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魔法学院編 第13話 色褪せた本。

 俺は【闇】に埋め込んだ『共有の眼球』を通して、ピクピクと痙攣を起こしている女を見下しながら先の戦闘を振り返る。


 書庫室(ここ)を守っていた魔法使いは軽く十を超えていた。


 それでも何事もなくここへ到着しているのは、傀儡となったインドートの固有能力があっての事である。


 俺は魔王であるからか、インドートとの模擬戦で彼の能力は克服することができた。しかしそれは、一対一という場面でなければ対処する事は難しかっただろう。


 脳内で先の戦いを振り返り、彼女が俺の存在に反応した事に対して素直に称賛する。


 今も俺の魔眼を通して、彼女が最後まで魔法を発動しようとしているのがわかる。


 俺はそんな彼女の心臓に【闇の魔剣(リベリオン)】を突き刺し、その体を【闇】で回収をした。


 それと同時に、知らない魔法の知識や彼女の想い出が俺の頭の中に入ってくる。


 しかし俺はその知識に触れる事もせず、足早に彼女が守っていた区域へと歩みを進めた。


 これまで回収した本の中にも、少し見ただけだがかなり重要な書物が置かれていた。しかしこれから向かう場所には、それよりも重要なモノがあるという事になる。


 俺はそこに、生と死に関する事が書かれている何かしらがある事を願いながら、続く一本道を走り抜けた。


 それから数秒後、目的の禁止区域へと到着する。


 しかしそこにあったものは、明らかに古いと思われる色褪せた本がひとつと、それを守るように置かれたガラスケースだけであった。


 俺はまず、そのガラスケースにかけられている防護系の魔法式を解読する。


「これは……中和魔法と、通信系に近い音魔法か。」


 中和魔法とは、基本属性の魔法を打ち消すというものだ。この学院の入学試験にあったガラスが魔法に耐えたのも、この魔法の力である。


 しかし試験で使ったあれは、複雑な魔法を中和する事はできなかった。しかしここにかけられている魔法は、基本属性の魔法を感知すると同時にどこかへ合図が送られるように仕掛けられている。


 簡単に言えば、中和魔法を応用したものだろう。


 要するに、基本属性ではない黒魔法を使えば問題はない。


 俺は今の自身を(かたど)っている【闇】を使って、ガラスケースごと本を吸収しようとする。


 しかしガラスケースを吸収し終えてから本を吸収しようと闇が触れた瞬間、その二つは拒絶反応を起こしたかのように弾き合う。


 ────ドンッ


 その反動で人間の容姿をした【闇】は弾かれた勢いで壁に激突し、壁に使われていた瓦礫が落ちてくる。


「本にもかかけてやがったか。」


 この【闇】は間接的に操っているので、もちろん痛みは感じない。しかし間違いなく、今ので学長などに侵入者がいる事は伝わってしまっただろう。


 本に魔法がかかっていないと決めつけた俺も失敗だが、何より魔王(おれ)の【闇】をも弾くほどの防護系の魔法式をこんな小さな本にかけるとは、流石魔法に長けたクニというわけか。


 そう思いながら俺は『共有の眼球』を本に向け、そこにかけられている魔法式を見て驚きを露わにする。


 何故なら、その本には通信系の魔法どころか防護系の魔法式すら書かれていなかったのだ。


「なら今のは一体……」


 そんな解せない俺に向けて、年老いた老人の声が耳に入る。


 この学園に来て、二度だけ耳にした声色だ。


「おぬしには触れることすら許されんだろう。」


 俺はその声の主である学院長、アノールクリアに『共有の眼球』を向けた。




 ーーーーーーーーーーーーーーー

 『今日から俺は、魔王となる。』

 ーーーーーーーーーーーーーーー




 この本が起こした拒絶反応を中心にして、ヲルの操る【闇】の一部分が蝋燭(ろうそく)のようにこぼれ落ちる。


 アノールクリアからすれば、黒い液体に眼球がついて見えるのだから、さぞ異物のように映る事だろう。


 そんな中、ヲルは『共有の眼球』を通して声を送る。


「どういう仕組みだ?」


 それを聞いたアノールクリアは、落ち着いた声色で返した。


「仕組みなどではない、魔の王。この本は人間にしか触れられぬのだ。」


 しかしそれはあり得ないと、ヲルは心の中で考察する。


 もし人間以外が触れられないのならば、それこそかなりの数の魔法式が存在する筈だ。決して、あのような小さい本で収まりきるような量ではない。


 本が起こした拒絶反応に疑問を抱いているヲルに、学院長はゆっくりと手に持った長い杖を向けた。


「それで……ここを守っていたニリルはどうした?」


 その言葉と同時に、謎の妖精にも近い程の殺気がヲルを襲う。


 それを眼球から感じとったヲルは、解けてしまった【闇】を人型に戻しながら声を送る。


「その代わり、本の中身を教えろ」


 そう言い終えると同時に、ヲルは人型の右腕を上げて成長した魔王だけの魔法を発動する。


殲滅の闇(ジオルマーラ)


 その魔法は、学院長に向けられた右手から現れる。


 媒介から大量の火炎を放出する『炎の道』という中位魔法を、漆黒に染めたような魔王(ヲル)の魔法は、無慈悲にアノールクリアという人間に降り注いだ。


 形容するのなら、絶望の具現化。ひとりの人間が対応するには、過ぎた魔法にも見えた。


 しかしアノールクリアは落ち着いた様子で杖をヲルに向け、白く煌びやかな光線を放った。


久遠の光(リーディルター)


 白と黒、相反する色をした魔法は激突し、ヲルの放った黒色の光線が学院長の放った魔法を押し出していく。


 それもそのはず、ヲルは無限である魔力を『共有の眼球』から送り続けている。全ての魔力は送れないにせよ、ヲルはこの数ヶ月で一度に扱える魔力を格段に増やしていた。


 その量は文字通り人外の域に達しており、たったひとりの人間が、ひとつの魔法で魔王と張り合うなど不可能と言って相違なかった。


 そんな中ヲルは、先程得たニリルの記憶からアノールクリアの過去を探る。


 アノールクリア。人間に裏切られ、妹を失い、魔法を使える者しか愛す事ができない可哀想な人間。


 まるで自分と同じようにも見えた過去に、ヲルは魔法学院の開会式で抱いた苛立ちの正体に気づく。


『もし魔王になれていなかったら、俺はこいつのように生きていたかもしれない。』


 魔法学院が生まれたのは、今から数十年前。


 当時の国の名前はグリアンド王国といい、帝国と変わりない軍事国家であった。


 その国は魔法を扱える人間が多くいた為に、それを集めた軍によって周辺国家を侵略しつくした。


 しかしグリアンド王国の会心撃は、ある反乱で止まることとなる。


 この国の主力であった魔法使いの待遇は、ほとんど差別に相違なかった。


 それに不満を持った軍隊長のアノールは、仲間と共に反乱を起こして新しいクニを作ったのである。


 名は叙情的、旋律的な特徴の強い独唱曲の中から取った『アリア』に、自分たち魔法使いこそが『人間』であると掲げた『ネーゼ』を組み合わせた『アリアネーゼ』と定められた。


 ヲルは眼球の声量を高めてから、声を送る。


「諦めろ。お前に勝ち目はない。」


 しかし返ってきたものは、余裕のある落ち着いた声だった。


「儂の台詞じゃよ。死で償え、人間を捨てた愚かな魔()がッ!!」


 その言葉と同時、押していたはずのヲルの魔法が押し返されていく。


 どういう事かと、ヲルは眼球を通してアノールクリアの魔力を覗き見て驚きを露わにする。


『魔力が、増えていっている……!?』


 それからすぐにヲルは、眼球に送れるだけの魔力を送り続けた。


『なんて魔力量だ……ッ』


 しかし進行を止める事すら叶わず、人間を象っていたヲルの【闇】と『共有の眼球』は灰となって消えた。


 書庫室に一人残ったアノールクリアの後ろから、走っているような足音が聞こえる。学院長はゆっくりと振り返り、走ってきた緑色の髪をした男に視線を持っていった。


「学院長、ニリルはッ!?ニリルは無事ですか!!」


 慌てた様子のニリルの兄────ラニルの言葉に、名付け親であるアノールクリアは目を伏せた。




 ◾️◾️◾️




 魔法学院アリアネーゼの裏門付近で、ヲルは分裂させておいた【闇】を吸収する。


 この【闇】は、ヲルが万一に負ける事を視野に入れて、ニリルと戦う前に書庫室の本を『収納』して本体に送っていたものである。


 しかしヲルはその本に意識を向けるのではなく、学院長の魔力が増えた事について思う。


『いくつか可能性はあるが、本当に可能ならばまさに笑える真相だ。あの学院長は最初から俺が魔王だと知っていたのかもしれない。』


 ヲルは書庫室の方向へ振り返り、ゆっくりと笑みを作る。


 それから門の方向へ視線を戻してから、思考を切り替えてある人間に向けて口を開いた。


「出てこい」


 その言葉と同時に、ヲルの視線の先にある門から一人の人間が現れる。


「気配を消すのは得意だったんだがな。流石は魔王って事か」


 そこには、ほんの数時間前までヲルの先生をしていたファルの姿があった。






















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