10.魔法
ある晩、またあの夢の中にいた。
俺の装備は80cm程の片手剣、左手に小型盾を装着している。最近の装備そのままだ。
暗い闇の中、仄かな青白い光をたよりに、通路をすすむ。十字路に出た。
少し考えたが、角を右へと曲がる。
すると黄金色のでっかい水たまりみたいな塊が、瞬く間に近づいてきた。
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『火蝗の大群』に向かって、呪文を唱える。
不規則な分離する放電が確実に火蝗たちを捕らえ一瞬で焼く。四発で全て焼き尽くした。秘薬は残らなかった。
半月ほど前、二度目の夢のダンジョンでの戦いの後、『火蝗の大群』のトラウマ克服のため、早急に何らかの対抗手段を得たかった俺は、まず、噴射式、燻煙式の殺虫剤を試した。結果は、殺虫剤というものの効果はなくなっていた。
世界の変化に伴った、所謂、『ゆるされざる技術』である。
困った俺はすぐミシェルに泣きついた。
ミシェルたちがやってきたのと同様に、彼らの世界の魔法もこの世界に輸入されている、というのは間違いないらしい。
古代語魔法というのがある。使うには、本来、呪文と何らかの魔法の天稟が必要だが、天稟を持たない者でも、その魔法に対応する秘薬を消費することで、行使が可能だという。効果は全く劣るらしいが。
状況を打破出来そうな魔法の呪文と必要な秘薬を教えてくれた。
ホントに頼りになる。絶対見た目の歳じゃないだろこの子。
二週間、京都市直下のダンジョンで目当ての種族をひたすら捜して倒した。稀にモンスターの素材がドロップする。さらに稀に遺骸が丸ごと残ったり、何故かもっと別のアイテムが残ったりするのだが。
なんとか半魚人の背鰭、吸血UMAの牙、苔人間の菌糸を手に入れることはできたが、最後の1つ、古代兜虫の糞がどうにも手に入らない。
寺町にダンジョン由来の発掘品などを売買する店ができていた。
店長はスキンヘッドにサングラスをかけた髭面で俺はしゃべりたくなかったが人はいいらしい。鑑定系の特性を持ったのでこういう店をやり出したそうだ。
「古代兜虫の糞って売ってないですよね?」蛸入道に聞いてみた。
「あるよ。」
「あっ。ハイ…。」問題は解決した。
素材をすり潰し、薬包紙で包み、フリースの胸ポケットに入れておいた。
トラウマを打ち倒した朝の目覚めは爽快だった。
すぐにとっておいた玉を握りしめると、手に入れた特性の名前程度は知ることができる。
手に入れたのは特性ではなく、技能というものだった。
『火蝗の尖兵』。そのスキルに玉の力を注ぎ込む。
手持ちの半魚人、吸血UMA、苔人間の玉をいくつか使ったが強化にはいたらなかった。残念ながら詳細はわからない。
試してみると、スキルは苦も無く行使できた。
目の前にちょっとカッコイイ火蝗がちょこんとこちらをみている。
こっちにこないかな、と思うと、思った通りに飛んできて腕にとまり肩にのぼった。また焼かれないかと心配したが、そいうことはないらしい。色々試すと、どうやら俺の指示通りの行動を取る。
謎のスキルだな…。




