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最果ての翠玉  作者:
1/5

最北端での日々

初投稿です。お見苦しい点はあるとは思いますが宜しくお願いします。少しでも楽しんで頂ける作品になる事を願って

一面の銀世界も終わりを迎え所々に新緑を覗かせる様になった春のある朝


大国ルドワール王国の最北端、滅多に訪れる人がいない欝蒼とした森に囲まれた小さな家で

屋根裏の小さな窓から差し込む光を受けて1人の少女

がゆったりとした動作で目を擦りながら起床した。



まだしっかりと覚醒していない中、何時もの手順で素早く厚手のシャツとスカートを羽織ると階下から漂ってくる良い匂いに連れられる様に階段を降りて行く。


「おはようございます、お父様」竃に向かって泥炭をくべながら鍋をかき混ぜるオーウェンに流れる様な動作で朝の挨拶をする少女の顔はまだ半分は夢の中にいる様な表情のままだ。


「おはよう、オリヴィア」娘の声にゆっくりとした動作で振り返ったオーウェンは灰色の目を眇めるように微笑んで朝食用の皿にスープを盛り付けた。


「すごくいい匂い、顔を洗ってきます」湯気の立つ美味しそう匂いのスープを前にオリヴィアはやや急ぎ足で洗面所に向かう。

まだ根雪が残る季節である為気合を入れて水差しの水で顔を洗うがオーウェンが暖かいお湯を指し湯してくれていたお陰で心地よく顔を洗い終える事が出来た。


顔をあげれば母親譲りの緑色の瞳が鏡ごしに見返してくる。顔も年々母親に似てきている事に時々オリヴィア自身でもハッとする事がある。残念な事に何時もニコニコ微笑んで洗礼された身のこなしであった母親には年を重ねても埋まる事のない距離を感じている。


プラチナブロンドの細く絡まりやすい髪を時整えて父の待つリビングに戻る。もうしっかりと全ての準備が出来てオリヴィエを待つオーウェンに「ごめんなさい、お待たせして」と声をかけテーブルに着く。


オーウェンは片眉を上げて返事をしただけで特に何も言わずに食事前の祈りをオリヴィアと共に捧げる。


この父は口数が少ないだけで特に怒っている訳ではない、頼まなくても必要な事は先回りし それでいて押し付けがましい態度は見せない不器用な優しさを持っているのだ。

「今日は天気が良いから久し振りに気持ちよく洗濯物が干せそう、それに久しぶりに狩にも出れそうだわ」とオリヴィアはワクワクした気持ちになる。

ここ数日雨と雪が混じった様な天候は図らずしも憂鬱ん気持ちを運んで来ていたのだ。

「そうだな、狩は私1人で行けるから洗濯物を頼むよ」と窓を見ながらオーウェンは答える。

本当は一緒に狩に出かけたかったが心配性の父親が雪が溶け足場の悪い狩場に連れて行ってくれるとは思えず駄々を捏ねるのは早々に諦めた。


「久しぶりに干し肉以外を食べれそう、デミおば様もきっと喜ぶわ」と冬の保存食を使った食事以外の夕食にワクワクする気持ちを抑えながら答える。

「ああ、そうだな 久しぶりに干し肉以外を食べれるといいな」と希望的感想を述べるオーウェンだが狩に出て一度も獲物を損ねず帰ってきた事はなく

自分でも中々狩は上手いと思っているオリヴィアもオーウェンを前にしては自身の腕前はまだまだなのだと思い知らされる。


食事を終えて狩に出るオーウェンを見送ったオリヴィアは家の用事を済ませて写真の中の母親に今日の祈りを捧げる。写真の中の母親は柔和な笑顔を携えて写真の中からでも儚げな雰囲気を醸し出している。


今から5年前、オリヴィアが10歳の時に風邪を拗らせて亡くなった母は未だに父の最愛の人であり続け

寒い冬でもどこしらから花を見つけては母親の写真の前に供えている。

母と父が結婚したのは母が18歳の時だと聞いている、母より8歳上の父は年を重ねても母を愛し続け子供ながらに見ていて恥ずかしくなる位夫婦仲は良かった。


後2年でオリヴィアは自分が誰かと一緒になる事もその誰かと父や母の様に仲睦まじく過ごす未来は想像出来ずこのまま父やイーサン夫妻とこの地で過ごして行くのだとボンヤリと思っていた。


家から歩いて10分の石造りのこじんまりした家に勝手知ったる家の中よろしくノックもそこそこに中に入る。

唯一の隣人であるデミとその夫であるイーサンがこの家に住んでいる。

寒さの厳しいこの最北端の地で唯一の隣人同士お互い支え合って生きてきたイーサン夫妻はオリヴィアにとって家族の様な存在である。


入るとすぐに甘い匂いが鼻に付く。家中が甘い匂いに包まれているのだ。

「こんにちわ、デミおば様 凄く良い匂いがするけどお菓子でも焼いてるのかしら?」


小さな頭を傾げながら挨拶もそこそこに嬉しそうに近寄ってくるオリヴィアを竃から目を離なしたデミは手からミトンを外すと

頷いた。

「今朝はめんどりが沢山卵を産んだからね、そんな嬉しそうな顔をしても今すぐは食べないよ、朝ごはん食べたばかりだろう?」と呆れた顔をしてため息を付く。


デミは女にしては長身でオリヴィアの身長より10cmは高い、身長に揃えた様なしっかりとした体系で年を重ねても真っ直ぐな姿勢で腰に手をついて小言を言う様は威圧的にも見える。

しかし本当は優しく甘いものがあまり好きではないイーサン夫妻の為ではなく自分の為にそのお菓子が焼かれている事を知っているオリヴィアはしょげた様子もなくケロリとしている。

そもそもこんな風に呆れられたりお小言を言われるのを日常茶飯事なのだ、こんな事ではいちいち落ち込んでいられない。しかしこのままでは続いて文句を言われそうな雰囲気を感じ取りオリヴィアは早々にデミの元から退散する。逃げる場所はイーサンの元だ。


イーサンは植物学者兼薬剤師らしく何時も大量の本と乾燥させた薬草に囲まれた部屋で過ごしている。

ノックもそこそこに部屋に入るといつも通り

イーサンは植物を測りにのせている所であった。

北の住人らしく働き者のイーサンも老年期を前にした人と思えない程しっかりとした体つきで曲がる事のない腰を屈めてチマチマと小さな天秤に薬草を乗せ測る姿は見ていて少し窮屈そうである。



「こんにちわ、イーサン先生 。何かお手伝い出来る事はありませんか?」と優雅な動作で一礼しにっこり微笑むオリヴィアをイーサンは灰色の目を細めてみやり、手に持ったピンセットを机に置く。


人間よりも家畜の数の方が多く、ましてや子供なんてオリヴィア以外の1人もいないこの地で家畜や本を相手に育ったオリヴィアはその大量の本の所有者であるイーサンを先生代わりに様々な知識を幼い頃から学んでいたのである。

口調は他人行儀でもオリヴィアにとってイーサンは家族の様な存在であり師でもあるのだ。

「今日の分の調合は丁度今終わったよ、ありがとう。今日はすこぶるご機嫌よろしいみたいだね、オリヴィア。デミがお菓子でも焼いているのかな?」と調合時に付ける眼鏡を外しながら尋ねるイーサンににっこりと満遍の笑顔でオリヴィアは答える。


「そうなんです、家中甘い匂いでそれだけで幸せな気分になりまます。」

「そうみたいだね、動作は一流の貴婦人でも表情だけは幼い頃と変わらないね。何を考えてるのか小さい時と同じ様にすぐに分かる。」と昔を懐かしむ様言うイーサンを前にオリヴィアは顔を顰める。


動作や言葉遣いは母が生きていた頃に徹底して仕込まれていたが母の様にいつでもにっこり微笑んでいる事はオリヴィアには難しく喜怒哀楽がハッキリと表情に出てしまうのだ。少なからず姿形だけではなく

所作や物事の考えも母親に似る様に本人なりに頑張っているつもりのオリヴィアからすれば今の言葉は素直に頂けなかった。


「一応中身も母の様にいつでも微笑んんでいられる様にしているつもりです。来月には16歳になるんですから」と言葉尻弱く反論するも自分で言ったそばからいじけた様子を隠せそうにないオリヴィア見てイーサンは目の皺を一層深くして笑う


「いや中身は似せなくても似ているよ。一度決めたら最後までやり通す所や勉強熱心で疑問に思った事は納得するまで調べる所。ただ意思の通し方や表し方がオリヴィアの場合直接的なだけだと思うよ」

とフォローにもならないフォローをくれるイーサンを恨みがましく見ていたがいつまでも不貞腐れていても面白くないので話題を変える様に昨日借りた本をイーサンに差し出す。


「この昨日借りた本凄く面白かったです、徹夜して全て読んでしまって今朝は寝坊してしまったくらい。」と先程までしょげていた事を微塵も感じさせないくらい興奮気味に書物について話し出すオリヴィアを見て、山の天気の様だなと思いながらイーサンは続きの書物を差し出した。

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