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魔王城編 第6話 黒き薔薇の魔王城。

「なんで、ここにこれが…」


「ヲル様…?」


 目を見開いてそう呟いたヲルを見ながら、ラキネは同じように驚きの表情を浮かべた。




 ーーーーーーーーーーーーーーー

 『今日から俺は、魔王となる。』

 ーーーーーーーーーーーーーーー




 それから(わたくし)とヲル様は、魔王城の中へと進んでいく。


 魔王城を初めて見た時のヲル様の動揺はそれ以降見られることはなく、今では平常心のように私の瞳には映って見えている。


 しかし完全に意識を失っていたはずのヲル様が発したありえない言葉に、私は少なからず疑問と動揺の感情を抱いていた。


 聞いてみようかと愚考をしたがその呟きの直後に頂いた「なんでもない」という言葉が、私の行動を制限させる。


 故に、私はその疑問を胸の奥底に押しつけて、行動をすることに決めた。


 それから私は、意識をこの魔王城へと向ける。


 私が感じた第一印象を一言で表すのならば『不思議』が妥当であろう。


 まるで本物の薔薇の花を巨大化させその上からヲル様の闇をコーティングしたかのような不気味さと同時に、言葉にならないもの恐ろしさを感じさせられる。


 そしてその花の強度はヲル様が放った高位魔法を受けても無傷なほどで、私の知識の中にもある通り中へ入るには一つしかない唯一人工的に見える門からしか無理そうだった。


 そしてこの魔王城の中はと言えば、実にしっかりとした造りである。


 外から見ても明らかにわかる広大さであったが、中に入り部屋を確認していると改めて認識させられる。


 第一階層は壁が少なく、最奥には上へと通ずる階段が一つ。この広大かつ単純な土地を使えば、軍団を貯蔵するのにも使えそうです。


 それから上へ上へと中の様子を確認して回り、わかったことがある。


 ひとつ目に、各階層ごとにあらかじめ用途が決まっているかのような内装であった。


 例えば第二階層は防衛に特化した造りになっているが、それに比べて第七階層は研究なども行える小部屋がほとんどを占めている。


 しかしその中にも、明らかに異なる造りをしている場所があった。


 それが今登っている、第七階層から最高層、第八階層への階段である。


 黒く一直線上な階段というのは変わりないが、明らかに違うのは左右に咲き誇っている漆黒の薔薇。そして、奥から感じるヲル様と相違ない漆黒の魔力である。


 なんて美しいのだろう。


 それを感じ見た私が率直に抱いた感想はこれに尽きた。


 興奮が込み上がってきて自然と無邪気な笑みが浮かび、息が少しだけ荒くなる。


 私がその興奮を必死に押さえつけていると、いつのまにか入り口よりも数段豪華な扉の前に到着する。


 本当に美しい。きめ細やかに彫られた紋様と漆黒の扉。シンプルだが、そこにあるなんとも言い難い豪華さに不気味さと美しさを必然と思わせてくれる。


 帝国で人間を殺した時とは比にならない歓喜がこみ上げてくるのを、私は実感した。


 しかしヲル様は扉や奥から感じる魔力を気にも留めぬ様子で、その扉を片手で軽々と開ける。


 そしてその奥に広がっていたのは、玉座の間だった。


 その部屋は基本的な玉座の間と比べては広すぎるが、七階層から下を考えてみれば狭すぎるようにも見える。周囲には無造作に白く光る柱が立っていて、丁度扉から入って直線上を見れば一番奥に異様な魔力を放つ玉座があった。


 そしてこの空間は特に瘴気が立ち込めていて、知識にある魔界に近い環境にも思えた。


 私が中の様子に呆気を取られているにも関わらず、ヲル様は特に気にすることもなく奥にある玉座に向かって歩いている。


 そんなヲル様を後ろからついていきながら、私は思考する。


 何故、ヲル様はこうも落ち着いておられるのだろう?


 この疑問と先の疑問とが合わさり、私の心ににあった不安のようなものが増していくのが自身にもわかる。


 意識を失っていた時に、何かあったのだろうか。


 これではまるで、帝国にいたヲル様とは別人のような違和感を感じてしまう。不敬だが、聞いてしまおうか。


 そんなことを考えながら歩いていると、前におられたヲル様が自然な動作でその玉座へと腰を下ろして目を閉じる。


 その様子が私の瞳では、魔王となってすぐの雨に打たれた日のヲル様と重なって見えた。


 そしてその仕草が考え事をなさる時のヲル様の癖のようなものだと薄々感じていた私は、何を考えているのかという疑問より先に安堵の感情を抱く。


 いつものヲル様だ。


 それから数分後、ヲル様は目を開けてこう仰る。


「ラキネ、お前の集めた奴隷の教育を進めさせろ。それと、もし能力を持つ者がいれば連れて来い。試したい事がある。」


 その指示を理解した私は「了解しました」と返事をして、今思った疑問を口にした。


「ヲル様は、どうされるのですか?」


 先までの疑問を聞かなかった理由は、指示を出しておられたヲル様の勇姿を拝見して自身の疑問の無用さを改めて理解したに他ならなかった。


 どのような事であろうと、ヲル様について行く。それが私が生まれた意味なのだから。


「俺は少し、この城を見て回る。そして、気を見て生命創造を使うつもりだ。異論はあるか?」


 ヲル様のお言葉に私は平伏をし、前と同じように応えた。


「ヲル様のご意志のままに。」





















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