第21章 大嫌い
ライドが私の命を狙っていた?
一体なぜ……。
彼は笑う。
いつものふざけたような表情ではなく、冷徹な仮面をつけたままで。
「せっかく隙をついたのに、惜しいなぁ」
「っ、どういう事……」
違う。それよりまずは。
「ツェルト、しっかりして」
痛みに呻く友人。
剣を引き抜かれてその場に膝を折った彼の事が心配だった。
私はツェルトの状態を心配しながら、ライドに尋ねる。
「どうしてこんな事をするの!? 二人共も私達を騙していたの!?」
その言葉に答えるのは目の前にいるライドではなく、ニオだった。
彼女は私の横に並び立つ。
彼女の背後にあるのは先生の亡骸……ではなく、偽物の模造人形だ。
「違う、ニオはライド君の事なんか知らない。あの人さえ殺せればそれで良かった。ステラちゃんを巻き込むつもりなんてなかった」
ニオも、ライドもお互いに別々の人間を殺す為に、別々の意図をもって行動していたというの?
「ライド君は、ステラちゃんが憎いの?」
信じられない想いでいるのは、彼女も同じようだった。
そこからは演技の色は感じられない。
何よりも私の感覚も、ライドからの悪意や嘘を感じなかった。
「いーや。全然。でも、しょうがないんだわ。やんごとないお方の命令でね。しかたなーく。王族である剣士ちゃんを殺しておかないと安心できないって話だからさ」
「じゃあ、ニオの事止めたのも演技だったの?」
「それは本気」
「自分の事棚に上げてよく……。ううん、ちょっと待って」
ニオは先程のライドの発言が示す所に気が付いたようだった。
ニオはライドに尋ねる。
「ステラちゃんの事、知ってるの? 王族って、ニオにしか打ち明けられてない事なのに。どうして?」
「おう……ぞく、だって? ステラが?」
私の身分を知っているニオは、ともかく知らなかったツェルトは信じられないと言った風に発言した。
「本当に? 人違いとかじゃ、ないのか……?」
秘密を知られてしまった。
距離を置かれてしまうだろうか。
皆と違う私の事を、彼らは距離を置くだろうか。
「ステラがそんな、国の王女って、いつもの冗談じゃ……」
「まさか。人違いできる余地残して人殺しなんかに及ばないって、ちゃんと下調べ済みだっての。そこにいるお前の大事な剣士ちゃんは、正真正銘の王族。役に立たないからポイされちゃった可哀想なお姫様なの」
そんな事まで、彼は知ってるの?
私が、皆に脳無しの役立たずだっていう烙印を押されたことまで。
「なら、なんでお前はステラを殺そうとしたんだ。理由は何なんだよ」
「あー、アレじゃないの? 昔森で陰謀にあって大人しく死ななかったからとか。だから俺にまわって依頼された感じ」
「俺は真面目に聞いてるんだ。はぐらかすな、ライド」
「俺はちゃんと真面目に答えたぜ? それが全てだ」
ツェルトとライドのやり取りを聞いてて、この事件を仕組んだ犯人が昔私を魔物に襲わせて殺そうとしていた者と同一人物だと言う事が、否応なく分かってしまう。
私を要らないと言った人。
役立たずだと捨てた人達が。
また。
まただ。
また王宮の人間が、私を殺そうとしているのか。
彼等は、何気ない顔で日常を過ごしながら、心の底で私を目障りだといつも考えていた。
これまでがそうなら、これからもきっと。
ずっと……。
「まあお前達にとっては、何でそんな奴にって思うだろうけどな。恩があるんだよ。どんなクソ野郎で、性格最低な奴でも行き倒れていたとこ助けられたら、何か返さなきゃってなるだろ。それにほら、俺が頑張ればニオちゃんが復讐しやすくなると思って」
思わず方面から話が回って来たニオは絶句。
一瞬息を呑んだ後に、大声を放って反論の言葉を述べていく。
「ステラちゃんがいなくなれば、あの人を助けようとする人がいなくなるからって!? ふざけないで! ステラちゃんは関係ないじゃん! ニオはそんな事しないよ」
壊れるのは一瞬だ。
またみんなで過ごせると思ったのに、結局はバラバラになってしまった。
ライドは言い返してきたニオへと言葉を返す。
その表情は常のものではなく冷たいものだった。
「関係ない? そんなのニオちゃんに言われる筋合いはないんじゃない? 先生だって本当は関係ないんじゃないか? 憎むべきはそのエル様って人を殺した敵、ニオちゃんのそれはただ手の届きやすいところにある物を叩いて気を紛らわせようとしているだけの、ただの八つ当たりだろ。違う?」
「っ、それは……」
「安心しなって、責めてるわけじゃない。俺はニオちゃんの味方。君が満足できればそれでいいし」
「ニオは、わたし……は」
ライドからかけられる肯定の言葉。
彼女はそれに頷く事もせず受け入れる事もせず、ただ苦しげにするだけだった。
彼等にも彼らなりに行動理由があるのだろう。
私達と過ごした時間の全てが嘘だったわけではないはすだ。
けれど、
だけれども、
そんな事はもう、どうでも良かった。
私はライドに尋ねた。
おそらく彼がどこかへやったのだろう。
「先生はどこ」
この場にいない先生を見つけて、生徒達を保護して帰らなければならなかった。
「どこにいるのよ」
ライドは笑ってその問いに答えた。
「さてね。この遺跡の中のどこか、行きの時に見て分かっただろうけど、かなり入り組んでるみたいだしね」
つまり知りたくば自分で探せと、そう言う事だろう。
「信じてたのに……」
込み上げてきたのは、怒りよりも悲しみだった。
頑張って、あの頃よりは前に進んだんだとそう思ってたけど、それは無駄だったのだろうか。
いくら私自身が変わろうとしても、意味がないのではないか。
「ライドも、ニオも大嫌い!」
私はそれだけ言って、その場から走り出した。
(※1/11中抜けタイトルの修正をしました)




