やはり石はすごかった
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クロスケに確認したいことがある。
だが猫ちゃん総選挙の投票について、議論を戦わせるデリとクロスケに割って入る必要がある。
「ンー、こういうイベントだとやっぱサビっこは省かれるよな」
「にしてもアメショ多すぎじゃね?」
さていかがしたものか、と悩んでいるうちにクロスケから振ってきた。
「ンー、例の一件については概要はあらかた理解した。サクが最後まで関わるってんなら支援するけど、どうする?」
「俺はこれ以上口をはさむ余地はないかなー。へいぞーとカラオケでラップの練習しに行ってくるわ」
デリは関わる気はないらしく、席を外す。
クロスケは何か知ってるみたいだし、上代神社関係者だし二人で今後の方針について話してみるか。
「ンー、でさ、サクはどういう方向性でいくわけ?」
俺の脳裏に、昨夜の杉さんの顔が浮かぶ。
彼女もただ通りがかっただけで、関係者という訳ではなかった。
自分に何か得があるわけでもなく、ただ拾った妖精の友達のために戦った。
敵の攻撃を食らえば痛かっただろうし、1人で戦うのは怖かっただろう。
助けた相手に重荷を背負わされて、怒ってもいいくらいだ。
しかし、彼女はバカ正直に戦っていた。
痛みを我慢し、恐怖を乗り越えて。
そしてそれを当たり前のようにできる、人の好い彼女のことを。
「俺は彼女の手助けがしたい」
「ンー、出よう、ウチに寄ってけ」
その言葉を聞いたクロスケは、それだけ言って歩き出した。
クロスケの家に来るのは初めてだ。
神社の管理をしていると言っていたが、上代公園とかなり近い位置にある。
「蔵まであるとはな、少し驚いたぞ」
「ンー、けっこう古いからな、この土地に来て」
蔵の中を漁り何かを探している。俺は手持無沙汰でその様子を眺めながらとりとめのない話をする。
小一時間もたっただろうか、クロスケは目的のものを探し当てた。
それは鞘に納められた刃渡り15センチ程の古い短刀。
「貸す、持っていけ」
「いや、これ職質されて銃刀法違反とかで逮捕されない?」
「ンー、こっそり隠して」
なんともいい加減な奴だ。
「そもそも、俺は小太刀は素人なんだが」
「ンー、相手は石で殴られて反撃してこなかったんだろ。近接戦素人同士ならなんとかなるって」
それはいいんだが。
「杉さん、普通の攻撃は効かないって言ってたぞ」
「ンー、そいつは普通じゃない。御神体の力を宿してる立派な霊剣だ。価値あるものだから壊すなよ」
いきなり何言いだしてるんだ、こいつは。
何でそんなものが、ここに転がってるんだ。
「ンー、上代神社の御神体ってやつはな、所謂魔力とか霊力とか法力とか、いろいろ言い方はあるが要は超常的な力の塊でさー」
クロスケ曰く、太古よりこの町、特に上代神社周辺は超自然の力が集まりやすい場だったらしい。
風水的に色々条件がそろっていたとか。俺もクロスケも専門外なので詳しい所までは分からんが。
そして古来より、その力を求めた悪しき者、野心を抱く者等、様々な者が襲来しその力を奪い合い災いをもたらしてきた、とか。
そして江戸時代、戦乱が終わり世が安定すると、名のある術者が災いを避けるため、チカラが漏れないよう封印、手出しできないよう御神体として神社に祭り上げ、クロスケの祖先は幕府に監視を任命され移り住んだということだ。
幕府に監視を任命されるって何もんだよ、お前の一族は。
「ンー、細かい資料は世界大戦で焼失したって辿れなくってさ、詳しくは分からんけど幕府の隠密か術者の親族だったんじゃないかって」
「そんな大層なもんがご町内にあったとは、まるで知らんかった。ってか気軽に話していいのかよ?」
「ンー、実はこれ機密事項とかじゃなくて郷土資料館で調べればだいたい分かる」
おおらかだな、ビバ田舎!
「その短刀は御神体を守護するために造られたモンだから、異世界の超常存在にもたぶん効く」
「ってか監視任務があるなら、お前の仕事じゃないのか?」
「ンー、任務そのものは江戸幕府消滅と同時に解任されてる。今管理を続けているのは、誰かが管理しないで放置してたらまた災いの元になるからそのまま惰性で。それに今回の敵が操ってるのは異界の魔術なので強引に突破しようとするとどうなるか分からん。結界に侵入できるお前がやるのがスマートだ」
そういうものか。
「それに公園の石が利いたんだろ。たぶんあの辺は御神体の影響で周辺物も特殊な力の影響を受けていると考えられる。だから御神体の力を持つ短刀は有効なはずだ」
ほう、やっぱ石すごかったのか。
てかチカラ漏れてるんじゃないのそれ?
「ンー、新たに集まってくる分とかあるし、その程度は誤差の範囲」
「分かった、この短刀は借り受けよう。ところでこいつ名前はあるのか?」
「ンー、名前は言霊、使い手に呼応してその力を発揮する。使うやつが好きにつければいいよ。ただしスズ菌センスは除く」
「…了解、考えておく」
装備:古びた短刀、公園の石。
アームドライダーという名の割にしょぼい武装だが、戦力は上がった。
しかし、俺だけが結界に侵入できる理由は分からない。
それに黒魔女は俺達を殺すと言っていた。
俺はあの抜けているが人の好い、地味で弱い魔法少女を死なせたくはない。
俺は覚悟を決めた。
毎晩上代公園に通うことにした。