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魔法学院編 第11話 完全な傀儡。

 時は少し遡り、魔法大会の出場者決めでインドートとラムの試合が開始する。


 相手はラムという人間で、見た目からはそこらにいる凡人にしか見えない。


 それでもAクラスに所属しているのだからと、私は自身の固有能力を使い最低限の注意力を心に抱いていた。


 そして、この試合の審判が開始の合図を口にする。


 その瞬間、ラムという人間が風と水の複合魔法を数発撃ち込んでくる。


 私は良い判断だなと思いつつ、その攻撃を難なくかわして固有能力を発動した。


【誤認識】


 この能力は、文字通り他者に自身を認識しにくくさせる力だ。しかしある個人を対象に発動すれば、認識させない────いわゆる透明になる事だってできる。


 足音も気配も全て、あるはずなのに認識する事ができないようになるのだ。


 上からの命令でアリアネーゼに来たインドートは、その力を使って他者からの認識を常時薄れさせて任務を簡単に遂行していった。


 しかしこの能力には弱点もある。


 今回のラムのように、何かきっかけが有れば全体に発動している【誤認識】の効果が薄くなってしまうのだ。


 だがそれも、ラムという人間が負けてくればそれで良い。私の存在など、すぐに『認識外』となるだろう。


 能力を発動した私の姿は霧のように消えていき、ラムは私の全てを認識する事ができなくなっているはずだ。


 だが、どこか不安だ。


『初めて見る者は皆、この能力に驚きを露わにするはず。』


 しかし、この人間にはそんな表情が一切無かった。


 それでもこの能力に誇りを持っていた私は、気にしすじだとその人間の元へ向かう。


 そしてラムの近くについたインドートは右の拳を振りかぶり、彼の鳩尾(みぞおち)に打ち込んだ。


 その瞬間、ラムという()()から血の気も引くような殺気を当てられる。


『この殺気、明らかに人間のものじゃないッ……』


 そしてラムという『何か』は、インドートの打撃は効いていないと言わんばかりの無表情で言葉を口にした。


「来い」


 そう言うとラムの体は私の攻撃で数メートル程飛んでいき、そのまま職員達に医務室へと運ばれていった。


 私の体は異物からの殺気に対して拒否反応を起こすように、一筋の汗が伝っていた。




 ーーーーーーーーーーーーーーー

 『今日から俺は、魔王となる。』

 ーーーーーーーーーーーーーーー




 インドートとの戦いにより気を失ったフリをした俺は、医務室のベッドで横になり、近づいてくる気配に意識を向けていた。


 時間は深夜、医務室にいるのは俺を含め怪我をした生徒数人だけである。


 そして夜の時間帯は俺のような生徒が医務室にいる以外は、原則クラスの管轄外に出ては行けない。


 そんな中、近づいてくる気配が俺のベッドの前で止まる。


「言われた通りに来たぞ、魔王。」


 俺は閉じていた目を開け、声を発した人物────亜人の方へと顔を向ける。


「よく来てくれた、インドート。」


 魔王と認めるような形で、俺はそう言葉を返した。


 インドート=ナチス。認識させない能力を持つ亜種。


 魔力量もそこそこあるが、何よりその肉体から発せられる雰囲気(オーラ)は間違いなく実力者であろう。


「周りには聞こえないようにした。用件を話せ」


 インドートは臨戦態勢を取りつつも、俺にそう声を発した。おそらく俺と彼の認識を薄れさせているのだろう。


「お前の目的は、この学院の魔法実験の真相を調べる事。」


 俺がセキルアに流させたデマを口にすると、インドートは警戒した様子で「その通りだ」と肯定した。


 このデマは、他国の工作員にわざと流させた情報だ。真偽など元よりあろうはずがない。


 しかしインドートの肯定は、要するに真反対に生活圏を持つ亜種がその情報を得ているという事にある。


 亜人大陸は広いとされている。地図もないので確証はないが、ある本に予測としてそう書かれていた。


 それと同時に、人間のように数多な国があると予想されている。帝国が亜人を奴隷に取ったのも、数百体程度の亜人の為に遠い人間の国まで動くはずがないという予測の上である。


 しかしインドートは、人間大陸で流した情報を持っていた。それはおそらく亜種が人間の国にインドートのような工作員を潜らせ、あわよくば侵食しようとしている証拠だろう。


 配下達(あいつら)に任せている調査に期待しておこう。


「それで、用件はなんだ?」


 黙っている俺に対して、インドートは急かすようにそう言った。


 急かすのもそのはず、潜入中のインドートは俺を殺す事を避けたがっている。もし死体が出れば、誰か生徒が行方不明になれば、間違いなくアリアネーゼの警戒度は高まるだろう。


 それは工作員にとって、最もやりにくいからに他ならない。


 しかし、それは俺も同じ。そうインドートは確信しているからこそ、ここまでやって来て警戒するだけに留めている。


『それがお前の失策だったな』


 俺は心の中でそう呟いてから()()に合図を送る為、ほんの少し右手を上げる。


 するとインドートの背後から現れた()()()()()が、一瞬にして彼の鳩尾に殴り入れて彼の意識を失わさせた。


 意識を失ったインドートの体は、そのまま崩れ落ちるように倒れそうになる。


 それをフテューレは髪を鷲掴みにして支え、ラムの目前へとそっと置いた。


 それを見ながら、俺は小声でフテューレに命令する。


「やれ」


 その言葉にフテューレは頷き、腰からネフィルの作った『支配の眼球』を取り出す。


 そしてインドートの眼球を抜き取って、代わりに取り出した『支配の眼球』を埋め込んだ。外した眼球は、『支配の眼球』の入っていた液体入りの箱にしまう。


 瞬間、インドートの意識が覚醒する。


 糸で釣り上げられた人形のように彼の体は起き上がり、少し変な動きをしたかと思うと、ベッドに座っている俺に向けて平伏をした。


 その様子に満足しながら、俺は本題に入る。


「質問だ。嘘偽りなく答えろよ。」


 そんな俺の命令にインドートは、先程と全く変わらない声色で返した。


「わかりました」



















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