プロローグ
死ぬ前の走馬灯というものは、本当にあるのだろうか。
⋯⋯現在、俺は見れていない。
見る内容もないほど、中身のない人生だったからだろうか。
見る暇もないほど、あっけなく死んだからだろうか。
それとも、元々そんなものはないのだろうか。
仮に見れたとしても思うことは1つしかないだろうな。
ーー運の悪い人生だった⋯⋯
ーーここは⋯⋯?
気づくと俺は、1面真っ白で、無限に広がっているかのような謎の空間に立っていた。
「なんでこんなところに⋯⋯」
ーー思い出した。
そう、俺は死んでしまったのだ。
目を瞑ると、生前の記憶がゆっくりと蘇ってきた。
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⋯⋯俺、中野咲夜はひたすら運が悪かった。
高校生の頃、対して学校に行かず、家に引きこもってゲームばかりしていた。
1年もたたないうちに学校は中退し、フリーターとして働いていた。
学校に行くのとは違ってフリーターはお金を稼げるというリターンがあったから少しは頑張れていた。
ーーそんな生活を続けて5年、突然バイト先の仲間に連帯保証人になってくれないかとの連絡があった。
対した知識も持っていないのに、俺はそいつを信頼していたから承諾してしまった。
ーー数日後、そいつは失踪。
連帯保証人となっている俺は運悪くそいつの借金をすべて受け持つことに。
その額⋯⋯1000万。
自分の責任でも認めたくない。
信頼している仲間に裏切られたのだから⋯⋯。
それに月20万の収入でそんな額返せるわけがなかった。
全てに絶望している中、やけくそになっていったギャンブルの帰り道に目の前にトラックが突っ込んできて⋯⋯
ーーなんて悲惨な人生!!
思い返すだけで涙が出てきそう!
「ーーやあ! サクヤ君だよね?」
悲しく嘆いていると後ろから突然声をかけられた。
振り向くと中学生くらいの女の子がいた。
「ーー誰?」
「おめでとう! 君は異世界転送者に選ばれたよ!」
質問に答えーー
いまこいつ、なんて言った!?
「あーごめんごめん。僕の名前はラム! これでも女神なんだよー?」
なんか突然の急展開に頭がついていかない。
これ、夢じゃないよな⋯⋯。
とりあえず頬をつねる。
⋯⋯痛い。
「ねぇ。 話きいてる?」
なんだっけボクっ娘。
「ボクっ⋯⋯だから異世界転送するって話!」
「異世界⋯⋯」
何度憧れただろうか。異世界にいって勇者になって仲間たちと冒険して魔王軍と戦ってーー
⋯⋯それが今、現実に!
「壮大な妄想の最中悪いんだけどさ、君を転送するのはーー魔王軍側なんだよね!」
「⋯⋯ふぁっ」
予想していた答えをはるかに超えてきたもんだから変な声でちゃったじゃないもうまったく!
ここで1度冷静になろう。
⋯⋯ん?
「⋯⋯普通は女神が魔王軍に協力するなんておかしいんじゃないのか?」
女神が戸惑う。
何かありそうだ。
「それもそうなんだけどーー僕にはちょっとした問題があってね⋯⋯」
やっぱりな⋯⋯。
気になるので攻めてみようと思う。
「それ教えてくれないと魔王軍行きません」
すると目をキラキラ輝かせたボクっ娘女神がなにか言いたそうにこちらをみてくる。
言うかどうか戸惑っているみたいだったが俺がそっぽを向くと諦めたように話し始めた。
「実は⋯⋯前に転送した勇者に、お願いをしたんだけどーー」
直訳するとこういうことらしい。
前に女神が1人の勇者を転送。
女神は勇者に魔王軍が所持している、女神の羽衣を取り返してきて欲しいとお願いしたそうだ。
勇者はとても強く、魔王軍を全滅させ、羽衣を取り返した。
だがあまりにも羽衣が気に入ったため、勇者が女神に返さず、ずっと持っているから俺を魔王軍に送り、勇者を倒し、取り返して来て欲しい、とのこと。
「⋯⋯フッ」
「ーーいま鼻で笑ったでしょ! 大切なものなんだからお願いだよー!」
「勇者に裏切られるなんて、前世の俺みたいだな」
「確かに引きこもりの唯一の友達に裏切られーー」
「わかったから!お願い聞くからそれ以上は言うなッ!」
「それじゃ名前はサクヤで職業は魔王軍っと」
「ちなみに、異世界行ったら魔法とか使えるのか⋯⋯?」
「職業が魔王軍だから剣士のように攻守ともに高いし、魔法使いのように攻撃魔法が使えたり、僧侶のように支援や回復もできるよ!」
「ーーそれって、チートじゃね?」
なんか、魔王軍最強っぽい。
というかそれ全滅させる勇者何者だよ!
「転送準備完了!それじゃいくよー!」
白い床に魔法陣が浮かび上がってカラフルな光が俺のことを包む。
さて、魔王軍で勇者討伐のついでに探し物とやらをみつけて取り返してきますか!
こうして、俺の異世界ライフは始まった!