15杯目☆彡 モカに相談だ!
「ゲイシャ、今日は王子とは会えなさそうなんだよね?」
みるくが隣の男、王子の親衛隊隊長殿に伺う。
「俺が知るかよ――と、言いたいところだが」
先程、エメラルドと話していた時の驚愕の表情は既にない。落ち着いた口調でゲイシャが言う。
「今日はもう、難しいだろうな。だいたいの賓客とやらの予想はできた」
「そうなの?」
みるくには、一国の王子がわざわざ国境まで迎えに行く相手の予想はできない。
……いや、そんなこともないか。
「もしかして……また異人が来たとか? みるくと同じように」
もしお仲間さんならば心強い。この際、おっさんでも追放者でもコミュ障でもかまわない。誰でもウエルカムだ。
「残念だが、それはない」
やけにきっぱり断言したゲイシャが続けて話す。
「みるくのように異人ではないのなら――王族が迎えに出るのは、やはり王族だ。王子が迎えに行ったのは、時期的に見ても紅茶公国の次期女王、紅茶レディで間違いない」
「紅茶レディ!?」
デビルに聞いたことを思い出す。
『紅茶公国』
一説によると紀元前より前の時代、この地を支配していたといわれる種族。
元は中国発祥でありながら、中国茶達とは一線を隔す超大国。
確か首都は「フォーチュン」という名前だ。軍人国家のコーヒー王国とは違う、豪華絢爛な文化が花開くセレブのみが住める首都。そこに君臨するのが王家をはじめとする貴族連中、貴族国家なのだ。なんと建国以来、400余年一度も首都が変わってない――引っ越し嫌いの国。
血統・血族、とにもかくにも血! 血が大事。血筋で一生が決まる絶対階級差別国家。それが紅茶公国。
――い~い、みるくちゃん。紅茶種族を見たらすぐ逃げるんだよ!
――うーん、も~! みるくって常に逃げる選択肢しかないよね?
――それはそういう仕様だから仕方ないよ。奴らはとにかく保守保守保守!! の懐古主義で変化が大っ嫌いなんだ。だから人間嫌いもすさまじい。人・即・漸! ってレベルだ。人間のことを奴らは『偽人』と呼んでいる。もしも人間に対する友好度があれば最低レベル。数値で表すならば10点満点中、1点! だからね。
ちなみに、コーヒー王国は数値で表すと友好度は10点満点中、4点くらいだそうだ。今考えれば、王子が言っていた異人を処刑する可能性のある国ってきっと紅茶公国のことだろう。
その国の次期女王様が、この城に……。
「ゲイシャ……。みるく、もー部屋からしばらく出ない」
「おっ、なかなか良い勘だ。そりゃあ、賢い。だが、もう遅い」
すっぱり両断される。呆けた顔でゲイシャを見ると苦笑いされる。
「おそらく、もう紅茶レディはこの城の中にいる。そんで、さっき気配がした。紅茶レディの従者だろう。すでに姿を見られた、諦めろ」
えええーーっ! と悲鳴をあげるみるく。ゲイシャはみるくの肩をそっと叩く。
「巧く隠していたみたいだが、みるくを見て驚いたんだろう。気配が漏れた。だが、驚くということは知らないということだ。森の中にいた奴は、紅茶公国の手ではなかったのか……」
口に手を当て考え込んでいるらしいゲイシャを揺らして訴える。
「あ、あ、諦めろって何!? だ、大丈夫だよね。いきなり、みるくを売ったりしないよね?」
うちら友達だよね? っと言うみるくを丸っと無視してゲイシャは肩を竦める。
「難しいな、宝人なら誰に何と言われようとも保護するんだが。こちらもあちらさんと長い付き合いがあるしな」
今戦争するわけにもいかんしな……、とゲイシャが小さく呟きだす。
――戦争!? 本気か? たかだか、異人がそれも他国にいるだけで?
紅茶公国はそんなにも異人が嫌いなのか。
恐ろしさで喉からはヒッと小さな悲鳴がでた。
「そんな~。ひどい~。……そもそも、みるくを見て異人だって直ぐに分かるものなの?」
「まあ、だいたいは」
感覚的に『あ、こいつ違うわ』ってなるらしい。そういえば、みるくも擬人達には何か感じるものがある。
「っていう訳で、行くぞ」
半泣きのみるくの腕を取り、ゲイシャは強引に連れて行く。
「いやーーー!! せめて、一日心の準備をーーー!!」
「心の準備なんてしてたら、遅いですってアイツキレるぞ。なんせ金儲けで毎日お忙しいからな~……内務大臣さまは」
「ええっ、内務大臣って。モカ?」
「そうだ」
目を見開いたみるくを引きずり、庭を出るゲイシャ。ニヤリと歯を見せ邪悪な笑みを浮かべる。
「さあ、王国で一番頭のいい奴に相談に行くぞ!」




