缶コーヒーの微妙な違いについて語りたい
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放課後。
3人寄れば文殊の知恵、という言葉がある。
俺1人では出せない結論も、3人で知恵を合わせれば何とかなるんではないだろうか?
そう思って声をかけてみたが。
「ンー、いまさら無理っぽくね?」
クロスケ否定。
「迷ったときは一番最初のアイデアを採用するのがセオリーだろう」
デリの肯定、いや、それだと見送りと同じだろう。
「どうにかしたいんだよ、俺は。あのアームドライダーという名前をな」
語呂悪いし、かっこよくないし。
「ンー、何がいけないのか検討してみようか。まず武装って名乗ってるくせに素手じゃん」
「武器とかそもそも持ってないし」
「ま、剣とか斧とかは無理があるしな。釘バットとかは?」
「そんなもん抱えてバイク乗ったら通報されるわ、却下だ却下!」
碌な意見が出ない。
「ンー、授業で習ったばかりの英単語を使いたがる中学生のように横文字使わないで、武装ライダーとかにした方がよかったんじゃね?」
「所詮スズ菌保菌者のセンスだ、これ以上どうにもできんだろ」
さりげなくスズキディスんな。
「インパルスはいいバイクだぞ!」
「そんなことより、猫ちゃん総選挙の投票について」
「ンー、最近の缶コーヒーの傾向について語り合いたい」
この課題は保留だな。
昨夜。
騎士型と少女型を撃退した俺たちは、微妙な距離を開けながらベンチに腰掛け話をすることになった。
タヌキは傍で黙って佇んでいる。
「缶コーヒー、飲むかい?」
「あの、ありがとうございます、いただきます」
深夜の公園に、泥汚れの付いた魔法少女コスプレ衣装の女子高生、全身コミネプロテクターにOGKヘルメットで顔を隠したスズキ乗り。
傍から見たら変態でしかない。
クロスケの話では結界のようなものの影響で、部外者は近づけないはずだが、俺が入れている以上全面的に信頼できない。手早く済ませてしまおう。
「あの、アームドライダーさん、あなたは何者なんですか?どうして私たちを助けてくれるんです?」
返答に詰まり、適当にそれっぽいことを言ってごまかす。
「時が来れば話そう。今は君のことを聞きたい。君は何故奴らと戦っている?」
「あの、私は……」
彼女自身も特に生まれつきの魔法少女という訳ではなく、夏休み前までは普通に暮らしていたらしい。
偶々この公園で傷だらけで倒れていたタヌキ妖精を拾い、そのまま面倒を見ているうちに魔獣と遭遇するようになり、身を守るためにタヌキに変身アイテムを貸し与えられ今に至る。
「たぬ、そこから先はボクが話すたぬ……」
このタヌキ妖精タミーとやらは、妖精国出身で国一番の魔法躁者。
どこからか現れた黒い魔女に攻められて、妖精国を占領され、強大な魔力を秘めた国宝を強奪される。
タミーと妖精王子とやらは、魔女の次の狙いを阻止し反撃するため、魔女の後をつけこの世界にやってきた。
だが途中で気付かれて黒魔獣の追撃にあい、タミーは妖精王子とはぐれ負傷し、動けなくなっていた所を通りがかった杉さんに拾われたということらしい。
「たぬ、アームドライダーさん、もしやあなたは王子から力を与えられたのでは?」
全部初耳だよ、てか俺マジで何の関係もない話じゃん、これ。
「違う。俺はそいつとは無関係だ」
「あの、でも私が変身している間は、周囲に誰も近づけなくなってるはずですよね?でもあなたは入ってこれた。それに黒魔獣にこの世界の武器は効かないはずなのに、あなたは黒魔獣どころか黒魔女にまで攻撃をできた……。あなたも妖精国の関係者なのでは?」
ちげーよ、そもそも俺の装備は市販品ばかりだというのに、全く気付かないあたり抜けてるよね、杉さん。
しかしそういう設定なのに俺が公園に侵入できたのも、戦えたのも疑問だ。
ま、今日は俺の事より彼女の事情を確認することを優先しよう。
「エルスピアー、君は数日ごとにここで戦っていたようだが、それは何故だ?」
フルネームで呼ぶと頬を染め俯く。本人もタヌキ以外から魔法少女ネームで呼ばれると恥ずかしいらしい。
俺もクラスメイトをこの名前で呼ぶのは正直、きつい、もうやめとこう。
「はい、あの、実は黒魔女の狙いは上代神社の御神体で、それが強大な魔力を秘めているらしいんです。それで上代公園に妖精国からの出口が空いて繋がっているのでここで奴らの進行を防いでいるんです」
世界征服とかそこまででかい話じゃないらしい。タヌキの国は小さいから滅ぼしちまったらしいが、ここは国も広いし人口も多いから、御神体を掠め取るためにこっそり動いているということか。
しかし、異界の魔女に狙われる御神体ってなんだ?
こればっかりはクロスケの奴に確認するしかあるまい。
俺は空き缶をゴミ箱に捨てると、バイクに跨り帰ることにする。
「さらばだ、また会おう」
あ、やっちまった。