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魔法学院編 第1話 開始地点。

 あれから一ヶ月と十日が過ぎた。


 生命創造に要した時間は五日程度だったので、最後に繭から出てきたラキネはあれから十日が経った後である。


 それからの三十日間で魔王城の防衛の全容は決まり、今では一応だが体勢は整いつつあった。


 そして謎に包まれていた生命創造は、生きている者に使った場合でも、そうでない場合でも問題なく発動した。


 種族を変えるという形で全能力を引き上げ、追加で特殊能力を与えられている。


 そして一から創った場合は特殊能力がひとつだけしかないが、その代わりにそれぞれ良い特性を持った者が生まれている。


 そうして、何事もなく合計()()()の強力な配下が誕生した。


 ラキネが生まれてからの二十日間では、生命創造で誕生した配下と帝国から奪ってきた奴隷達を使って秘境全体の改革と魔王城の防衛についてやらせている。


 防衛に関してのシステムの構成はラキネや俺も参加しているが、それ自体の設計をしたのは生命創造によって逸話に出てくる種族の『ドワーフ』となったレアリルだ。


 そしてもう一人活躍を納めたのが、同じように生命創造によって幻の種族となった『ダークエルフ』ルールである。


 彼女の特殊能力である【死者操作(デゾーグブル)】は死体を動かすというだけではなく、死したあらゆる()()を操る能力であった。そして、一旦操ったものは永遠と彼女の傀儡(くぐつ)となる。


 それだけでも十分活躍できる性能だ。


 しかし彼女が新たに手に入れた特殊能力が、その力をより強力なものにしていた。


生命(ヴィダ)


 生命の力を与える能力である。


 例えば植物に向かってその力を使うと、その植物はたちまち成長していき枯れていく。しかし枯れきったとしても、その植物はルールの支配下にあるのだ。


 植物は枯れると灰のようになって消えてしまうから意味は少ないのだが、人間や亜人は違う。


 死に方にもよるが腐るのには時間が掛かるし、【生命(ヴィダ)】を使えば肉体の艶は戻り、正確な指示をする事もできる。


 要するに、無用になった死体も、ルールにとっては体が壊れるまで永遠と命令を遂行する駒へと変える事ができるのだ。


 ここまで正確に特殊能力がわかっているのは、ラキネが繭から出るまでの五日間で秘境を出てすぐの森の動物を使って実験させた結果である。


 因みにそこで殺された実験体達は、今ではしっかりと労働力としてレアリルやラキネ達の命令の元働いている。


「おはようございます、ヲル様。」


 俺は玉座の奥にある小さな自室から出るとすぐに、人の状態となったラキネがヒラヒラの服を着て出迎えてくる。


 この服もレアリルが創った戦闘用にもなる服らしく、何故こんなにも薄いのかは興味もないし聞いてもわからないのでレアリルに一任させている。


「ああ」


 俺はそう言いながら、ラキネの隣にある黒く禍々(まがまが)しい玉座に腰を下ろす。


 ほとんど毎日取っている朝食を取らないのは、今日がラキネが繭から出てきて丁度一ヶ月という事で命令しておいたいくつかの任務の報告が上がる日だからに他ならない。


 ラキネは俺が玉座に座って右手に顎を乗せるのを確認してから、上がってきた情報の報告を始める。


 彼女は今、生命創造によって生まれた配下達の統括という位置付けなので彼らの行動を全て把握させている。それを毎朝、俺へと報告するのが日課のようなものになっていた。


「秘境付近の森を全て探索させましたが、人間や亜人の姿は見えず。謎の妖精と出会った村も見つかりませんでした。そして森にいる生命体は今もロルトュとルールが傀儡に変える作業をしています。」


 ロルトュとは、生命創造によって造られた内の一人だ。


 最弱の魔族とされているスライムであるが、しかしその力には底がないと言える。一言で言うならば、この中で最も器用な配下であろう。


 ラキネは一区切りをつけるように間を開けてから、報告を続ける。


「レアリルは、変わらず魔王城の設備を作っているようです。それと彼女より、ヲル様の命令されたものは完成していると伝言をもらっております。」


 そこらの知識が無いので早いか否かは不明だが、タイミングとしては丁度良い。


「その他の配下達も、変わらずに命令通り働いています。」


 ここてろ再びラキネは、区切るように言葉を止める。そしてこれが本番だと言わんばかりに間を開けてから、言葉を続けた。


「帝国に潜入させていたセキルアからの報告です。」


 ラキネは右手に持っていた紙を開いて、そこに書かれた文字を読む。


 何故先までとは違い紙を読んでいるのかというと、連絡方法がセキルアの能力で生み出した鳥に紙を括り付けて報告するというものだからである。


「中心部にある帝都はおおよそ復興され、(たみ)の絶望の表情が薄れつつあります。しかしそれに比べて兵のほとんどは絶望の表情をしており、皇帝に関しては潜伏して10日間民衆の前では現れてはいません。」


 それから少しの間、帝国の雰囲気や状況を聞いていく。


 正直どうでも良かったが、知っている事に越したことは無いと思い耳を傾けていると、俺の知りたい情報が語られ始めた。


「帝都の禁書の中に、ヲル様の仰られたタングラスという単語を見つけました。曰く、誓約魔導具という自身の身体と引き換えに力を手に入れられる魔道具の製作をしている組織の名のようです。そしてその本の横に、直筆でこう書かれておりました。」


『魔法学院アリアネーゼとの繋がりあり 十五代目皇帝フォルティーク』


 ラキネは続けて、セキルアの報告書を読み上げる。


「その他の本にもこの皇帝の書いたメモが多くあったのですが、どこで気付かれたのか次の日から禁書の警備が厳重となり確認が叶いませんでした。申し訳ありません。」


 それを聞いて多少の失望感を抱いたが、命令していたタングラスについて十日で調べきったのでよしとしよう。それにまだ生まれてから一ヶ月と経っていない。


 俺は立ち上がろうと顎を乗せていた右手を下にそうとする。すると、ラキネが言葉を続けた。どうやらまだその紙には続きが書かれているらしい。俺は下ろそうとするのをやめ、もう一度耳を傾ける。


「そしてもうひとつだけ、クレセリア王国で報告をしたき事がございます。クレセリア王国は現在、小面積な五国と同盟を結んでいます。その同盟がどうやら大国である帝国との戦争の為という噂らしいのですが、そんなクレセリアが魔法学院アリアネーゼの戦力も把握しておきたいとしています。魔法学院は、魔法の使えぬ者以外は拒まないと明言していますので、それを使ってクレセリア王国から隠密に勇者の仲間である魔法使いと、数名の聖騎士を魔法学院に入学させるようです。」


 その情報に間違いはないのか?


 俺の心の中にあった疑問をセキルアは予想していたのか、続いた肯定の言葉に俺は無意識に邪悪な笑みを浮かべた。


「クレセリアも帝都に刺客を送ってきていたようで、そいつに拷問をして聞いたので間違いありません。こちらかの報告は以上です。セキルア。」


 それで報告が終わったようで、ラキネはその紙を下におろして俺の顔をじっと見ている。

 セキルア。本当によくやってくれた。


「魔法学院アリアネーゼの情報を用意しろ。俺は予定通りネフィルの元へ行く。」


 そう言って俺は腰を上げ、ひとつ下の階層にいるネフィルの元へと足を運んだ。



















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