魔王城編 閑話 調教と誓約。
閑話:本編とは基本的に関わりのない話
だけど、今回は読んだ方がいいかも……?
私はメクレナ。
猫耳のついた二足歩行型の獣猫族であり、帝国の奴隷だった。
奴隷になった理由は単純で、人間に拐われたからである。
元々亜人は人間の住む大陸とは違い、海を挟んだ別の大陸に暮らしている。しかし人間はその大陸に無断で侵入し、その大陸の資源や弱い族を奪うということが多々あった。
そこで私は、一人で森に潜っていた時に意識を奪われ拐われたのである。
因みに亜人というのは人間が侮辱の意味を込めた差別用語というだけで、私達の大陸の中ではそんな言葉は存在していない。
そして時は進んでいき、私は人間の国へと連れて行かれた。
その国の名はユーラリア帝国。
そこで私は鉄の首輪を付けられ、様々な労働を押し付けられた。その国の労働力の大半が奴隷という事もあって、労働の内容は多義にわたっていた。
それから何週間、あるいは何ヶ月か経った頃だろうか。私の奴隷として一生を終えるかと思われた運命を変える出来事が起こった。
その日はいつもと何ら変わらないように思えた。
「今日も昨日と同じ作業だ。さっさと働け亜人ッ!」
騎士の格好をした男が、苛立った表情でそう叫ぶ。
それを聞くと私は、とぼとぼと石の積み上がっている方向へ歩き出す。
亜人と言われることにも慣れ、厳しい環境も感覚の麻痺のお陰で何も感じない。
獣猫族は運動神経はとても良いが、いかんせん力が弱かった。
今日の労働は石の運搬である。周りにいる亜人は力の強い者が多いので、どうしても私のような力の弱い者は監視人の騎士のストレスの吐口の標的になる。
今日も遅いという理由をつけて、蹴りを入れてくる。
「俺が、何で、第四騎士団なんつう、下っ端で、仕事してんだ、よッ!てめぇら、みてぇな、ゴミが、自分で、働きゃあ、いいのに、よぉッ!」
それに対して私は、弱々しく「ごめんなさい」と謝り続けた。そんな掠れた声や、やつれた姿は力不足の奴隷へ与えられる唯一の勲章である。
少し時間が経つと気が済んだのか、その騎士は適当な場所へ移動していった。
私は口元についた血を軽く拭き、何も考えず労働を継続した。
そうしていつも通りに労働を終えた私は、牢獄のような奴隷収容所へと入れられる。
そこでは数人のグループに適当に分けられ入れられる。なので、同じ部屋である亜人は一日単位で変わっていった。
しかし一回たりとも同族である獣猫族と一緒にならないのは、ここの人間の仕業だろう。
私は意識があるか無いかすらわからない瞳を天井に向けながら、硬い床で横になる。周りにいた亜人達も、同じように横になっていった。
違う族種だからと言って殴り合いが起こる事はない。
それは獣猫族や獣犬族という族種以前に、奴隷族のような仲間意識があったのもあるが、何より日々の労働の賜物だろう。
そんなつまらない事も、今では考える気力すら無かった。
そうして私は、目を閉じた。
◾️◾️◾️
次に私が目を覚ましたのは、本能からくる危険信号からだった。
重すぎる目蓋を、一瞬で持ち上げる。
悍ましい魔力を感じる。
元々魔力の質とは、心が具現化したものと言われてる。強靭な正義の心を持っているものならば、その魔力を感じただけで低級のアンデットが滅せられるという話がいい例だろう。
そして多くの亜種は、そんな魔力の質に敏感だった。だからこそ瞬時に理解できる。
この魔力は、人種でも亜種でもない死を具現化したような魔力だった。
私は恐る恐るその魔力の根源に目を向ける。
そこにいたのは人間の騎士のような容姿、しかし明らかに死を錯覚させうる魔力を持った存在がいた。
「聞け、亜人の奴隷。」
何かが叫ぶと同時、その体が黒に染まる。
異様な光景に言葉を失った私達が緊張な視線を送っていると、その黒は次第にその人間の手に集まっていき、遂には先とは全く違う白髪の人間の女に見える何かが中から現れた。
隠れていたその女に見える者の魔力を感じる。確かに膨大な魔力で明らかに人外な質をしていた。しかし、ほとんどの亜人は手に集まった黒を見ているだろう。
あれだ。あの黒から、死を具現化したような魔力を感じる。
顎が無意識にピクピクと震え出し、瞬きを忘れて目を大きく見開く。
そんな数秒が永遠にも思えた時、その何かが言葉を続ける。
「今から貴様らは、魔王様の配下となれ。異論は認めない。」
その言葉を聞いた瞬間、私は奴隷となって初めての安心感を抱いた。それはまるで、これまでの辛さすら忘れさせてくれる程の膨大な幸福にも感じた。
これまでの辛さが全て、ここまでの布石だったかのように錯覚したようにも思えた。
これが、私の天命であると確信した瞬間だった。
◾️◾️◾️
私は意識を取り戻す。
周りをチラチラと見てみると、どうやら私と同じように奴隷だった亜人達が現状を理解していないような様子をしてそこにいた。
そんな私達に向けて、奴隷収容所で聞いた声が向けられる。
「亜人共、今私は魔王様をお待たせしてしまっている。余計な事をすればすぐにでも殺すと知れ。」
その言葉を聞いた瞬間、否。その存在を認識した瞬間に、ここにいる亜人がピタリと動きを止めたのがわかる。
元々亜人と称された私達はプライドが高い族種が多い。私達、獣猫族も自身のスピードに関しては誇りを持っていた。
しかし奴隷という世界を知り、魔王様の魔力を感じればそんな下らないモノはすぐにでも捨てたのだろう。
そんな事を考えていると、その女は言葉を続けた。
「この中で能力を持っているやつは出てこい。魔王であらせられるヲル様の元へと連れて行く。」
ヲル様…それが魔王様であり私の支える御方のお名前か。
数秒後、その言葉を聞いた三人の亜人が前へと出る。
それを見て、私は思う。
いいなぁ。私にも能力があれば、魔王様のお顔を拝見できるのに。もう一度、あの魔力を感じたい。
ラキネは、奴隷だった亜人達を見下ろしたと同時に思う。
帝国でヲル様が言っていた『心の闇はより強大な闇に魅せられ吸収される。』という言葉はこういう意味だったのかと。
どうやらこの闇に入れた事でヲル様の所有物と確定したのだろう。奴隷収容所までは敵意もあったように思えた瞳は、今となれば忠誠の色がほとんどである。
三匹だけ違うのは少し気になりますが、それは後々確認すれば良いですし、これはなんと言っても扱いやすい。
「亜人共、今私は魔王様をお待たせしてしまっている。余計な事をすればすぐにでも殺すと知れ。」
死の恐怖があるのは、例の三人のうち二人ですか。薄い赤色の亜人は死に恐怖はないようですね。
「この中で能力を持っているやつは出てこい。魔王であらせられるヲル様の元へと連れて行く。」
そう私が言うと、出てきたのは例の三人だった。
どうやら能力を持っているものには効かないていう事なのでしょうか。これは、先にヲル様へと報告をしておかないと。
軽く解析をしつつ、私はその亜人達を玉座の間へと連れて行った。




