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王女様は狂剣士 ~乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに気付いたら、すでにヒロインにざまぁされてました。その上、現在進行形で命狙われてます~  作者: 透坂雨音
第二部

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第5章 文化祭



 フィンセント騎士学校 教室

 秋の季節が近くなってきた頃。

 フィンセント騎士学校に、文化祭の時期がやってきた。


 この時期になるとほとんどの学生の進級と卒業が決まってきているので、みな肩の力をぬいて適度に楽しみながらイベントに臨んでいた(私達の場合は諸事情あってまだだけど)。


 普通の学校と同じく、私達の通っている学校にも一応文化祭はある。


 内容は特に変わった所などはなく、フィンセント騎士学校でも一般の学校と同じ様に、店や催し物を開いて、交代で店番するといった感じになっている。


 準備期間になると、おのおのが腕によりをかけて、純粋に楽しみながら準備にとりかかる事になるので、校内の活気がすごい。


 それで、ステラの所はというと……。


「メイドと執事喫茶なんてどうなのかしらって思ってたけど……、意外に皆やる気なのよね」


 メイド&執事喫茶をやる事になった。

 豪勢に飾り付けられた教室はいつもの見慣れた光景と違っていて、かなり新鮮だった。


 需要なんてあるのだろうかと思ったのだが、まずやってみたいという思いが先行していた。

 普段触れられないメイドと執事の作法とやらに触れた生徒は、そういうのが新鮮だったらしく、興味津々で積極的に店を動かしている所だった。

 プライドの高い人間あたりは、誰かに仕えるなんてまっぴらごめんだとか言いそうだが、ステラのクラスには好奇心の強い人間しかいなかったようだ。


 飾り付けは終わったので、後は当日の立ち回りの確認や、メニューの暗記などの作業が主だ。

 接客用に用意されたメイド服を着て、マニュアル片手に練習。


「えっと、確認しなくちゃいけないわね……まずは、お待たせしましたご主人様。何かご注文はありますか? えっと、それで最後に……ご注文はこれでよろしいでしょうか?」


 だが、結構これが言い慣れない。

 いざという時、言葉に詰まりそうで若干怖かった。


 これは家に帰った後でも、練習しなくてはいけないだろう。


「ステラの言うメイドさん言葉も良いな。ステラ、もう一回言ってくれないかな。ほら俺、練習台になる」


 一人で口調の確認をしているとどこからともなくツェルトがやってくる。

 散々ツェルトには練習台になってもらったのだが、なぜかその後もこうして練習台になりたがるのだ。


「ツェルトって物好きなのね。そんなにメイドさんが好きなの?」

「心外だ。俺はステラだから良いんだよ。他の人間の練習台になっても意味ないんだし」

「向いてるのかしら」

「ステラの事メイドのプロだと思ってるからじゃないぜ!?」


 ツエルトに褒められるくらいには、様内なっている事だろうかと解釈すれば、なぜか対面でツェルトがうなだれる。


「分かってたけどさ。うん、分かってたよ。そんなに伝わらないもんなんだな」

「もー、ツェルト君ってば遠回しすぎ。そういうのはもっと直接的に言ってあげなくちゃ駄目なんだって。ステラちゃんなんだから、なおさらだよ」


 そこに新たに話しかけてくるのは、ステラと同じく接客担当のニオだ。彼女も私とお揃いの衣装をきている。

 ニオは、同情するような口調で励ましの言葉をツェルトにかけるのだが、当人は元気にならない。


「言えないから、おちゃらけてんだよ。普段の俺のこの態度がそう。あー、真面目にならなきゃ駄目なのかな」

「ほんと変な所で臆病だよね、ツェルト君って」


 二人は一体何について話をしているのか、ステラにはちょっと分からない分野だ。


 それにしても、とニオはステラに抱き着いてくる。

 近くにいたツェルトが、「あっ」と羨ましそうで悔しそうな顔になった。


「服、似合ってるよー。日頃の狂剣士成分が嘘みたい。ステラちゃんかわいい。食べちゃいたい」

「そんなに? ニオの方が可愛いと思うけど」

「自分の可愛さに無頓着な所もかわいー。やだー、ニオお持ち帰りしたい。そしてステラちゃんにたくさん甘やかしてもらお」


「やだ」と「したい」が繋がっていないような気がするが、細かいところに突っ込んでいたらニオとはやっていけない。


 とりあえず褒められること自体は嫌ではないので、こちらにほおずりしてくるニオに若干困るしかなかった。







 そんな風に練習で若干言葉遣いに困ったものの、順調に準備をこなしていけば、すぐに当日がやってきた。


「ステラさーん、お客様が入ったわよー」


 クラスメイトに言われて、仕切られた接客の区画へと向かう。

 開店したばかりだが、もうお客が入ったらしい。


 気合を入れてから、出る。

 ステラが一番乗りだ。


「今対応するわ! じゃあ行くわね」

「ステラちゃーん、がんばってー。いってらっしゃーい」

「あ、ステラがご主人様のところに! く、それが俺だったらどれだけ良いか!」


 若干一人声援とは違う反応をする者がいたが、彼はいつもおかしいので放置でいいだろう。

 ツェルトはひょっとしてご主人様という存在に憧れを抱いているのだろうか。


 それから半日くらい慣れないメイド言葉を駆使して、クラスの売り上げに貢献する。

 普通の人の前で、ご主人様とか言うのは、練習の時にはない恥ずかしさがあったが、それがなんか受けたらしい。


 ニオとかも人気だったけれど、私の方も名指しで指名される事が多くなかった。

 もともとは、指名制などなかったのだが、あんまりにも受けるものだから途中で、新しいルールが追加されてしまった。


 指名料とかとるようになって、居座るお客様には延長料金を頂いている。

 クラスメイト達の将来がちょっと心配だ。

 

 そんなこんなで、メイドさんの役をこなしていると時間が過ぎるのはあっという間だった。

 お客様への対応をやり終えて控室に戻ったステラに、自由時間がやってきた。


「お疲れ様ー。後は私達がやるわねー」


 前半を担当した生徒達と共に、後半の生徒へ引継ぎをして、クラスを出て行った。

 ここからは、好きな所を見ていける時間だ。


 廊下を歩きながら、色々な教室を覗いていく。

 どこも賑やかで楽しそうだ。


「そういえば、途中から先生とかライドの姿が見えないけど、どこに行ってるのかしら」


 教室で監督教師として、見守っていたはずの先生と、ニオやツェルトと比較的いっしょにいる事が多いライドだが、いつのまにやら気づいた時にはいなくなっていたのだ。


「珍しいのよね」


 ライドは生徒会の仕事でも入ったのだろうか。

 先生は教師の仕事?


 表面上では面倒くさがってはいるものの、意外とあれで職務には忠実な人だ。

 勝手にほっぽり出して、どこか行くとは思えなかった。


 そんな風に考え事をしていると、誰かとぶつかってしまった。


「きゃ」

「あ、ごめんなさい」


 悲鳴を上げてた相手は、ステラにぶつかった反動を受けて尻もちをついてしまったようだ。

 慌てて手を差し伸べる。


「大丈夫?」


 見ると、十歳くらいの少女だった。

 文化祭では生徒でない人たち……一般の者達も出入りしてくるので、誰かの身内か、純粋に興味のある子だろう。


「怪我はしていない?」

「へいき。転んだだけだから」


 パッと見た限りでは怪我をしていないようにみえてほっとする。

 騎士を目指す者が、不注意で誰かに怪我をさせるなんて事になったら、本末転倒だろう。


「本当にごめんなさい。そうだ、お詫びと言ってはなんだけど、はいこれ」

「別に気にしないでいいのに」


 学校内で使える店の割引チケットを少女に手渡す。


「使いきれなさそうだから、渡すだけよ」

「そう。じゃあ、ありがたくもらわせてもらうわ。それと、聞いていいかしら」

「私で答えられる事なら」

「姉さんがこの学校のどこかにいるはずなんだけど、探しても見つからないの。心当たりはない? シェリカ・クロスソードっていう名前なんだけど」


 目の前の少女はこの学校に在籍する女生徒の妹の様だった。


 見に来たはいいが、肝心の姉の姿が見つからないので、困っているらしい。

 そんなのはもったいない事だ。


 賑やかしいイベントを思うように楽しめない歯がゆさというのは、ステラも少し知っている。

 怪我が治った後に王都の町に出た時も、車いすから降りられたらもっといろいろな所にいけるのに、と何度思ったか。


「シェリカさん。名前だけなら聞いた事があるわ。確か、いつも試験の成績優秀者で……」

「……姉さんと私は、剣守の一族だから。それより居場所を知ってるのなら案内して」

「そうね。いるかどうかは分からないけど、彼女がいるクラスなら分かるわよ」


 確か三年の教室だった気がする。

 前に教師達の用事を手伝って行った時は校舎の一番端まで向かったはずだ。

 なので、結構時間がかかる。


「案内するわ。こっちよ」


 そう言って、ステラは先に立って歩こうとするのだが、人ごみが多くなってきている景色を前にして思った。


「はぐれちゃったら大変よね。手を繋がせてもらっても良い?」

「……まあ、良いわ。好きにして。貴方は、悪い人じゃないもの」


 躊躇いがちながらも、手を伸ばしてくる少女の手を掴んで歩き出す。


 そういえば名前をまだ聞いてなかった。


「私の名前は、ステラよ。貴方の名前を教えてくれる?」

「エルルカ。エルルカ・クロスソード」

「そう、エルルカね、エルルカちゃんの方がいいかしら」

「……エルルカ、ちゃん……。それはやめて」


 顔をしかめられた。

 ちゃん付けした方が親近感が湧くと思ったのだが、それだとさすがに扱いが子供っぽ過ぎるのだろう。



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