魔法学院編 第7話 クラスメイト。
魔法学院アリアネーゼの中心に位置する魔導塔。
そこはこの学院で唯一、先生を含めた学院関係者のみしか立ち入る事のできない場所であった。
その最頂部に位置する学院議会室で、例年の如く始業式の手筈をするからと全先生に召集が掛けられる。
そんな学院議会の中には大きく縦長な机がひとつと、数十もの椅子が並んでいる。
そしてその椅子の上には、序列で決められた順に先生達が座っていて、いちばん奥の椅子には白い髪と髭をみだらに長く伸ばした学院長先生が腰を下ろしていた。
学院長先生の隣で立っている茶髪に眼鏡をかけた男は、全員が座ったことを確認してから口を開く。
「お待たせしました。まず最初に、今年の新入生に関して報告します。今年は全校生徒が百二人と去年よりは少し多いようですが、さほど変化はありません。しかしAクラスに配属された人数が十一人と、例年の二倍でした。」
Aクラスの人数を聞いた途端、手前側に座っていた緑髪の男が口を挟む。
「俺たちが来た時と同じ人数か。」
そんな意味深な言葉に対して、しかし眼鏡の男は落ち着いた様子で返す。
「えぇ、二回目の過去最高人数です。」
今度はそれに対して、先程割り込んできた男の隣に座っている女が会話に割り込んでくる。彼女の容姿は先の男に何処か似ていて、髪に関しては全く同じ緑色の髪を長く伸ばしていた。
「前みたいに他の国が工作員を送ってきたってこと?」
この言葉に対して、驚きを露わにした先生は一人としていなかった。ここにいた誰もがその可能性を理解していたという事なのだろう。
しかしその可能性を、眼鏡の男は平然とした様子で認める。
「そう思って調べてみたところ、帝国の人間とクレセリアの人間が来ている事が確認できました。残念ながら、他の人間はわかりませんがね。」
それを聞いて何か納得したのか、女はつまらなさそうに爪をいじりながら適当にこの話を終わらせた。
「へぇ、よく来るね。まぁ関係ないけどさ。」
その言葉に意識を向けることなく、眼鏡の男は言葉を続ける。
「という事で、ニリルが言ったように去年と変わらず問題なしです。それでは開会式の手順は今まで通りとして、次にクラスの担任を学院長より発表して頂こうかと思います。学院長、お願いしますね。」
爪をいじり出していた緑髪の二リルも含めて、周りの先生達の瞳が一瞬にして真剣な色へと変化する。
「まず、Aクラスの担当から発表します───。」
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『今日から俺は、魔王となる。』
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この学院のシステムは、帝国から奪ってきた本で大体理解していた。
俺はこれからある始業式の為に、制服へと着替えながらこの学院のシステムを振り返る。
この学院に入学する方法は、生徒としてしかない。
もちろん例外はどこにでもあるが、それは国の使者の場合なのであえて触れる必要はないだろう。
その生徒として学院に滞在できる期間は、基本的に言えば無限だ。
止める方法はいくつかあって、六年間の学びを得た人間が帰国する『卒業』や、途中でやめる『中退』の二つが基本的だろう。
しかしこの学院には、『やめさせられる』というシステムは無い。
そして『卒業』する人間は、それと同時に学院に残るという選択肢も与えられる。
残る場合には先生や魔法研究をするなどと何かしらの労働は決められるが、それでもこの学院の環境下からしたら安すぎるものだろう。
そして最後に、この学院の教訓だ。
『魔法使いは平等である』
準備を終えた俺は、クートルを待ちながら学院のシステムを振り返っているとクートルは慌てた様子で制服に着替えている。
「ラム、もう集まる時間だよ!行くよ!」
俺が遅れていたようになっているが、お前が寝坊したんだろ。
彼はそう言い終えると制服である魔女帽子を頭に被り、俺の右手を取って部屋を出た。
そして数メートル先の集合場所であるロビーの中へ入る。すると今の俺より少し濃い茶色の髪をした男が、吹き抜けになっているロビーの二階部分から怒りを口にする。
「おせぇよ、人間」
頭に左右と耳が出ている事から、何かしらの亜人なんだろう。隣にいるクートルはビクビクして期待できそうにないので、俺が言い返そう口を開く。
しかしそれよりも早く、ロビーの椅子に座っていた金髪のオールバックが俺達の代わりに応戦する。とても落ち着いた声だった。
「たった数分だろ?」
背丈は俺と同じくらいで、細身に筋肉質な肉体をしている。
「あぁ?」
そんな彼の言葉に気分を害したのか、亜人はそのオールバックを見下ろしながら殺気を出す。
「なんだ、その殺気は?」
それに対してオールバックも、目を細めながら殺気を放ち返す。
そんな状況の中、当事者である俺はロビーの中にいるクラスメイトを見ていた。
俺の魔眼で、簡単にどれほどの力かを確認する。
ここにいる男子生徒は俺を含めて六人。
クートルを除いて、これと言って有り得ない魔力を持っている奴はいなかった。アリアネーゼに到着した時に見た皇女の騎士もそこまで大した事はない。
しかしオールバックの人間にはある程度、面白いものが見えた。
魔力とは別に忌々しい力を内に持っている。おそらく修練によって獲得したモノなのだろうが、特に注意しなければならない程の力は秘めていないようだ。
全員の魔力を確認し終えると同時、ロビーまで案内してくれていた男子生徒が始業式の会場を案内する為にロビーへ迎えにくる。
そしてこの状況を見てため息をつくと、呆れた様子で口論している二人に向けて警告を口にした。
「ここの物壊したら罰があるので注意して下さいね?」
その言葉を聞いて、一人興奮していた亜人は歯軋りをしつつも引き下がる。
「それでは、ついて来て下さい。」
俺たち六人はその言葉に従って、ロビーを後にした。
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開会式は新入生全員が入るスペースの巨大な食堂で開催された。
生徒用に三列と縦に長い机が置いてあり、先生用には最奥に横で長い机が置かれている。そんな机の上には、生徒と先生に優越なく豪華な食材が置かれている。
どれくらいの食事かと言うと、クートルが咄嗟に「ラム、なにこれ豪華すぎない?」と目を白黒させるくらいには豪華である。
そして食堂の中央の机の前の方、学院長が座る椅子の正面の席に俺たちは座る。
それから数分程クートルとつまらない会話をして待っていると、俺たちが入ってきた出入口とは違う場所から先生と呼ばれる人間達が入ってくる。
俺はクートルとの会話を自然に中断させ、クラスメイトに行ったように魔眼の力を発動させた。
全員、そこそこの魔力量は持っていた。
帝国にいたセンツ程度の魔力のやつもいれば、今のフテューレを超えるやつも数人だが存在している。
そうやって俺が適当に評価をつけていると、一分も経たないうちに全員の先生が席へと座る。
そんな先生の登場で必然的に無音となった食堂に、布が擦れる音と一人の足音が響いた。
唯一空いているのが学院長の席というのもあって、入ってくるであろう学院長に生徒たちの緊張感がひしひしと伝わってくる。
先生が出てきた出入口から、一人の老人が出てきた。
生徒よりも長い黒のローブに、しわのある魔女帽子からは年季の入った白い髪が腰に付く程に伸びている。頬には皺が刻み込まれており、服さえ変えてしまえばお爺ちゃんとして通ってもおかしくはない。
学院長は自身の席の前まで行くと口を開ける。これと言った貫禄もないような、優しい声が室内に響く。
「新入生の諸君、よく来てくれた。」
俺は魔眼を発動させ、一番注意していた学院長の魔力を確認する。
「この学院は、魔法を使う者全てが平等である。」
先生の中では一番多いようだが、想像していたよりは少ない。もちろん高く見積もった気ではいたが、クートルを見た後だと少なくも見えてしまっていた。
「そして、ここに来たからには安全じゃ。」
だが、それでも油断はできない。
「おぬし達が正しい道へ進めるように」
俺は学院長の紺色の瞳を見て思う。
「全力を尽くしていくつもりじゃ。」
何か、無性に腹が立つ。
「楽しい学院生活を送ってくれる事を」
嘘を言っているようには見えないのに……
「わしは祈っておる」
この苛立ちは、なんなんだ?
コロナウィルスの関係で、小説に取れる時間が伸びました。
なので構成の練れている部(7話程度)を3日毎に更新していこうかと思います。
詳しい内容をご確認されたい方には、お手数ですが活動報告までお願い致します。
平穏な学院生活は長く続きません。
これから数話を経て、この編でも急展開に物語が進んでいきます。
是非、お楽しみにお願いします。
3日更新の間、保存版という形で後書きは残しときます。
/常夏瑪瑙
宣伝兼更新告知:@tokonatu_01




