帝国編 第4話 帝国の冒険者組合。
クレセリア王国の隣に位置する大国、それがユーラリア帝国である。国土はクレセリアの何倍も大きいが、現在は数十年前の反乱のせいで勢力は全盛期に比べると小さくなっている。
今いるこの都市は帝国の首都で、正式名称もあるのだが一般的には帝都と言われている。二重の壁に覆われた帝都は、他国の中でも城塞都市と認知されるほどのものである。
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『今日から俺は、魔王となる。』
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そんな帝都には、大きく分けて三つの区画が存在する。
一つ目は裕福な人間のみが入れるという貴族街という区画。
二つ目は兵の訓練や食料など軍事関係の区画。
そして三つ目は、今俺がいる市民街という区画である。
この区画は商業がメインで、ラムになっているヲルとレイラになっているラキネが二人でその区画を歩いていた。
昔はスラム街と言われる四つ目の区画があったようだが、最近に壊され市民街の拡張にあてたそうだ。この市民街の区画だけでも、軽くクレセリアの都の広さを超えている。
そんな市民街の道はしっかりと整備されていて、周囲の人間の雰囲気も賑やかである。治安維持に関しては、第四騎士団のマークを付けた帝国騎士が巡回などをして貢献しているようだ。
どうやら騎士と平民に上下関係は無いようで、昔暮らしていたクレセリアを思い出すと同じ人間の国とは思えない完成度だと思う。
しかし俺はその完成度が成り立っている要因に気づき、哀れみの感情を抱いた。
彼らのように何も考えない人間にはなりたくない。
そんな事を考えていると、肉の焼ける匂いがする。そういえば魔物が近寄らないせいで、狩りもせず何も食べていなかった。
俺は先程殺した二人の金を使って『クロッドムスの串焼き』というのを二本買い、ラキネと二人で口に入れる。あのラムの死の要因になったウニョウニョした魔物が、こんなに安い値段で美味しく食べられるのだから面白い。
そんな事をしつつ俺たちは、冒険者組合に向かう。この冒険者組合とは各国に配置されていた魔物討伐を主にした独立した組織である。
クレセリアでは宗教的に聖騎士の方が上という風潮があったので、冒険者は聖騎士の試験に落ちた人間の成れの果てという空気があった。まず基本的に平民はクレセリアからは出られないので、それも冒険者が流行らなかった理由だろう。
そんな事を考えていると、帝国の冒険者組合の前へと到着する。
その建物はクレセリアにあったようなクレセリアの宗教に合わせたような造りでは無く、実にシンプルで大きなものだった。独立した組織とは言っても、国と無関係というわけでは無いようである。
「ここのようですね。」
冒険者組合を見て、ラキネはそう口にした。
「ああ、受付嬢には適当に合わせろ」
「了解しました。」
返事を確認した俺は冒険者組合の扉である木で作られた小さなスイングドアを開けて中へ入る。
そして【闇】で『吸収』した記憶通りなら──
「ラム様ッ、すみませんでした、すみませんでした」
俺は『吸収』の信憑性を再確認しつつ謝ってきた受付の女を見る。
この人間は田舎から来た時からラムとレイラの担当をしていた女であり、あの森の依頼を許可した張本人でもある。
俺にとっては興味のない話だが、育ちの良い人間とは罪悪感が少しでもあると眠ることすら叶わない弱い生物が多い。
さて、疑われないように切り替えるか。
それから俺はラムの記憶に沿った明るい態度で、大丈夫だったという事を説明する。そしてウルフから取った牙を受付嬢に売りつけ、資金と評価を上げるのも忘れない。
受付嬢に牙を見せるとその女はひっくり返った声で「えええっ」と驚いていた。もし次に資金が必要になった時は別の方法ほ取る方が良さそうだな。
そういえば、牙だけ抜いたそのウルフ達は指示したようにうまくラムの故郷を潰せただろうか。数十匹の群れで向かわせたので大丈夫だとは思うが、余裕があれば確認したい所ではある。
そんな事を考えていると、受付がウルフの討伐報酬を手渡す。
「…こちらが、報酬の四千三百エールです。」
「ありがとうございます!」
「それとウルフの討伐という事で、念願のDランクに昇格です!おめでとうございます!」
渡された冒険者記録の右上に書かれていたアルファベットがEからDに変わっている。
奴の記憶によると、Dランクとは冒険者に認められたというレベルらしい。因みにCランクは中堅、Bランクになるとプロという扱いのようで、それ以上のBランクからは様々なサービスが受けられるらしい。
その分、Bランク以上には昇格の際に必須条件として試験が含まれているのと討伐責任が生まれる。それからAランク、Sランクと続いていく感じのようだ。
「!!…ありがとうございます!やった!」
「わーい。」
ラキネの棒読みに一瞬鋭い目線を送りつつ、それから俺は宿の位置をラムの記憶で探りながら、渡された貨幣と冒険者記録を腰のカバンにしまって組合を後にした。
「ラム様、これからはどうされますか。」
街を歩いていると、後ろから続いているレイラが小さい声で問いかける。
「お前は今夜中に帝国騎士の死体をひとつ用意しろ」
淡白な答えに寂しさを感じながらも、ラキネは肯定の意を表す。
「了解致しました。」
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「それでは、行ってまいります。」
「少しでも勘づかれたと判断したら一人だけ残して殺せ。頼んだぞ」
頼んだという言葉を聞いた瞬間、ラキネは喜びで無意識に笑みが浮かぶ。
「必ずやヲル様のご期待に応えてみせます!」
それから私はヲル様に頭を下げて、宿屋を後にする。
時刻は深夜一時、空には無数の星が浮かんでいます。帝国の道には街灯というものがあるのようですが、この時間になると消えるようで視界の光は一部の家の明かりしかありません。
まぁ私の瞳には光の有無など関係ないのですが。もし完璧に熟せば、今度こそはヲル様に褒めてもらえますかね。
そうなる事を願いつつラキネは手頃な帝国騎士を探していると、高性能そうな杖を持った小柄な女が視界に入る。その瞬間、ラキネは先程までと同じとは思えない鋭くそして冷徹な視線を送る。
こんなにも早く見つけられるなんて、今日は運が良いようです。
レイラの容姿をしているラキネの鼻が、まるで獣が匂いを嗅いでいるかのようにピクピクと動く。
「魔法の発動はなし、人間も匂いも……あれだけですね」
レイラはそう言うと、一瞬でその人間の元へ近づいて攻撃を繰り出す。
「死ね」




