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平民編 第3話 不穏な日常。

「んにゃぁー」


 私は背伸びをしながら目を覚ます。いつもだとお兄ちゃんの声で起きるのだけど、と思ってお兄ちゃんを見てみると今日はお寝坊さんのようだった。

 私は兄の寝顔を見る。

 お兄ちゃんの顔を見てると、いつも考えてしまう事がある。肌の色が小さい頃よりも白くなっているという事に胸が苦しくなる。


 私のために働いてくれているお兄ちゃんへの感謝は言葉とかいう小さなものでは表せない。そう考えているのに、私はいつも言葉だけの感謝しかしていない。

 寝ているお兄ちゃんの表情が強張っているのに気づいた私は、その頭を優しく撫でる。


「本当にありがとう、お兄ちゃん。わたし絶対頑張るからね。」


 その後、お兄ちゃんは撫でているのに気づいたのか体が動いたので、私は鍛えた身体能力を活用して撫でていた右手を瞬時に戻した。

 そして誤魔化すかのように「お兄ちゃん、おはよ!」と笑顔を浮かべて言った。


「…ん、シュリ」


 少し掠れているけれど、優しい声。私の大好きな声。

 それからお兄ちゃんは慌てた様子で朝食の準備をしていた。焦っていても、効率的に動けるのだからお兄ちゃんは凄い。

 そんな事を考えながら私は、朝食を作ってくれている間に服を着替えておく。この服もお兄ちゃんが精一杯働いて買ってくれた私の宝物だ。

 それから机に戻ると、遂さっき起きたはずなのに、すでに朝食が置かれていた。

 他の人から見たら料理などと大げさなものではないとは思うが、黒パンと卵の朝食は私たちにとっては豪華すぎるものだった。


 それから私は、またお兄ちゃんの席に料理が置かれていない事に気づいて目を細める。

 それに気づいたのか、「あとで食べるから大丈夫」と優しい笑顔をしながらそうら口にした。


 私は私の事を第一に考えてくれている兄の愛に頼りきってしまう部分がある。

 一度、お兄ちゃんに食べるように言ったが「力をつけるためにも食事は必須」と言われてしまい、本当にお兄ちゃんはご飯を食べられているのか不安になる状況が続いていた。


 だけどそんな話はここまで。これまで力をつけて勇者の騎士になりたかったのは、最初は小さい頃のよくある夢だったけど、今はお兄ちゃんにこれまでの恩を返したいという願いだけだった。


 今日の勇者召喚の儀式から私は戦場に送られるだろうし、お兄ちゃんと会える時間も減ってしまうのは辛い。

 しかし私はそんな自分の辛さよりも、私のせいで失ってしまったお兄ちゃんの時間を取り戻して欲しい。


「そのためにも、絶対に頑張る!」


 私は食事を終えると同時にそう意気込みんで、その言葉に付け足すように「魔王を倒したら昔みたいに…」と自分にしか聞き取れないような大きさで呟いた。

 そして私は「行ってきます」と元気良く言ってから家を出て行く。

 直後に背後からのお兄ちゃんの暖かい声援が聞こえて、周りから少し冷たい目で見られているが、私は『どうでもいい』と割り切って、勇気に満ちた笑みを浮かべながらクレセリアの王城へと歩みを進めた。


 それから王城に到着すると、ひとりの騎士が私の方へと歩いてくる。彼は真っ白の装備を着ているのにも関わらず、その肌は真逆の黒さをしていた男。

 彼は剣さクレセリアの中で最強の一角とされている剣士であり、二人いる聖騎士長のうちの一人であった。


「シュリ様ですね?」


 そう聞いてきた聖騎士に対して、シュリは隠しきれない彼の圧を耐えながら丁寧な口調で応える。


「はい、そうです。」


「了解致しました。それでは召喚の間へご案内致しますので、着いてきてください。」





 ◼️◼️◼️






「そろそろ僕も仕事に行かないと」


 シュリを見送った僕は服を着替えて、隣のパン屋へ向かう。


「おぉヲルかい。また朝食べなかったんだろ。丁度パンが焼きあがったんだ、ほら」


 店の中に入ると、恰幅(かっぷく)の良いおばさんがそう言いながら、僕にパンを渡す。おばさんは夫と二人でパン屋を営んでいて、お金も住むところもなかった僕達に仕事を与えてくれた心優しい人たちであった。

 僕はすみませんと一言入れてからパンを一切れもらい、厨房にいるおばさんの夫であるおじさんに挨拶をしてから仕事を始める。

 内容は単純で、指示された通りに動いて時々接客をすればいい簡単な仕事だ。この仕事は一年程続けているので、ただの作業感覚で大体終わる。


「あ」


 しかし僕は初めて、運んでいたパンを地面に落としてしまう。

 それを見たおばさんは初めての失敗に少し驚いたような様子で、「もう何してるの!」と少し強めな口調で怒鳴る。


「すみません。」


 僕は頭を下げてから落としてしまったパンを処理し、深呼吸をしてから仕事を再開した。それからは特にミスもなく仕事を終える。

 帰る直前におばさんから「なんかあったか?」と心配の言葉をもらったが、夢について考えてたなど言えるはずもなく、「なんでもありません」と返してヲルは店を出る。


 家に戻った僕は真っ暗な空を眺めつつ、妹が何時に帰るのか聞きそびれたのでご飯を作っておくべきかを考える。結局、明日の朝までは腐らないと思い貰った黒パンと余っている卵と野菜で一人前のご飯を作っておく。

 まぁご飯といっても、パンをお皿に置く。野菜を切って皿に乗せる。卵は帰ってから作る事に決め、今準備したのはそれだけなので時間にして五分もかからない。


 それから僕は椅子に座って、何も考えず天井を見つめる。

 特にすることもない僕は自然に入ってくる外の雑音に意識を向け、汚い人間の声を聞いていた。ここは治安が悪い場所なので、雑談や笑い声、だれかの怒号も日常的に聴こえてくる。


「助けて」


 数多く聞こえる雑音の中、僕はその声を正確に聞き取る。その方向は入口の反対側、裏路地の方向だ。それから適当に何も考えないでいると、先程聞こえてきた助けを求めていた声が、悲鳴と喘ぎ声に変わっていく。


 こんな事が日常的だからこそ、小さいとは言え僕とシュリが安値で一軒家を持てた理由であった。

 この声を妹に聞かせるのは辛いが、この物件を持ってきたのはシュリ本人だった。

 ここに来るまでの旅の途中で、シュリも『生きていくため』という大義名分を覚えてしまったらしい。


 そんなつまらない事を考えていると、時計が二つの針が十一の数字を指していた。そこでようやく僕は、シュリが昨日の夜に言っていた言葉を思い出す。


『そういえば、王城に泊まるかもしれないとか言ってたな。』


 僕は妹のいない事に多少の孤独を覚えつつ、これからこの孤独感が続くと思うと吐き気がしてくるのを感じる。僕はなんとかそれを押し殺して、そのまま椅子に座った状態で眠りについた。早くシュリに会いたい。





 ◾️◾️◾️





 次の日の朝、王国の兵達が僕の家にやって来る。

 僕は玄関の方向から兵の声が聞こえるのに気がつくとすぐに扉を開け、そうすると兵が数人家の玄関までやって来た。

 その中には前に見覚えのある一番豪華な装備をしている男、確か彼はルーティに専属護衛の男もいた。


 僕はルーティに自分の存在がバレたのかと思い「なんでしょうか?」と尋ねてみる。しかし彼から返ってきた言葉はそんな事ではなく、僕が一番考えたくない事であった。


「君の妹であるシュリ=オルロドルだが、勇者の指示に従わず勝手に戦闘を挑んだ為に魔物に殺された。」









「……は?」





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