魔王城編 第4話 不可思議な秘境。
そこは霧に囲われていて草木は生茂り、滝が流れている。ある所では石が剥き出しになっていて、またある所では鶴が伸びている。中心には大きな平原が広がっていて、一言で表現しろと言われれば神秘的以上に似合う言葉はないだろう。
「ここが、秘境。」
その感嘆の直後、俺は無意識にも口の頬を釣り上げた。
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『今日から俺は、魔王となる。』
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それから俺とラキネは秘境の探索を開始した。
広さ的にも数時間かかるかもしれはしないが、必要な時間だと割り切っている。
「水に毒はないか。」
流れている川の水を口に入れ、毒がないかを確認をした。
魔王になって以降、毒などの状態異常には完璧の耐性を持っている事を確認していた俺は、毒かそうでないかを確認するまでに至っていた。
「様々な種の植物があります。普通では手に入らない種や、私の知識にすら無い種もあるようです。」
ラキネの言葉を聞いて、一応の環境が整えられたら調べさせようと脳の片隅で決意しながら、俺は【闇】を展開して空中へと飛んだ。
高度百メートルはあるだろうか。上から見た秘境は、改めて神秘的という言葉が咄嗟に思い浮かぶほどに神秘的であった。
それはまるで、雲の中にある空中都市のようで。とても美しく、とても腹立たしい景色に見えた。
「先の反対側にあるあれはなんだ?」
俺は黒の土煙のようなものを見ながら、後ろから付いてきた竜化中のラキネに問う。するとラキネは、俺の視線の先を見て答える。
「瘴気です。本来は魔界にしかないとされているのですが。」
「なるほどな。」
そしてもう一度秘境を上から見回して、改めて思う。
「それにしても、本当に不思議な空間だ。」
未知の植物、どこから流れてくるかも不明な透明な水。それに、魔界にしか無いであろう瘴気。他にも一部では砂漠化している場所も、雪が積もっている場所、地面自体が凍っている場所すら見える。
そして何よりも不思議なのがこれだ。
何故、俺達が入った場所のみしか外へ行けないのか。
俺達が入ってきた場所も、他と変わらずに霧に覆われている。しかし他の場所から霧の奥へ進んでも、何故か再び出ようとした場所へと戻されるのだ。
もちろん、直進をしているにも関わらずである。
「私の知識の中にも、秘境の記録はありません。」
唯一の希望であるラキネの知識すらこれでは、今の段階で『不思議』以上の結論は出にくいだろう。
そう理由をつけ、俺は秘境についてを頭の片隅に追いやり魔王城の建てる場所を探る。
だが、いややはりというべきか。秘境の殆どの地形は入り組んでいた。
そして幸いに、秘境の中心部分は周りに比べて少し沈んだ形で平原となっていたのである。
「あの平原の中心に、魔王城を建てる。異論は?」
俺の言葉を聞いて、ラキネも同じ意見を持っていたのかすぐに返答する。
「ヲル様のご意志のままに。」
俺は平原の中心に足をつけ、背後に展開していた【闇】を体に戻す。それと同時に、背後にいたラキネは丁度地面に足がつくタイミングで【人化】の力を発動させる。
「準備は整った。魔王城を発動させる。」
「了解しました」
俺は両手をその地面につけ、そして魔力を込めた。
【魔王城】
すると発動したとほぼ同時に、俺は意識を失った。
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「只今戻りました」
青い光はとても小さく、しかしとても煌びやかに光っている。
その光と魔力はヲルとラキネが出会った謎の妖精に間違いなかった。
それは言葉を発すと次第に輝きを失い、それと同時に中から小さな異業種が見えてくる。
その耳は人間よりも鋭く、その瞳は宝石のように蒼い。
そしてその青い妖精は頭を下げて、こう続けた。
「妖精王様。」
その青い妖精が頭を下げている先にいたのは、体長は青年前の人間に近い大きさをした妖精王。
その髪は緑色と一括りにしてはならないほどに様々な濃さの色をして、上品に長く伸びている。
そしてその瞳は、どのような森よりも深い緑色をしていた。
妖精王は先の青い妖精に鋭く目を向け、そして口を開く。
「…魔王は見つかったか?」
その言葉を聞いた青の妖精は、自然な仕草でこう答えた。
「いいえ、未だに見つけられておりません。」




