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コーヒー王子とみるく姫  作者: 端山 冷
第二章 まだまだ苦い ブラックコーヒーでブレイクタイム
21/26

20杯目☆彡 ミルク & シュガー

「……。わからないわ。なぜ、そこまでしてくれるの?」


 みるくは頭を振った。


 彼らの言葉には、嬉しいもの、納得できないもの、その両方が含まれていた。紅茶公国に突き出さずに『賢者の学校』に逃がしてくれるのは嬉しい。


 だが、何故なんだろうか。

 王子に背いてでも任務を遂行する決意があるゲイシャ。冷静に損得勘定をして、大臣として国益を最優先するモカ。みるくには話が合わないような気がしていた。


「宝人の持つ宝とはなにか――牛飼みるく。それがお前には分かるか?」


 モカは椅子から立ち上がり、みるくに背を向ける。


「ここに真偽のつかない伝承がある。――曰く、宝人の宝とは王国に、いや、この世界にもともと存在したもの。かつての失われた宝、それを再び授けてくれる者が『宝人』。世界が戦争を始めたとき、国が滅び擬人も消える。そのとき、獲得した宝物も共に消える。それを擬人世界に再び持ってくるという伝説がある」


 ……モカは今、その伝説をどのような顔で語っているのだろうか?

 ふと、みるくは、そんな他愛無いことが酷く気にかかった。


「彼らはその宝を自己の名前に隠しており、大切にもてなせば宝物を置いていってくれる……そう言われている。だが、大戦の後に彼らを見た者はいない。だから――()()、あくまで伝説上の話となっている」


 みるくは眼を見張る。

 王子の顔が頭に過った。そうか、だから彼はあのとき――。


「大戦っていつのことなの?」


 ゲイシャが軍帽をかぶり直して答える。


「そうだな。明確にいつ始まったかは定かではない。気づけば手当たり次第に周囲とドンパチやっていたからな。だが、少なくとも250年前には紅茶公国とはやりあっていた。紅茶公国だけでなく世界全体が戦火に包まれていた。終戦したのは今から58年前だ」



 ――()()()()()()()()()()()()()()()。……えーっと、あれは六十年前くらいか。あれれ? けっこう最近の話だね~


 デビルが牢獄で話した時期と一致する。ならばこの世界の者たちは、そうやって二百年は戦い続けていたわけだ。終戦、先ほどの二人からは停戦と聞こえたが、その代償として少なくとも一つの国は滅んでいる。




「質問したいんだけれど」


 みるくはモカを見つめる。


「なんだ?」


 モカは真剣な表情で振り向く。


「この国にはなぜ、『ミルク』と『砂糖』がないの?」


「…………」


 返事がない。二人とも動かない。


「三日前、王子に聞いたの。朝、目覚めの一杯を持ってきてくれたから、たまには『ブラックコーヒー以外が飲みたい』とね」



 疲れ果てて目覚めた朝は、またしても寝坊の朝だった。それを聞いたらしいコーヒー王子が、手づから()()()にコーヒーを一杯淹れて持ってきてくれた。

 寝間着姿のまま素直に受け取った()()()は、自己の不甲斐なさと照れくささから『砂糖とミルクはないのか』ツンと澄まし顔で王子に尋ねる。


 その瞬間に王子は、虚を突かれたように一瞬悲しげな表情をみせた。王子はこの国にはブラックコーヒーしかないと告げ、みるくが何か言う前にさっさと部屋を出て行ってしまう。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 残されたみるくは、ほろ苦い気持ちを抱えながら、涙が出るほど美味しいブラックコーヒーを飲みほした。

 そのなんとも言えない後味の悪さはまだ鮮明に覚えている。




「そうか、だからなんですね」


 みるくは納得して頷く。いくら失敗しようが放り出さない。王子やみんながこだわっていたのは。


「わたしの名前が『みるく』だからだったんですね。みなさんは、わたしを宝人だと思っていた」


 チーズや山羊がいてもミルクはない。なぜなら、それこそが失われた宝だから。

 不思議な世界だ。けれど、もとから異人と真人が同じ常識にとらわれているとは限らない。


 みるくは溜息をつき、両者をみる。


「改めてですが、わたしはコーヒー王国の人たちが望む宝は持ってません。このままでは役にも立てそうにはない。帰る手段もないし、もし迷惑ならほかの手段を探しに城を出たほうが」


 ミルクと砂糖は確かに持っていた。それは鞄の中に。

 部活に使用するため「コーヒーミルク」と「砂糖」「ブレンドコーヒー」が自分の鞄の中に入っていたのを思い出す。ほんのわずかしかなかったそれは、もしかしたらこのまま見つからない方がいいのかもしれない。


「帰る手段はある」


 思案するみるくは、そう続く言葉を遮られる。

 ノックもせずに入ってきたのは、コーヒー王子だった。

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