表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/44

魔王城編 第1話 帝国とクレセリア。

「王よ。予想通り、帝国が来ました。」


 そこはクレセリア聖王国の玉座。そこには玉座に座る白髪の王と、その両脇を固める二人の聖騎士がいた。

 そして頭を下げている騎士は、丁度王に向けて報告をし終えた所であった。


「ご苦労。」


 それを聞いた王は、右横にいた聖騎士に向けて言葉を放つ。


「ゼンデス、貴様に任そう。」


 それを聞いたゼンデスと呼ばれた男は頭を下げ、帝国のいる門まで歩いて行く。


 その男は金髪で黒肌、それとは対照的に全身を包んでいたのは白銀の装備だ。そして腰には、聖剣と呼ばれる世界でも数少ない剣を身につけている。


 それもそのはず、彼はクレセリア王国の聖騎士長が一人だった。



 それにしても、いや懐かしき魔力(もの)を感じる。



 門の前にいるある男の魔力を感じて、ゼンデスは笑みを浮かべた。しかしそれは一瞬で、帝国の人間の視界に映る瞬間に社交辞令な笑みへと変化する。


「お久しゅうございます、ユーラリア帝国の皇帝。そして、アイザック殿も。」


 私は帝国軍の前でそう言う。それを聞いた皇帝は意味深な笑みを浮かべ、私に対しての返事は皇帝の隣にいるアイザックが答えた。


「久しぶりですね、ゼンデス殿。」


 そう言って私と似た笑っていない笑顔を浮かべるアイザック=クス。


 彼はユーラリア帝国皇帝の側近が一人で、剣技ならば()()帝国の中ならば最強クラスで間違いない。


 そんな彼の言っている『その節』とは、数年前に行った私との一騎打ちの事を言っている。


 因みに、その戦いでは私が負けている。


 さて、そんな事よりも建前として質問をしますか。


「それで、本日はどのようなご要件で?」


 そう聞くと、皇帝は「わかっているだろう」と言わんばかりの表情で要件を言った。


 その内容は大よそ予想通りで、魔王の誕生と取り逃がしや無断で行った勇者召喚についてだった。


「……さて。この件について、クレセリア王国はどのようにして対処してくれのか?」


 それを聞いた私は、しかし笑みを絶やさず答える。


「何をするつもりもございません。」


 皇帝の笑みに、一瞬の崩れが見える。


「ほう?それは、我らが帝国を、数多ある人間の国を敵に回すということでいいのか?」


 緊張感がここら一帯の空気を支配する。アイザックは腰につけている帝国の国宝でもある剣の柄を握り、後ろに控えている八大帝騎士や第一騎士団の面々も同じように臨戦態勢に入っていた。


「いいえ、我々に争う意思はありません。」


 その言葉を聞いた皇帝は、笑みを消して「何?」と言う。もちろんアイザックを含めた帝国の人間にも、既に笑みはない。


 しかし、唯一私は笑みを絶やさず懐から一枚の紙を出した。


 それを見た皇帝は、驚きの表情を露わにする。


「ジュシック美国、フクキシニル武国、それにファキオ王国だとッ!?何故…」


 その紙には、皇帝の言った三国とクレセリアが同盟を結んだという事が書かれた紙だ。


 その同盟内容を要約すると「クレセリアが攻撃を受けた場合、最大限の防衛と報復をする」というものだった。


 大国である帝国には多くの実力者が存在する。


 (おおやけ)になっている武力ですら、私たちクレセリア王国では勝つ事は厳しいかもしれない。その時点で、クレセリア単体で戦争をして勝つなどは不可能に等しいのだ。


 もし勝機があるのだとすれば、我らが王自ら戦いの場に赴く必要があるだろう。しかしそれは、できだけ避けたい事である。


 皇帝は思考している。


 同盟をした三国は、小国ながらも実力を持った王が統治する国だ。いくら大国である帝国が同盟国である他国と共に戦争を起こしたところで、帝国の被害は少なからず出る。


 過去の反乱によって少なからず疲弊しているはずの帝国は、できる事なら避けたいはずだ。


 そして何より、宗教国家に戦争を起こすという事はその宗教を否定している事に他ならない。勝利を収めても、帝国への被害は持続する。


 要するに帝国は、現在のように停滞した状況を続けるしかないのである。


 ゼンデスの笑みが、確信の笑みへと変わった。


 その時だった。


 後ろに待機していた皇帝の側近であり宮廷魔導師のセファールデメタが、皇帝に耳打ちをしだす。


 すると皇帝はセファールデメタの報告を聞いていくうちに、眉を潜めていった。


 耳打ちを終えると皇帝は私に「悪いが、この件は後々書簡を送らせてもらう。」と焦った様子で言って迅速に馬車へと乗り込んだ。


 数分もしないうちに、帝国の大群は自国へと戻っていたのだった。


 私は笑顔を絶やさず見送ったのだが、心の中に少々の疑問と不安が宿る。


 これまで作戦は計画通りだった。結論、皇帝達は帝国に戻りこの件は有耶無耶になるという目的は達成する事が出来た。


 だが、最後の焦った様子は明らかに我々に対してではないだろう。


「何かあったのですかね。」


 とりあえず、王へとご報告をしよう。


 そう決めた私は、王城の方へと向かった。


「あ、ゼンデスさん!おはようございます!」


 その途中で、私に向けて勇者が声をかけてくる。


「あ、おはようございます。勇者殿。」


 確かこの時間帯は休憩だったか。


 それにしてもと、私は転移当初とは別人に思える勇者を見て思う。


「というか、魔法というのは美しいですね。僕は火属性の魔法が好きになりましたよ!なんといいますか、こう轟々と燃える炎というのは心踊りますよね!」


 ……それにしても、よくここまで勇者として()()()()()な。


 転移当初は自己が強過ぎて、苦戦を強いられると思っていたのだが。


「そういえば、切り傷程度ですが回復も使えるようになりました!!この前に孤児院の子どもに傷を負わせて、練習した甲斐もありました!たった二十八人で済ませれましたし、彼らもそれを聞いてとっても喜んでいました!!(みな)のお陰で、勇者として一歩近づけれた気がします!」


 私は話を右耳から左耳と聞き流しながら、心の中で勇者という()()の生き方を躾けた人間に向けて素直な賞賛を送った。



 流石は聖女、という事ですね。



 おっと、そんな事を思っている暇はなかったのだった。


「すみませんが、今から王のもとへと行かなければなりません。この話は、また今度という事で。」


「あ、すみません!それでは、失礼します!」


 私はそう言って王の元へと再び向かう。


 帝国との戦争は回避し、勇者も力はないにしろ器は完成した。油断はならないが、我々クレセリアは順調に目的の為進んでいると言えるだろう。





 ◾️◾️◾️





 魔物達の邪悪な声と人間達の叫び声がこの国を覆う。


 そんな中、戦闘が繰り広げられていた区域より少し外れたところではドルスが心臓を貫かれて倒れており、ヲルは近くに落ちていた漆黒の小剣を【闇】で回収する。


「ヲル様、必ずや期待に応えてみせます。」


 信頼を少しは得られたと確信したラキネは、そう言って頭を下げる。


 それに対してヲルは何をするわけでもなく、中央街へと歩いて行った。


 目的は、資材の回収である。


 【闇】を用いて、気になった魔道具や地図など様々な物資を調達する。


 その間費やしたのは時間にして数十分、その後ヲルとラキネは帝国を後にした。


 誰かの努力を奪い、帝国の労働力である奴隷を奪い、生きる環境を奪って。


 それはまるで、小さい頃からヲルが感じた『理不尽』そのものだ。それなのに何故だろう。悲しみとか哀れみとかいう感情は抱かない。


 それどころか、歓喜のような感情が心を支配した。


「ざまぁみろ」


 クレセリアと反対方向の森に歩みを進めていたヲルは、背後にいるラキネに向けて口を開く。


「今の俺では目的を果たせん。」


 ラキネは、ヲルの言っている「目的」というのを「人間の絶滅」と解釈しながら次の言葉を聞く。


「魔王城を建てる場所を探す。幸い、スレーラルを殺した時に秘境という場所の情報を得た。大まかだが、そこにいく。異論は?」


 それを聞いたラキネは、ぷかぷかと浮いていた体を止めて頭を下げる。


「ヲル様のご意志のままに。」


 二人はスレーラルが呪いの為に調べていた『秘境』へ向けて、歩みを進めた。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。




評価 感想 ブクマ登録 等々よろしくお願いします!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ