5.会話
幼児に助けられた俺は、彼の相棒のマーゴさんと合流した後、母の生家へ立ち寄ってもらい、荷物を回収した。そこを拠点にとも思ったが、綱鶴一派の追跡を考えてあきらめた。そして今は、この世界の町を見たいという彼の要望に応えるため、町へ向かっているところだ。俺も自分の家が気になる。これから秋になれば野宿はきつくなるしな。少年の名前はミシェルというらしい。
山を南へ降れば、京都市郊外へと出るはずだったが、ミシェルとマーゴがあちらこちらへ自由に寄り道するせいで、遠回りし続けていた。
今も、彼らは巨大雀蜂をみかけると、「はちみつぅぅー!」と叫びながら、どこかに追いかけて行った。雀蜂はハチミツ作らないがな。
この辺りは山寺が多くある。境内に入りそばにある石椅子に腰を下ろし一息ついた。
横を見ると、妙な仮面を付けた小鬼が腰かけている。思わずビクッとなった。
慌てて距離をとり、持ってきた古い鉈を構える。長さ60cmほどある分厚い鉄の鉈はかなり重い。
「オレッチ、悪い魔物じゃぁないよ。てか精霊。そんなもの置いてコッチ来てみろよ。」
信用しちゃいけない。だけれど、こういうのは信じる心や度胸をみせなきゃ、相手に伝わらないやつだろ。でも言うとおりにするのは間違いなく間違いだろうな。
俺は警戒を解かない。
「見どころありそうかと出てきたのに臆病な奴だな。ヤレヤレだぜ。」
俺は警戒し続ける。
「仕方ネーから、少し精霊のことを話してやる。オレッチ達は別世界の住人だが、この度、この世界に顕現し易くなった。だけど、それはココみたいな霊気のそれなりに集まってる場所だけだ。例外は、契約した奴の近くなら、顕現できるし一緒に移動もできる。好奇心旺盛なオレッチはこんな何もない場所に長居はしたくない。それで、兄ちゃんに接近したってワケ。妙な話じゃネーだろう?」
(精霊契約があるのか。悪くない話だが。)
「辻褄は合うが、そうまでしてこの世界で活動したいのはどうしてだ?それと、『契約』とかいうのしたら、俺にどんなメリットがあるんだ?それって俺の生体エナジー的なの消費するとかじゃぁないの。」
(チッ、慎重なヤローだな。モシカシテ…、こいつオレッチのこと舐めてんじゃねぇか? オレッチが契約ビギナーだとバ、バレてる? イヤ、断じてそんなことはないハズ…。ソウダ。用心深いのは悪いことじゃぁない。)
「ソコか…。ソコね。OK!コッチに来たいのには、ちゃんと訳がある。実は、オレッチ達精霊は、異世界に顕現してると、ただ地元にいる奴ヨリ霊格が上がるのが数倍早くなる。それで出来るだけコッチにいたいワケよ。契約者から何かを貰うってことはない。ただ、例えば、コッチに1時間顕現してたら、その後は最低1時間は向コウに戻ってなきゃいけないってのと、コッチの世界に顕現してられる時間も精霊それぞれにあるんだが。」
(へー、そんな仕様なのか。結構精霊事情も世知辛いもんだな。)
「で、キミは、実際のとこ何ができるんだ?一緒に戦ってくれたりするんだろ?」
(ウッ。ソコ、突いてくるかぁ…。まぁ当然ダヨナァ…。)
「実は、オレッチ達、というか、とりあえずオレッチは、オマエの戦闘に、直接は、いっさい加わらない…。殴りかかったり、魔法を撃ったりはナシだ。でも、支援的な魔法ならかけてやれる。『大地の饗宴』っていう、持続的に徐々に傷を治す回復魔法を使える。言っとくが、瞬時に傷を治したり、死者蘇生の魔法なんてモンは、まずないからな。あと戦闘に直接参加してやれないかわりに、荷物を持ってやるよ。力はあるほうだからな。」
戦闘に参加しないのは凄く惜しいが、ケガの回復手段のあるなしは大きいし、無料でポーターをやってくれるというのも大助かりだ。そもそも、精霊契約とか、本当はこちらから土下座して頼みたいくらいだ。
「オーケー。わざわざ色々説明してもらって悪かった。ヨロシク頼む。」
俺は手を差し出す。
「お、おうッ。俺は『片足靴屋』のブギィ。今後トモ、、、
ゴ指導ゴ鞭撻ノホド宜シクオ願イ致シマス…。」
期待した台詞と違い少し残念だった。




