苦渋の判断
話を終えたルークが出発は夜明け前ですと言い残しイーサン家を退室した瞬間に苦渋の表情で佇むオーウェンにオリヴィアは駆け寄る。
すぐに我に帰ったオーウェンに痛いくらい抱きしめられる。
「まさかお母様が王女だなんて」というオリヴィアに
「すまない、伝える事が出来なくて」とかすれた声でオーウェンは答える。
オリヴィアも初めは戸惑い何故伝えてくれなかったのかと少なからず憤る気持ちはあったが生まれた時からこの地で暮らすオリヴィアに真実を話す事がオリヴィア自身にとっていい影響を与えない事や、父や母が捨てた過去について気軽には語れない事は大人に差し掛かる年齢のオリヴィアには分かる気がした。
「イーサン先生やデミおば様はこの事を知ってらっしゃったの?」と父の背中に回した手に力を込めながら尋ねる。「私は昔中央にいてね、一度だけ遠目に王女時代のエヴェリーナを見た事があるんだよ。それに王族が緑色の目をしている事は田舎では浸透していなくても中央では常識の様なものなんだ。一度もオーウェンやエヴェリーナに尋ねた事はないけれどね。」とため息を吐く様に吐き出したイーサンは遠い昔に目をはせる。
「こんな田舎で中央出身のイーサンの様に、それ以上に丁寧な言葉使いや動作をする人はエヴェリーナやオーウェン以外に見た事はないからね。高貴な血筋の方が駆け落ちしてきたんだと直ぐに分かったよ。私は中央に行った経験もないからまさか王族だとは思わなかったけどね。イーサンも何も言わなかったしオーウェンは気配りが利いて正直者だ。エヴェリーナも優しく可愛い子だった。それだけで手を差し伸べるには十分だったんだよ」とオリヴィアに向かって頷く様にデミは答える。
イーサン夫妻は真実気付いていながらも
オーウェンやエヴェリーナを守る為に沈黙を貫いてこの生活を続けて来てくれていたのだ。
オーウェンはオリヴィアの顔を見つめると「どうしたい?」と訪ねてきた。本当はこのままオリヴィアの手を取って今にも逃げ出したい気持ちが痛い程伝わってくる。ただ先ほどのルークの言葉がオーウェンに突き刺さっているのだ。
「オリヴィアこの国がダメなら国外にでも何処にでも逃げたいなら逃げなさい、」イーサンもオーウェンもオリヴィアに選択を与えてくれようとする。
オリヴィアが望めばその片方の道が険しくて厳しい道でも絶対に叶えてくれるつもりなのだ。
不安や憤り、悲しみや驚き 色んな感情が渦巻く中自分で決めた決意が優しい言葉に揺らぐ。
しかしルークの最後の言葉を利いた時点でオリヴィアの中ではもうとっくに答えが出ているのだ。
イーサン夫妻にもこれ以上迷惑はかけること出来ない。オーウェンやイーサン、デミには涙は見せないと心に決めてオリヴィアは震えを隠す様に父の背に回した手にいっぱいの力を込めて抱きしめた。