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帝国編 第10話 無駄な努力。

 ドルスは心臓に小刀を突き刺すと体の周りを覆っていた魔力が爆発的に膨れ上がり、邪悪な黒に色付いていた。


 その魔力を感じたヒレルは騎士にあるまじき態度でヲルとは真反対の方向に逃げ、バチエトは意識を失っている。


「ラキネ、あれは何だ」


 ヲルは自身の剣を自らの心臓に突き刺したドルスを見てそう言った。


 それを聞いた彼女は与えられた知識を探り、理解したことを語る。


「……誓約。自身を犠牲にし、それに見合った能力を得るというものです。あの人間はおそらく自身の命を代償にあの力を得たのでしょう。瀕死でこれほどのものとなると、彼の命の重さは計り知れないものだったかと。」


 それを聞いたヲルは「そうか」とだけ返事をした。


 その様子はいつもと変わらない平常心そのもので、焦っていたラキネは思った事実を素直に伝えた。


「今のヲル様と(わたくし)で、殺せる相手ではありません。」


 その言葉を聞いたヲルは、しかし表情を崩す事もなく化け物へと変化していくドルスを見ていた。


 その様子は明らかに異様で。ドルスは叫び声を上げながら、体がありえないくらいに膨張していく。


 その異様なドルスに向けてラキネは、右手を向け残り少ない魔力を使って魔法を放った。


白炎の球体(ヘブルレイズ)


 それはラキネの種族のみが扱える白い炎の魔法のひとつだった。


 しかしどうやってかはわからないが、ドルスはその攻撃をかき消した。


 その直後、ドルスの叫び声が止まる。するとそこには、明らかな化け物がいた。


 全身を黒い魔力で覆い、獣のような形をした化け物だ。


 その魔力の質は純粋な力のようで、間違いなく魔力量はヲルを超えている。


 しかしその化け物は、不自然に周りを見回し出した。明らかな戸惑いの様子が見える。


 それを見たヲルは、安堵のため息をついた。


「ラキネ」


「……ぁ、はい!」


 化け物が戸惑っている様子に理解が追いついていないラキネに向けて、ヲルは説明を始めた。


盲目(ブラックアウト)は消えていない。俺が解除をしない限り、永遠に続く。」


 そこでラキネは、ヲルの言っている事を理解する。


 視界の見えない化け物、しかしその心は騎士として生きる男そのものだ。見えない状況で制御の効かない力を使えば、本来守るべき市民を傷つけてしまう可能性が高い。なので、彼は動けないのだ。


 しかしそれよりも重要な事をヲルが言った事に気づいたラキネは、口を開く。


「ヲル様の、能力なのですね」


 盲目(ブラックアウト)が消えない理由は実力でどうにかなるわけではない。


 発動時間が五秒というのは、魔法界では明らかな確定事項となっている。それをドルスは『魔王だから』という理由で理解した。


 ラキネも同じように考えていた。


 しかし、それは違った。


 その理由は、それがヲルの能力だからに他ならなかったのである。


無限(インフィニティ)、それが俺の能力。」


 その固有能力とは、選ばれたものだけが生まれた時にのみ得られる能力。身近ではラキネの【却下・許可】や第三帝騎士ヒレルの【全記憶】が良い例である。


 ヲルは当初、警戒心からラキネに対して自身の能力を言う事は無かった。


 しかしヲルは今、ラキネにその能力を教えた。


 その理由はヲルが騎士とラキネが戦っている場面を見て、忠誠心を自分の目で確認できたからに他ならなかったのだが、その事実をヲル以外が知る由はないだろう。


 そして自身が認めらたように感じたラキネは、喜びの感情が溢れ出てくる。


『グァアァァァァ』


 それから化け物となったドルスの体は次第に縮んでいき、遂には萎れた老人のようになって地面に倒る。


 体をなんとか動かそうとするドルスの元に、ヲルは見下ろす形で哀れみの表情を浮かべてこう言った。


「無駄な努力だったな」


 すると、ドルスの口が少し動く。だが声は聞こえない。


 聞こえてくるのは、ドルスが守ると誓った帝国民の悲鳴と魔物の喜びの叫び声だけ。


 そんな死にかけなドルスに、ヲルは右の拳にぐっと力を込め放つ。その瞬間、ドルスの心臓には穴が空いて彼はピクリとも動くことは無かった。


 死んだ事を帝国側に伝える為に首から上だけは残してそれ以外は【闇】で『吸収』する。


 それからヲルは、ドルスの近くに落ちていた黒い小刀に視線を持っていくと、その刀の縁金部分に浅く刻んだ形で『タングラス』と書かれているのがわかった。


 俺はそれを触る事なく闇に収納して、荒れ狂う帝国を横目に言葉をこぼす。


「次はまとめて殺してやるさ。」


ヲルの顔には、達成感と共にどこか物足りなさもあるような歪んだ笑みを浮かべていた。





 ◾️◾️◾️





 魔物の大群が帝国を攻めてから約半日、その戦いが終盤に差し迫った時の事である。


 森の守護者と思われる魔物は八大帝騎士であるチェルケドとテートュヌが数時間を掛けて殺し、その他の魔物も多くの騎士の犠牲とともに鎮火しつつあった。


 そんな中、ポツンと転がっているドルスの生首に近づく()()()をした男が一人現れる。


 彼はフードを取ると、紺色の長い髪が風に揺れる。その目は鋭く、しかしどこか寂しげな色で死体を見下す。


「ドルス。俺は、お前が大嫌いだったよ。」


 その容姿は、限りなくドルスの記憶にあったファルのものに酷似していた。






















帝国編最終回、いかがだったでしょうか。

自分としては、ヒレルとバチエトが対立するというシーンが気に入っていたりします。


さて、次編では数多くの『謎』が描写される魔王城編です。

この編では新たな試みをいくつか実践していく予定ですので、これまでとは少し構成が異なり読みにくいと思う方がいらっしゃるかもしれません。

もしそのような意見が多い場合は添削しますので、良ければ感想から意見を書いて頂けると幸いです。


そして最後になりましたが、皆様からの評価やブクマが励みになっています。

もし楽しんで頂けましたら、評価、ブクマ、感想をよろしくお願いします。



/常夏瑪瑙

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