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旋風《つむじかぜ》一つ吹くのさえ  《異世界が転移》  作者: 奥村瑛左衛門


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8.夢の中で

 今、再び夢の中のダンジョンにいる。


 国道から京都市内へ入った俺達は烏丸通り沿いに南下し自宅マンションへ向かった。車がいっさい動いてないのは清々しい。

 森と町との境界や市内のいたるところに、自衛隊や警官が立っているのではないかと予想していたが、出会うことはなかった。大丈夫か。

 たまに出会う人も、マーゴを見ると慌てて遠のき決して近づくことはなかった。通報されないか心配だったがもう電話も使えるか微妙だからな。

 コンビニは既に回収済みのようだったが。それ以外は暴動や争いにも遭遇してはいない。

 マンションの自室も鍵はかかっており、荒らされているようなことはなかった。マーゴも何とか玄関のドアを通ることができ、9畳1Kの部屋に入ると、ミシェル達に外には出ないよう伝え、布団にダイブしたのだ。



「ブギィ。出てこれるか?」 …反応はなかった。


 暗い闇の中、仄かな青白い光をたよりに、通路をすすむ。十字路に出た。

 角を右へと曲がる。


 すると黄金色(コガネイロ)のでっかい水たまりみたいな塊が、瞬く間に近づいてきた。

 ぴょんぴょんと小さな何かが跳ねている。蠢くそれは、、、

 

 虫の群れだ!


 俺は慌てふためき闇雲に踏みつけようと間抜けに足踏みを繰り返す。

 何匹もに飛び付かれた。『(fire)(-locust)の大(-swarm)群』だった。

 

「アチィッ!」

 見たくはないが、見ればイナゴの手足の先が特に燃えて光っている。

 露出した肌に爪をひっかけられ、それがまさに焼けて激痛が走る!


 必死に振り落とそうと、跳ね、払い、暴れ(もが)いていると…。



――――――『番狂(giant -)わせ(killing)』が発動した!――――――



 途端、腕が重く、身動きがとれなくなり、転倒した。イナゴが身を覆い尽くす。

 リクエスト通りに重厚で悲壮な曲が脳内で流れている…。


 全身を焼かれ、息ができなくなり、のた打ち回り、ショックで気を()()()…。



 

 夢から醒める。最低最悪の目覚めだ。動けないし皮膚が痛い。

 声も出さずブギィに顕現してもらい『大地の饗宴(アースハイヒール)』をかけてもらう。


 壮絶な臨死体験だった…。他の奴らも敵を倒せなきゃこういう思いをしたのか。

 正直、自分が『番狂わせ』という強力な特性を手に入れた幸運に舞い上がっていた。脳筋相手なら怖いものなしだと。ただそれだけの特性ではなかったわけだ。


 自分より格段に力の弱いものに対してはまさに呪いだ。致死的な弱さをもつ。

 

 魔法使い(マジックキャスター)相手に役に立たないだろうとは考えていた。だがそうじゃない。虫だ。あるいは小さな敵。いや、筋力のない相手すべて、天敵だ。

 今、恐ろしくて外に出れない。発動確率を上げることも危険に思えてきた。再三、選択肢で目の当たりにしたが、罠であるような気すらしてくる。


 対策は、一人にならない、か。ミシェル達に頼りきりだな。

 他にすぐ思いつくのは魔法か。とはいえ一朝一夕にはいくわけがない。

 遭遇してすぐ逃げだしたら戦闘開始にならずにすまないだろうか。いや恐らく、一方的にでも襲い掛かられたら戦闘開始で発動判定されると思う。初っ端から発動したらまた転倒しかねない。もう完全にトラウマだ。


 現実から逃避し、放っていた荷物の整理を始める。

 バックパックからスマホを出そうとすると、充電ランプが光っている。取り出すと消えた。中に戻すと、、、光る。

 一緒にバックパックに入れていた玉に近づけると光ってないか?


 やはり充電している。…ハハハ。俺は乾いた笑いを浮かべた。

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