3.目が覚めると
『番狂わせの グヴィン・ゴヴィン』
目覚めた時、それがあのゴブリンの名だと何故か知っていた。
「番狂わせって…。俺は格下かぁ。まぁそうなるか…。」
でもその場合、番狂わせは俺のほう、というわけでもないのか。どうでもいいか。
寝床は糞尿げろまみれのひどい有り様だった…。
筋肉痛が酷くてまともに動けない。頭にひどい違和感がある。
あれは夢だろう。夢だったはず。どんだけの悪夢だ。
俺は無我夢中に策をめぐらし、相手に押し付け、運よく辛うじて生き残った。そういう異様な現実味だった。
「ピピッ!ピピッ!ピピッ!」
携帯が鳴った。友人からのメールだった。
「ネットを見てみろ」
ただ一文。言われるままニュースサイトを見ようとしたが繋がらなかった。
そのまま匿名掲示板にアクセスし唖然とし興奮する。
得た情報を要約すると、
・世界中停電している
・車やバイクのエンジンがかからない
・町のすぐ外が果てしない森になった
・そこでモンスターの目撃証言
・彼方に城が、砦が見えた
・町中にダンジョンの入り口が
・皆が昨晩ダンジョンの夢をみた
停電しても、ネットは使えるのか?知らんが。地下水が溢れ出して浸水したり、人工衛星が落ちたりするような事態にはなるんだろうか。
しかし、本当にこんなことが起こるとはな。上から2つはまだしも、その下から完全にファンタジーだな。一番下はあれか。みんなみたのか。
ただ、夢の中のダンジョンとモンスターは人によって違っていたようだが。皆がみているということに何かしらの意図を感じる。
さて、どうするべきか何も考えたくない。寝てしまいたい。
俺は、こういう世界になるような妄想をわりとするほうの人間だった。
というか、この現実世界は人間より何かしらの上位者に作られたものだと考えていた。例えば、成長し老いていく過程で、人間が認知していないエネルギーが、こう頭の天辺から滲み上がってくような、吸い出されているような、そのエネルギーを上位者たちは、人間がバクテリア発電をやるように利用しているんじゃないかと。
人は、あるいは他の生物も、『死ぬな、生きよ、増えよ。』ということを根源に持つ。なぜそうするのかを自分たちではわからない。即ち、これは他者に与えられた指令だから。
勝手口で音がした。
その後、「ドォーン!!」と派手な音が響く。
片肘を立てて寝そべったまま顔を向けると、土足のまま、武装した屈強な数人の軍人が踏み込んできた。
3人ほどが俺の横を走り去り、階段を上る者、奥へと侵入していく者、と視界から消える。
「動くなよ。言葉はわかるか。抵抗はためにならんぞ。」
細身の十四、五歳の色白な少女だ。黒髪が肩にかかるくらいのおかっぱである。手に偃月刀を持つ。
今、聞こえた言葉は、知らない言葉だったはずなのに、意味を理解できた。もう少しいうと母国語に置き換えられて理解できた感じだ。不思議だな。
俺はすぐに胡坐をかいて、両手を上にあげた。
「言葉はわかるか。情報がほしい。悪いようにはしない。」
女の子がもう一度口を開く。
「わかります。あなた達は何者ですか。その、何を説明すればいいのか。」
こちらからの言葉は通じるだろうか。
驚いた顔をした後、女の子は少し安堵の表情のようなものを浮かべた。




