第19章 救出に向けて
何がどう具体的に変化したわけではなかったけれど、何となくこれから状況が好転していくような気がしていた。
ささやかな希望の様なものが芽生え始めていたのだ。
ニオは復讐を諦めてくれるかもしれない。
また、私達は元通りの関係に戻れるかもしれない。
ツェルトも、鬼の力を克服できるかもしれない。
けれど、そんな小さな希望も、ある出来事の前に吹き飛ばされてしまう。
それは、ツェルトが私の屋敷へ通う事に決まった数日後の事。
特異遺跡へ向かった生徒達が戻らなくて、その様子を見にいった先生も戻らなくなってしまったのだ。
フィンセント騎士学校 教室
先生を助けたい。
けれど、問題が一つあった。
無断で助けに行く事は良い。
罰を受けるかもしれない事も覚悟の上だ。
だが、目的地に行く前に、まず戦力が足りないという事が問題だった。
遺跡では何があるか分からない。
私が行って、ミイラ取りがミイラになるような事になるのは避けたかった。
それにその場所は、私のトラウマになっている森がある場所。
課題で行くのは気を引き締めているので別に何ともないのだが、個人で向かうのは不安があった。
だから……。
「お願いツェルト、ライド。私と一緒に先生を助けに行って欲しいの。何かあった時にはできるだけ二人に責任が行かないようにするから。私一人じゃきっと助けられない……」
代わりの教師が行った授業の後に、二人にそう頼み込んでいたのだった。
私一人にできることなんてたかがしれてる。
戦力的には学年で一番だと色々な先生に太鼓判を押されているけれど、客観的に考えても、戦力以外の事に関しては、不安が残る。
巻き込んでしまうのは申し訳ないけれど、自分一人で何でも片付けられるとは思っていないから、仕方がない
「いいぜ」
まず即答したのはツェルト。
「こういう時の為に今まで頑張って来たんだからな。ステラが俺を選んでくれて、その俺の力がステラの為にになるって言うなら喜んで引き受けるよ」
「ありがとう。ツェルト」
次に口を開いたのはライドだ。
「ま、俺も剣士ちゃんには日ごろ世話になってるしいいぜ。困った時はお互い様ってやつ」
「ありがとう、ライドも」
これで、三人。
本当はニオにも協力して欲しかったが……。
彼女とは最近あまり話していないし、先生を助ける為に何て言っても、協力してくれるようには思えなかった。
「本当に二人には礼を言っても言い足りないわ。私の我がままに付き合わせちゃう事になるなんて」
再び頭を下げるが、ツェルトに上げさせられる。
「気にすんなって。俺とステラの中だろ。むしろこれで、無視とかしたらそれ俺じゃないから」
「はは、ツェルトの偽物だわな、それ」
「だろ。つまり俺がステラに協力するのは、当たり前の事なんだ。だからいちいち頭何か下げなくていいし、引け目に思う事はないよ」
「ツェルト……」
ずっとどうしようと思って、そればかり考えていたが彼の思いやりが、私の心の中のわだかまりや不安を、優しく解かしてくれた。
「ありがとう。本当に」
そうして、具体的な場所について話を進めようとした時、ニオから声がかかった。
「ニオだけ、仲間外れ? さすがにそれは、ちょっとかなしくなっちゃうかも」
「ニオ……」
話を聞いていたらしいニオは、ステラ達の前にやってくる。
その様子はまったくいつも通りで、いつかのように憎しみに彩られたり、暗い感情に捕らわれたりしている様には見えなかった。
「あの人の事は……、諦めるよ。ステラちゃんの事が心配なの。だからニオも一緒に連れてって。駄目って言うのなら、大人しく引き下がるけど」
悪意は感じられない。
けれど、感じられないだけで嘘かどうかは分からなかった。
私が分かるのは私に向けられている悪意だけだから。
それでも信じようと思った。
ニオは大切な友達。
理由はそれで十分だろう。
「分かったわ。お願いね」
「良いの? ニオ、途中でステラちゃん達の事裏切っちゃうかもしれないよ」
「本当に裏切ろうって思ってる人は、そんな事言ったりしないわよ」
「でも……。ううん、ありがとう」
苦笑しながらも、ニオが手を差し出す。
仲直りの握手みたいなものだろう。
「ステラちゃんって、結構お人よしだよね。ニオ、ちょっと心配になっちゃうな」
「そんな事ないわよ。小さかった頃は、先生の事が信じられなくて刺そうとしたくらいだもの」
「ええ? 何その衝撃発言、すっごく気になるんだけど」
「話しても良いけど、全部終わってからね」
また、前みたいに話す事が出来る様になって嬉しかった。
彼女の本心は正直分からないけど、私はもうニオの事を信じると決めていた。
「ありがとステラちゃん。じゃ、ちゃっちゃとみんなで作戦決めちゃおー」
「それじゃあ、先生たちのいる場所なんだけど……」
そんな風にいつものメンバーで話をするのはすごく久しぶりの様な感じがした。
時間的には、そんなに経ってはいないはずなのに。
やっぱり、この四人で揃ってる時は一番楽しくて、安心できる気がする。




