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魔法学院編 第12話 偽兄への想い。

 俺は魔法大会の戦場である闘技場の観覧席に腰を下ろして思う。


 この学院にいた半年もの間……本当に長かった。


 この世界に生を受け、シュリと暮らし、ルーティと笑い合い、生きる為に足掻いた────どの時間よりも長く感じた。


 全てはこの日の為。


 全ては魔法学院にある魔法の知識を奪う為。


 全ては()の為。


「それでは、一年の大イベント!魔法大会の開会式を始めます!!」


 いつもの模擬戦場よりひと回り大きい闘技場で、歓喜の声が支配した。


 のうのうと生きている無能な笑い声が、次々と俺の耳の中へと入ってくる。


 俺は隣に座るフテューレとインドートに、こっそりと声をかけた。


「俺は動く。フテューレ、この傀儡(インドート)の面倒は任せた。そして、次会う時は()()になるだろう。」


 これからの動きはフテューレに伝えてあるので、その言葉を聞いた彼女は不自然にならない程度に頷く。


 傀儡(インドート)に関しては、『支配の眼球』の所有物をフテューレにしておいたので、俺の声には反応せず人形のように固有能力を発動しているだけである。


 彼の能力のお陰で、俺の存在は他者に認識される事はない。


()()()


 そう言って、俺は席を後にした。


『こんな茶番はもう終わりだ。』


 俺の姿に気づく者は、一人としていなかった。




 ーーーーーーーーーーーーーーー

 『今日から俺は、魔王となる。』

 ーーーーーーーーーーーーーーー




 魔道塔の地下にある書庫室。


 その部屋は生徒はもちろんの事、一部の先生しか立ち入る事ができない場所である。


 そこには数千はありそうな魔法の論文や、学院の創設前からある貴重な本が数多管理されている。


 その中でも最も重要とされている書物を管理する出入口に、侵入者を防ぐように緑髪の男女が二人守っていた。


 その片方であるショートヘアーな緑髪の男────私の兄が口を開く。


「ニリル、それじゃ俺も行ってくるよ」


 その言葉を聞いた私────ニリルはつまらなそうに返してやった。


「ちぇ、なんで可愛い妹に任せるかな?」


 そんな妹の言葉に対して、兄は私がつけている指輪に視線を持っていき、優しい笑みを浮かべてみせる。


「その指輪、誰が買ってあげたんだっけ?」


 ……この為に、私が気になってた指輪を買いやがったのか!!!


「最低な兄を持った妹の気持ち、知らないでしょ?」


 それを聞いた兄は声を上げて笑ってから、優しい声色で私を宥める。


「まぁ俺の一年に一度の楽しみでもあるんだ。大目に見てくれ、妹よ。」


「はいはい。書庫室は私が守っておくわよ。こんな兄はいても邪魔だから、さっさと行った行った!」


 そう言いながら私は、兄であるラニルの背中を押して地上に出られる階段に追いやる。


 しかし押されている兄と言ったら、そんな私を笑いながらその階段で地上へと上がっていった。


「何もないと思うけど、気をつけなよ!」


 兄が上がる途中で発した声に、私は苛立った様子で馬鹿兄に向けて大声で叫んでやる。


「何があるっての。さっさと行け!」


 そんな()()()()()()()()()()()()()をした私は、さっきまでいた出入口に戻り地面に腰を下ろした。


 ローブが汚くなりそうだが、数時間は私の担当なので仕方なしだ。


 それから私は一時間程で持っていた本を読み終え、目の前の棚の中にいる大量の論文達に目をやる。


 ここには数えるのも嫌になる程の論文や魔法の書がある。その中には、他国では解明すらされていない重要な書物だって数多存在する。


 しかし私が守っているのはここではなく、それよりも奥にある書物室だ。その中にあるものは、私を含め学院長先生と秘書しか全容を知らない。


 一体どんな物があるんだろう?


 そう考えてしまうのは、私が昔ここに()()()として来た性みたいなものなんだろう。


 だけど、今の私には関係ない。ここを守らせてくれていると言う事は、学院長先生がそんな兄妹(わたしたち)を信じているという事に他ならないのだから。


()()()()()()()()()()


 私は薄く笑みを浮かべ、手に持った本を元の場所に戻そうと立ち上がる。


 その瞬間微小な殺気を感じ取った私は、それを回避するように後ろに飛んだ。咄嗟の回避だった為に、私の体は禁止区域に入ってしまう。


 しかしそんな事に後悔する暇もなく、五本の黒い剣が私を追いかけるように飛んでくる。


 その速度から考えても、躱し続けるのは得策ではない。


 私は腰に身に付けていた杖を手に取り、魔法を発動させる。


 書庫室では魔法書が焼失してしまうので、魔法の発動が禁止されていた。しかし唯一、この区域にある『何か』を守る為なら許可されている。


氷塊の追憶(ツインロール)


 空気を凍らせ、その剣の身動きを止めようとする。しかしその剣は氷を()()()ていき、結果減速させる事すらできなかった。


『魔法を分解しているという事は……まさか黒魔法!?』


 黒魔法とは、意味の見えない魔法式から生まれる奇跡の魔法とされている。魔法業界では、適当に作っていた魔法式が黒魔法になる事などは稀であるが存在していた。


 しかし、この魔法は見た事がない。


 私は向かってくる剣を回避しながら、勝つ方法を考える。


『近くにいる本体を探さないと勝てない。だけど、そうすると少なからずここを離れる事になる。』


 それは役目を放棄する行為だ。それは、私のプライドが許さない。


 そんな事を考えていると、禁止区域に近づく人影を視界に捉える。


 しかしよく見てみると、それは人影などではなく全身が黒で染まった人の形をした『何か』だった。


『なんなのあれはッ』


 そんな魔法を使う者が抱く、見たこともない『何か』への深い探究心や不安が私の生命の分岐点となる。


 両足に鈍い痛みを感じると同時に、私の体は地面へと崩れ落ちるように倒れた。


 どういう事だと足元を見ると、そこに私の『両足』はなかった。


 鈍い痛みに私の表情は自然と引きつっていきながらも、頭を冷静にして今置かれている状況を正確に把握する。


 あの『何か』は黒色の姿を出す事によって、注意力をその方へと向けさせた。それから地面に潜ませていた黒い剣のような物で、背後から私の足を両断したんだ。


 もしも私が未知の力に対して全方位に注意力を払っていれば、回避される可能性があるという懸念からなのだろう。


 平和すぎたアリアネーゼが私の心に与えたものは、『良い事』だけではないという事か。


 私は襲い掛かる激痛に、歯を食いしばりながら無理矢理意識を保たせる。


『早く……皆に、()に伝えないと……ッ』


 そう思い魔法を発動させようとする。


 しかし私は何も出来ないまま、心臓に一本の剣が突き刺さった。





 遠のいていく意識の中、私の瞳にひとつの指輪が映る。


 これは最近、形だけだった()()の兄が私にプレゼントしてくれたものだった。


 工作員として生きていた辛い過去や、そんな工作員だった私と兄を変えてくれたアリアネーゼの日々が、学院長先生の姿が頭の中で蘇る。


 それと同時に私は、死にたくないと生まれて初めて思った。


 もし死んでしまうとしても、ただ最後に、最後にひとつだけ言わせてくれませんか。



『……結局、、最後までおにぃちゃんと呼んであげられなくて…………




























 。』

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