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魔法学院編 第6話 あり得ない男。

 あれから移動担当の先輩生徒は無視するという形で、俺や金髪姉妹達をAクラスの宿泊棟に連れて行った。

 位置としては評価が高いという事で中心街に近いようで、立地としては生徒の中でも最も上と言えるらしい。

 Aクラスの宿泊棟に入るとまず、大きな休憩スペースが広がっていた。その設備は帝国の貴族階級と変わり無いと言えるほどに整って見える。


 俺の瞳に冷たい感情が宿る。


 それから道案内の生徒は男は右、女は左と俺たちを分ける。


「これが部屋番号です。それと明日は始業式ですので、朝の八時に書かれた身支度を整えてここに来て下さいね。」


 道案内人はそう言うと部屋番号の書かれた紙を配る。

 貰った俺は、フテューレと分かれて自身の部屋を探した。

 俺が紙に書かれていた番号は、最奥の部屋である204号室。それを確認し終えた俺がその部屋のドアノブに手をかけると、後ろから声が聞こえる。


「あ、俺と同じみたいですね!!」


 後ろにいたのは、ありえない量の魔力を秘めたマッシュの男だった。

 二人一部屋とは聞いていなかったが、おそらく今年の入学者が優秀だったから部屋が足りなくでもなったのだろう。

 俺は優しい笑みを浮かべる。


「そうみたいですね!よろしくお願いします!!」




 ーーーーーーーーーーーーーーー

 『今日から俺は、魔王となる。』

 ーーーーーーーーーーーーーーー




 部屋も休憩スペースと変わらず豪華な作りになっていた。

 勉学に集中するためか机と椅子が二つずつ置いてあり、寝るための二段ベットにはもふもふの布団と毛布や枕がしっかりとある。これ程の設備が全生徒均一と魔王になる前の俺が知れば、ありえないと全否定すること間違いないだろう。


 マッシュくんより先に部屋に入った俺は、奥の机に荷物を置く。椅子の上には、この学院の制服が置いてあった。それを見たマッシュくんは、その場の雰囲気でもう片方の机へ荷物を置いておどけた笑みをしながら口を開ける。


「それにしても、まさか僕がAクラスに行けるとは思っても見ませんでしたよ!」


 その魔力でよく言えるな。


「そうです?」


「うん、そうだ…ですよ。だって僕、初級魔法しか使えないですし…」


 それを聞いた俺は、驚きと同時に納得する。


 魔眼で彼の魔力を見た時、『ありえない』という()()()を感じた。

 当初は、俺の価値観の違いかとも思っていたが、落ち着いて考えれば簡単な話だった。

 こんな()()()()()が、あんな魔力を使い(こな)せる筈が無いんだ。

 例えば勇者や聖王は特別な人間だ。当たり前な話だが、その他の才能ある人間もそれを可能とする可能性を身に秘めていなければならない。

 しかしコイツからは、膨大な魔力()()がただの人間そのものにしか見えない。というより、俺の魔眼からはそうとしか考えられない。まるで、上から膨大な魔力を取り付けたような感覚を覚える。


 要するに、この膨大な魔力は自身の魔力では無く後から付けられたものだという事になる。だが、その膨大な魔力はまだ()()()()()()。そんな事より……


 俺はそれよりも重要な事に気づき、一筋の汗が頬をつたる。


 ……()()()()()()()()()()()という所だ…!


 膨大な魔力に隠れている訳でもない。その程度で俺の魔眼を誤魔化せる筈が無いのだ。

 最初に出会った時にフテューレと俺が勘違いしたのもそのはず、あらゆる生命は微弱だとしても自身の魔力は持っているものだ。

 だからこのマッシュの膨大な魔力が、彼自身の魔力だと思ってしまっていた。

 しかし違った。


「ありえない」


 つい口にしてしまった呟きが聞こえたのか、その彼は不思議そうな顔をする。

 俺もその事に気づき、誤魔化すように笑みを作った。


「名前、そういえば聞いてませんでしたね。俺はラムです!」


 それを聞いたマッシュは、ハッとした様子で質問に答えた。


「クートルアンと言います。僕、敬語とか苦手で、砕けた感じで話しません??」


「俺も苦手だし、そうしよう!!」


「うん!そういえば近くにいた女の子は彼女だったりするの?」


 目が髪に隠れて見えないせいで、口のニヤニヤがやけに目立っている。俺は普通の人間に見られるように、照れたような仕草をして否定する。

 それから俺とクートルは夜まで、つまらない話をしながら彼の秘密について模索した。

 しかしクートルは小さい頃の記憶を無くしているらしく、今自分が何歳なのかすらわからないらしい。

 そして記憶が復活してすぐの生活や場所について、彼は一切話すことはなかった。

 ただ分かったことといえば、彼の下の名前と生きていく為にこの学院へ来たことくらいだ。

 収穫が少なかったが、彼の信頼は少なからず勝ち取れたし、俺の姿を隠すという意味では役に立つ。


「明日も早いし、そろそろ寝る?」


「そうだな!なら、俺が上で寝るよ。」


 それを聞いたクートルは、もじもじとした様子で口を開く。


「あのさ、僕、上で寝ていい?」


 二段ベットにどこか興味でもあるのか、俺は断る理由もないので「いいよ」と笑みを作って言った。






 明日、学院生活が本格的に始まる。

 今日だけで注意すべき存在の四人と出会った。その内の三人は確実にAクラスになっている。

 恐らく、俺の振り撒いた種によって明日わかるクラスメイトの中の殆どが注意すべき存在となるだろう。


 もし魔王だとバレてしまえば、一瞬で俺は殺されてしまう可能性が高い。


 だが、恐怖は無い。


 ただ、ここならば()()()()()()()()()という期待が胸の内を支配する。

 薄れた感情の中で、タングラスの謎よりも、のうのうと生きている奴を潰すよりも、勇者を殺すよりも、俺にとっては重要なコトだ。





































 シュリ、必ず─────




























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