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魔王城編 第8話 繭の心音。

「お前らに俺の配下となるか、死ぬか。どちらか選ばせてやる。」


 その言葉を聞いた三人は、即答する。


 怯えた様子だったルールや恐怖からか早口に語っていたレアリル、つい数秒前には死んでいたフテューレも(みな)同じように覚悟を決めていたのか、清々しく、どこか醜い表情で力を込めて応えた。


「「「魔王様の配下に。」」」


 それを聞いた俺は、あえて質問をする。


「何故即答できる?」


 それを聞いたフテューレは、覚悟の色を浮かべた瞳をまっすぐ俺に向けながら答える。


「私には、帰る場所がありません。」


 曰く、特殊能力を持っている自分達は異端として扱われてきた。そして自分は親に捨てられたと、そう語る。


 隣に並んでいたレアリルとルールも、コクコクと同意を表すように頷いた。


 しかし、その三人は悔しいや苦しいなどのそういった表情を見せることはない。


 お前達はそんな顔をするのか。


 その表情を見て、俺は率直に「可哀想」という感情を抱いた。


 どれほど辛かったかは知らない。


 もし知っているという者がいるのならば、それは傲慢以外の何者でもないだろう。俺の事を理解しているのが、()()()()()()()俺だけであるのがその証拠のように。


 しかし、俺達が同じ種だという事だけはわかる。この世界に存在する、しかし認識されていない五つ目の種族だ。


 理不尽な世界の被害者。


 生まれながらに貼られたレッテルが。

 生まれながらに決められた弱さが。

 どうにも叶えられない辛さが。

 想いを飲み込まなければ生きていけない理不尽が。


「辛かっただろう」


 だから、俺が創ってやる。


 世界に裏切られ、諦めたお前達三人を



「生まれ変わらせよう」

 連れて行こう。










 平等な世界に。




 ーーーーーーーーーーーーーーー

 『今日から俺は、魔王となる。』

 ーーーーーーーーーーーーーーー




「本当によろしかったのですか?」


 ラキネは俺の座っている玉座の奥、でかく白い三つの繭を見ながらそう尋ねた。


 この繭は、俺が三人に対して【生命創造】を発動すると同時に突如床から糸のようなものが伸び、そしてその三人包み込んだ結果だ。


 その形や色から、俺とラキネはそれを繭と表現した。


「あぁ。それに、これは実験だ。生きている者にも、この能力が使えるという事が証明できる。」


 それを聞いたラキネは、なるほどと理解する。


「だから、特殊能力の持っている者を選んだのですね。」


 この能力は、未知数な部分が多かった。それは生きている者に使えるのか、無理かすらわからない程にである。


 しかしこの能力に上乗せという荒技が通じるとすれば、それは特殊能力を維持したまま新たに力を得られると言うことを意味する。


 それに、俺はあの三人を使うと決めていた。だからこそ、失敗しようとしまいと、三人同時にこの能力を発動させたのである。


 そして、結果はおそらく成功だ。俺には、()()()。それならば……


「ラキネ、お前にもこれを使う」


 それを聞いたラキネは、ぱっと目を大きくする。子どもがプレゼントを見せられた時のような感極まった表情だ。


「ほ、本当ですか……!?」


「あぁ。だがお前は、後ろの()()が出てきた後だ。」


 それを聞いたラキネは瞳に涙を浮かべながら、頭を下げた。


 魔王城の床に涙を溢すまいとしているのか、顔を引きつらせ涙を瞳の奥にしまおうとしているのがわかる。


「だが、時間が惜しい。さっさと仕上げてしまおう。」


 俺は精一杯に魔王の魔力を両手に込め、能力を発動させる。世界を変える配下を創る為に。


「生命創造」





 ────ヲルが新たな配下を作っていた頃、帝国では殺伐とした空気が漂っていた。


 皇帝が帝国へと戻った時、そこは魔獣の死体で溢れかえっていた。そしてそれから早一ヶ月、魔獣の死体の処理はほぼ終わってはいるものの帝国が負った被害は深かい。


 多くの冒険者や騎士を失い、名高い冒険者も数人だが死んでいる。


 未来を託した第三騎士団の数人には先を逝かれ、なんとか生き残れたバチエトは全身骨折、そして無傷のヒレルに関しては恐怖で自殺すらしようとする始末である。


 そして何よりの被害は、騎士たちの心である。それは、ドルスの父であり、第一騎士団の団長であるアイザックも例外では無かった。


「アイザック、そろそろお前もシャキっとせんか。」


 八大帝騎士のテートュヌは、心の折れてしまったアイザックに毎日言葉をかけていた。


「何故守らなかった、ジジィになら出来たはずだ。」


「あの森の守護者(けもの)は強かった。わしとチェルでやっとだった。何度も言わせるな。ドルスはよくやった。」


 しかしアイザックは強く拳を握り、怒鳴る。


「それじゃぁ、意味がねぇんだッ!あいつに、あいつに罪滅ぼしをしねぇと、俺は駄目なんだ…ッ」


「アイザック、分かっておるのだろ?お前の力は帝国の中でも五本の指に入る強者だ。それこそ、お前の父にも引けを取らないはずじゃ。そんなお前が、この様では帝国は本当に潰れるぞ!」


 そしてテートュヌは、弱々しく続けた。


「それに、ドルスは知らんじゃろ。」


 その言葉を聞いたアイザックは、ある記憶を思い返すと同時に自棄(やけ)になった様子で頭をかいた。


 それは皇帝からスラム街の撤去(、、)を指示され、そこで一人のボロボロの服を着た少年を殺した時の記憶を思い出したからに他ならなかった。


「それでも俺は、あいつの親友である()()()()()()()()()()()()。知らなかったとは言え、あいつの希望を俺が壊しちまったんだ……!」


 そんな帝国の張り詰めた空気がこれまでの国と国との均衡を崩れ始めるきっかけの一つとなる事を、今のアイザック達が知る由はない。




















魔王城編はこれにて終了です。

今編は様々な試みをしてみましたが、いかがだったでしょうか。


もしかすれば、戦闘の描写も少なく物足りないという方もいらっしゃるかもしれません。

しかし今編で語られた『謎』が、今後にどう影響されるのかを楽しんで頂けると幸いです。


そして最後になりましたが、皆様の評価、ブクマ、感想等々嬉しいです。


次編は、ヲル様が自身の『目的』を達成しようと動く魔法学院編です。

もし良ければ、次編もよろしくお願い致します。


/常夏瑪瑙

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