても死にません。いえ、貴女が淹れるコーヒーがドブ水などであるはずないでしょうが、なにせ繊細なもんで――
みるく:……(誰、この人? 小姑みたい。いつまで続くねん。イライラ)