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最果ての翠玉  作者:
3/5

知らされる真実

混乱した状況の中、先程までの和気あいあいとした食卓と打って変わって沈黙がテーブルを包む。


デミはオリヴィアの側を離れず痛いくらいに肩を抱き寄せている。オーウェンやイーサンもオリヴィアを守る様にして座りオリヴィアの対角線上にルークが座る様な形で席についている。


オーウェンが「何の御用で此方に来られたのです?エヴェリーナは15年も前に除籍されている筈です」行ったオーウェンの言葉を皮切りにルークはオリヴィアに直接声をかける。


「貴方の母上がこのルドワール王国の第1王女であった事はご存知ですか?」

「昔の話だ、今は違う。エヴェリーナは只のエヴェリーナであって王女ではない」と少し声を荒げてオーウェンが遮る様に声を出す。


オリヴィアはこの話が母を中心に自身も深く関わっている事を感じ どうしようもない事が起きそうな予感に怯える。

「先の国王が半年程前に崩御されたのはご存知ですか?」ルークはオーウェンの声にめげる事なくあくまで淡々とオリヴィアに向かって尋ねる。

「ええ、存じ上げております。名君であらせられたとお伺いしております。」先王は確かに賢王であり、崩御された際には多くの国民が別れを惜しんでいる。と村に行っていたデミから伝え聞いていた。


北の果てに住む自分達には関係がない事であり、流し聞いていたオリヴィアにとってその話を一緒に聞いていた時の父の驚いた顔の方が印象に残っている。

確か後継は妻子がおらず 後継は功績を挙げていた臣下に委ねられていた筈だ。


「先代は名君であらせられましたが、崩御されるのが早くご本人が思い描いていた事の志半ばでこの世を去ることになりました。今は臣下の中で多数の功績のあった実力のある騎士出身のライリー国王が治世を治めておられます。」その事が自分に何の関係があるのか分からずただ曖昧にオリヴィアは頷く。


「先代は治世を治めるのは血筋ではなく実力のある者に、又血筋や家柄を笠に権力を振り回している者達への粛正を行なっておられました。本人や私達が思うより早く訪れた崩御際のも一悶着ありましたが実力のあるライリー国王に後継を委ねる事が出来ました。しかし後継を望んでいた先王の叔父上を始め貴族の中には血統こそ揺るぎないものであると考える方々も以前存在したままです。その中で15年前に突如として姿を消した第1王女を探す動きが王宮内で認められました。幸い此方の事はバレてはいませんが時間の問題だと思われます。我々としても正式な血統を盾に半年前に終着した後継争いを蒸し返したくありません。」


この後に続く言葉が想像出来て、自分にはどうする事も出来ない様な波に飲まれる感覚にデミの腕を強く握りすがる様な目でオーウェンをみる。


「お父様、正直に言ってください。お母様はこの国の王女であったのですか?」


絶望的な気分のまま一縷の望みをかけて尋ねたオリヴィアに「かつてエヴェリーナはこの国の第1王女だった。それに近衛騎士として側で支えていたのが私達の始まりだ」とオーウェンは噛み締めた唇で何かを耐える様にしながらオリヴィアを見返す。

返す言葉もなく呆然としたオリヴィアに

「オリヴィア様はエヴェリーナ王女に姿形瓜二つです。貴方の緑色の目が王家の血統を示す何よりの証拠です。我々は血統を笠に権力を振りかざす貴族に貴方をお渡しする事は出来ません。ご存知だと思いますが今は自国で争っている場合では無いのですから。」と変わらぬ口調でオリヴィアを真っ直ぐに見つめたままルークは話を続ける。


ルドワール王国の南に位置する隣国は戦争による周辺諸国の合併吸収を繰り返しており大国ルドワールにまでその手を伸ばそうとしている。現国王は幾度に渡る隣国からの侵略に対して手腕をふるい類稀なる戦略で攻防し現在の地位を手に入れる足がかりとなったと聞いていた。

「仮にもしエヴェリーナの奥方が王女であったとしても除籍されていて尚且つ、本人がこの世にいないのにそれがオリヴィアに何の関係があるのですか?」


そう強い口調でイーサンに「そうですね、おっしゃる通りだと思います。除籍されている王女を探し出して自分達の権力争いに巻き込もうとする連中に通じる理屈ではないとお思いますが」と変わらぬ口調で告げるルークに誰も返事が出来ないでいた。


「オリヴィアを連れて行く事を承認する事は出来ない」強い口調でオーウェンはルークに告げる。


「それでは一生オリヴィア様を連れて逃げ回るのですか?エヴェリーナ王女の際は先王の力添えがあったからこそこの地へ逃げてこれた筈です。慣れない環境での生活がエヴェリーナ王女が早くに亡くなった原因の1つでは無いのですか?オリヴィア様が本来王族として受けとる事の出来る教育や生活を本人の了承なしに犠牲にする事は良い判断だとは思えません。」


毅然とした態度を崩さず答えるルークにオーウェンは言葉を詰まらせ遠い所に行ってしまった自分の妻を思い苦痛の表情をうかべる。母が亡くなった事に対して父から感じるのは寂しさだけでなく時折強い後悔を感じる事があった。


ルークの言葉は長年父の胸の内に蓄積されていた言葉を直接的に表しておりオリヴィアは今になって父の苦悩を理解する事が出来た。


理解出来たと同時にルークに対して耐えようもない怒りが湧き出て来た。母が亡くなったのは確かに過酷な北の大地での生活が原因の1つかも知れない、でもそれでも愛する人との生活を選んだはは父の独断ではなく母も望んで始まった筈のものだ。オリヴィア達家族は確かに幸せでかけがえのない時間を過ごす事が出来ていたのだ。

それをまるで父の罪の様にオリヴィア達家族をよく知りもしないルークに自分も出しにされながら父の傷をえぐる様な言い方をされた事に憤りを覚える。初めは戸惑いこれから起こる事に怯えていた事も忘れデミの腕の中から身を乗り出す様にして反論する。


「この地で暮らす事はお母様が望んでなさった事で父の独断で連れて来られたのではありません。確かにお母様は早くに亡くなられたわ。それでも最後まで父の手を握って幸せそうにされていたお母様の事、私達の事をよく知りもしないで父を糾弾なさる様な事は仰らないでください。私もお母様の様に王族が受ける事の出来る生活や教育には興味はありません。愛する人とこの地で生活する事が私にとっての幸せです。恐れ入りますがお引き取りください」


強い口調で反論するオリヴィアを一瞬驚いた様な顔で一暼したが


「オリヴィア様もう一度お考え下さい、王女失踪の際オーウェン氏は重要参考人でした。先王により王女及びオーウェン殿の捜索は早々に打ち切られ王女は王席をオーウェン氏は貴族席を抹消されました。しかし次に貴方をお連れしもう一度重要参考人として嫌疑をかけられた際現国王の力を持ってしても庇いだてする事は難しいのです。貴方の姿はエヴェリーナ王女にそっくりです。昔の王女の姿絵を持つ人も街や人里の多い場所では少なくはないでしょう。それでもオーウェン氏に手を取って逃げる選択を選ぶ事は出来ますか?」

丁寧な言葉じりで尋ねる内容は質問ではなく最後通告の様であった。


オリヴィアは頭を殴られたく様なショックの中自分が1番何を選ぶべきなのかだけはハッキリと自覚していた。


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