魔法学院編 第9話 命の色。
10万文字突破ありがとう!!
「それで、何か用です?」
俺は模擬会場に亜人とオールバックが出てくるのを見ながら皇女に向かって問いかける。
それに対して皇女は、先のような真剣な瞳を向けて口を開いた。
それと同時に、ファルの試合開始の合図が被る。
声量はファルの方が断然大きいのに、俺の耳は彼女の声だけを精確に聞き取った。
「魔王様に、ひとつお願いがあります。」
その言葉に俺は、静かに臨戦態勢を取る。
「なんだ?」
認めるような形で俺が問いかけると、彼女は目の前で行われている模擬戦に視線を持っていきながら答える。
「私の瞳は、命の色を映すんです。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
『今日から俺は、魔王となる。』
ーーーーーーーーーーーーーーー
今から数十年前であるユーラリア帝国は、十五代皇帝が独裁的に支配していた。
信じるものは血筋のみ。
後継者を作る為に実の妹を妻に取るほど、慎重で血筋を大事にする男であった。
その頃の帝国は周辺国家を着実に侵略し、彼の代だけで十分大きかった帝国の領土は倍近く拡大された。
しかしそれを近くで見てきた第二皇子、後の十六代目皇帝は思う。
『この方法では、いずれ崩壊する。』
彼が四歳の時の事である。
彼は類稀なる頭脳を使って、城に保管されている本をひたすら読んだ。
血筋を信じている父は、その様子を見て誇らしく思っていたらしい。
そのお陰で彼は、十七歳の時に帝国を自身の手に収める作戦を完成させる。
これこそが後に語られる『帝国革命』であった。
俺は模擬戦を見ながらフェンティニーヌの言葉を待った。
「そして十六代目皇帝は十五代目皇帝を含めた主力達に薬を飲ませ、皇城の地下にある牢屋に閉じ込めました。私が二歳の時のお話です。」
前に帝国へ行った時に読んだ本では、十五代目皇帝の突然死によって十六代目皇帝が皇位に付く。そして十六代目皇帝は残った主力達が皇位を乗っ取る事を恐れ、暗殺や無力化をしたとされている。
これが俺の知っている『帝国革命』であったが、どうやら闇は深いようだ。
「それからお父様は、私の兄が成人になるまで帝国を統治しようとしました。しかし毒を盛ったのは漏れてないにしても、軍師や隊長が同時に消えたこともあり、平民の不安は高まりました。そしてお父様は、事故による突然死という形で私の兄を十七代目皇帝に即位させました。」
それを聞いた俺は、いくつかわからない事があった。
「聞くが、その言い方だと十五代目と十六代目は死んでないように聞こえる。」
その言葉に彼女は、半分正解ですと答える。
「私のお爺様は死んでいません。正確に言うならば、殺す事ができないので無力化させているといった感じです。」
「どういう事だ?」
「お爺様は慎重なお方です。先程は血筋を信頼していると言いましたが、その肉親達にも自身の能力で縛りを加えています。その能力は【特権】といい、『味方』で『自身より下の位』に位置する者に制限をかける能力です。」
そこで俺は、ラキネの固有能力を思い浮かべる。
彼女の能力は、与えたダメージに比例して相手に命令を与えるというものだ。
それに比べて十五代目皇帝の能力は制限が手厚い分、おそらく永遠と行動を縛るのだろう。
「殺させないように制限でもかけているのか。」
「はい。そしてお父様は、帝国の騎士にお爺様を殺せと命じた途端にその騎士と共に死にました。なので、突然死というのはあながち間違いじゃありません。おそらく、帝国の人間はお爺様が生きている間、その『縛り』を背負い続ける事になるのでしょう。それと毒を仕込んだ時に発動しなかったのは、命に関わるものじゃ無かったからのようです。」
この話を聞き、俺は納得した。
例え主力である部隊がおらず、森の守護者と言われる強力な魔物を使ったとしても、帝国程の大国が生まれて間もない魔王にやられるのは不可解ではあった。
ラキネを捨て駒に使う事も視野に入れての作戦が、結果はなんの損害もなく成功だ。
改めて考えると、ただ幸運だっただけかもしれない。
しかし俺は心の中で思う。
過ぎた事はどうでも良い。
「それで、帝都を壊した俺に何を願う?」
その質問に対して、皇女は再び語り出した。
「私は生まれつき、命の質を色にして見る事ができます。あなた様が魔王様であるとわかったのも、その為です。」
厄介な能力だ。
「お爺様を見た時、私はまだ二歳でした。しかし、あの色はとても忘れられなかった。なので私は父が死んだ直後、お爺様の元へ向かおうとしました。しかし父の側近であったアイザック達が見張っていた。私程度では、どうしようと侵入する事はできませんでした。」
「そんな時に、俺が帝都を攻めたのか。」
「そうです。いつもはいる見張りも駆り出され、私は真っ先に地下へと向かいました。そして、そこでお爺様に頼まれたのです。」
『ほぅ、お前はあのデクの棒の娘だな?』
「お腹に黒い楔を打ち付けられた状態で、私の顔を見てそう言いました。」
『魔王が復活したのか。フェンティニーヌ、俺達を縛っている楔はお前の父がアリアネーゼから仕入れてきたものだ。闇の魔力を使って作られてやがる。これのお陰で歳はとらねぇが、何もできねぇ。俺が縛っていない所を上手に突きやがった。上の騒動が魔王なら闇を操るとされているそいつに解かせるに越した事はねぇが、もし間に合わないならお前にアリアネーゼへ行って、闇の魔力を使える奴を連れてきて欲しい。』
「そしてお爺様は、頼んだぞっと言われました。」
段々と見えなかったピースが揃っていく感覚を覚える。
シュリの為に来たアリアネーゼだが、得られるものは多そうだ。
「そしてその願いを叶える為にきたのですが……」
そこでフェンティニーヌは決着の着きそうな模擬戦から視線を逸らして俺の方へ体を向ける。そして不審に思われない程度に頭を下げながら、感極まった口調で言う。
「お爺様をも超える、魔王様の純粋な白色に心惹かれました。どうかこんな無力な私を、あなた様の物にしてください……!」
その雰囲気は、まるで興奮したネフィルにそっくりだった。希望の光を見つけたような瞳は、本当に純粋で美しい。
だから俺は彼女と初めて出会った時に、瞳の美しさが気になったのかもしれない。
俺は優しい笑みを浮かべて、彼女に言葉を返す。
それと同時に、ファルが終了の合図を出す。
勝敗はオールバック、フェイの勝ち。彼も指を数本痛めてはいるものの、負けた亜人はそこそこの怪我をして気を失っている。
魔力以外の力を使っていた様子はない。
俺は彼の強さを脳に留めて、ファルの指示の元クラスルームへ戻った。
フェンティニーヌのお陰で、この学院と帝国を一度に手に入れられそうだ。
膨らんだ妄想に、自然と不敵な笑みが浮かぶ。
ただ、唯一気になるのはフェンティニーヌの言ったあの言葉。 俺の命の色である。
全身を覆う黒に、相反する白の内面を持つ男。それはまるで、あの時の夢に現れたアイツと全く同じ境遇であった。
そう。一ヶ月前の【魔王城】を発動した時に見た、現実味のある夢にいた男と────。




