エピローグ 裏の人
フィンセント騎士学校 生徒会室
生徒会長室である男子生徒クレイは、部屋の入口で立ち止まっていた。
視線の先にはお悩み相談箱と書かれた箱。
中身を含めても大した重さのない手作りの紙箱を見て、クレイは鼻を鳴らしていた。
「さて、戻ってきたようだが……ぼろ雑巾の暗躍には気づかなかったか、我が妹ながら愚鈍の極みだな」
呟かれる言葉は特に誰にあてた物でもなかったが、それに答える者が新たにその場にやってくる。
部屋のドアを開けてため息をつく人物はライドだ。
「あー、疲れたわまったく。気づかれないように鳩飛ばすのも大変なんだぜ」
「何だぼろ雑巾。馬鹿でもできる仕事を割り振ってやったというのに、一人前に仕事をした気でいるのか?」
そんなライドとクレイは、眉間にしわを寄せて廊下に捨てられているゴミでも見る様な視線を向ける。
そんな視線を受け流すライドは、当たり前のように部屋に入っていき、慣れた様子で近くにあった椅子に腰かけた。
「何その顔。俺、イグニスを裏切ってアンタにつく事にしたんだけど、さっそく失敗だって思わせないでくんない?」
「ぼろ雑巾風情が、一人前の人間のように喋るな。薄汚れすぎて、人間だと視認するのに時間がかかるだろう、効率が悪い」
「ひっでぇ。道具扱いかよ。それならまだ奴隷扱いされた方がましだっての」
何度も交わされているかのように流れる様なやり取りを経た後に、先に入ったライドを追うようにクレイが部屋に入室する。
「主より先に入出するとは、救いがたい愚か者だな。犬の方がまだ忠実だ」
「へーへー。アンタ王宮の中でもそのキャラなの? 小っちゃかった剣士ちゃんとか引いてなかった?」
「無用な心配だな。我が愚妹は、こちらの仮面を見破るほど賢明ではない。あれはあのままであればいい。その愚鈍さを遠くから愛でるのが、正当なあれの観賞方法だ。……何だその顔は」
クレイが喋っている間に、何とも言えない顔になったライドは肩をすくめて首を振る動作。
「あー、何だろうね。キモイと兄馬鹿で呆れてんのかね」
「ほう、良い度胸だ。私にそんな口を聞いて無事でいられるとでも?」
説明通りの表情に加えて、生暖かい視線を送るというおまけもつけたライドだったが、それに対するクレイの反応は冷ややかなものだった。
クレイはどこからともなく鞭を取り出して、ぴしゃりと音をたてる。
「うっ、冗談だってのに。冷酷すぎると人がついてこねーぜ? さて、今後の予定立てていきますか、レアノルド王子。イグニスには色々恨みがあるから、かたき討ち頼んだぜ。あー……フェイト、なんとかストレイドっていうのとかアリアってのは、まあどうでもいいけど」
「当たり前だ、我が愚妹に手を出そうとした救い難い愚者には、しっかりと地獄を見せてやらねばなるまい」
クレイの操る鞭がもう一度音を立てるが、効果音がぴしゃりではなくずしゃっ!になってい。
「だから兄馬鹿だって言ったんだよ」
じゃっかん床が凹んだようにも見えなくもない衝撃だった。
いや、生徒会室の床は確実に数センチほど凹んでいた。
「あー、ちょっと敵さんに今同情しちゃったわ俺」
ここまで読んでくださった方、通り過ぎただけという方もありがとうございます。
※しばらく更新空きます。
※12/27 22部を追加しました。作品が中抜けていました。すいません。
※12/27 別枠にて「王女様は狂剣士 短編」掲載しました。




