この公園、石、強ぇな
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俺は対話の決意を固めたのだが。
クラスメイトの杉さんのあの格好を正視するのはきついし、俺自身がアームドライダーなどと名乗るのも辛い。
という訳で夜、俺は衝撃に跨ると近場の山中のワインディングロードを駆け抜け、テンションを上げてから件の公園へと向かう。
そう毎日やってる訳ではないので、今夜はいない可能性もあるのだが、運良く当たりを引いたらしい。
木陰に隠れて様子をうかがうと、燦然と輝く槍を携え、髪型をツインテールにまとめ、ピンクのフリフリ衣装を身にまとったクラスメイトの姿がそこにあった。
そして、対峙する相手と、聞こえてきた話し声に俺は息を飲む。
……どういうことだ!?
今まで彼女が戦ってきた相手は主に獣のような姿をしたモノ。最初に見た猪型であったり、鹿型であったり。その後俺は手出しをしていないが、犬型、猿型、鳥型と、少なくともこの世界の動物がモデルかベースになっているもので、知性は感じられず会話の成立しない相手だった。
だが今この場に居るのは、鎧、それも西洋の甲冑を身に纏い剣を携えた人型、いわば騎士型ともいうべきもの。
そしてもう一体、黒い衣装を纏い仮面をつけたポニーテールの黒い少女型、ともいうべきもの。
複数の敵、人型、そして言葉を話し意思疎通のできる黒魔獣。
想定外の事態だ、俺は当初の目的を横に置き、状況の確認に専念することにする。
「ふふん、アタシの邪魔をしてるヤツがいるから見に来たっていうのに!妖精王子はアタシがキッチリトドメを刺したんだからアンタ達は妖精国のザコの残党、残りカスみたいなもんよね。さっさと殺しちゃってお目当てのアレ、もらっちゃいましょ!」
こいつらは、今までの知能の低い獣とは違う。
知性があり、自らの意志と目的を持って動いている。
スピアー杉さんは、少女型の殺意満々発言に、威圧されたように動けないでいる。
「あの、私は魔法躁者エルスピアー、妖精国のタミーから力を授かりました。あの、ここにはあなたたちが欲しがるものはありません、おとなしく帰っていただけないでしょうか?」
お前、そういう名前だったのか!そういやフルネーム知らんかったわ。
「ふふん、タミーだって。確か妖精王子のお付き魔法躁者よね。フーン…そいつがいるってことは、アレやっぱあるんじゃん!デク、そいつ殺して奪い取っちゃって」
デクと呼ばれた騎士型は剣を抜き、少女型は鞭のようなものを構える。
対峙するスピアーは槍形態のステッキを構え、相手の出方をうかがっている。タヌキは例によって隅で応援している。
さて、相手は殺す気満々だし、2対1の状況となれば手助けせざるを得ない。
さすがにクラスメイトを見殺しにしたとあっては寝覚めが悪い。
俺はそっと花壇から、鈍器に使えそうな大きめの石を抱え上げる。
まだ黒魔獣組は俺には気付いていない、奇襲が可能だ。
そして機会はすぐに訪れる。
騎士型が剣を抜いてスピアーに駆け寄り、苛烈な斬撃を浴びせかける。
スピアー杉さんはかろうじて槍で防いだが、その後連続して繰り出される剣の前に防戦一方となる。
少女型はにやにやと笑いながら、一方的に攻め立てられるスピアーを見て、周辺への注意を怠っている。
今だ!
俺は少女型の方へ無言で駆け出る。
少女型がこちらに気付いて振り向くと同時に、その顔面に向けて石を叩きつけた。
「おご、がが」
何か言おうとしてるみたいだが声になってない。
おそらく人間なら顔面陥没、俺は犯罪者になるレベルの打撃だ。
仮面は叩き割ったが、本体には鼻血を吹いて前歯が折れたという程度のダメージしか与えられていない。
スピアーが敵の攻撃を食らっても大してダメージを受けていない様子からして、こいつらにも防御的な何かがあると思ってはいたが、ここまでとは。
いや、石で少しでも打撃できる方が異常なのか?
とりあえず考えながらも連続して、顔面脳天ミゾオチへと連続して石を叩きつける。
こちらの異変に気付いた騎士型が、振り返って動きを停めたその瞬間、スピアーの槍が騎士型の胸を貫いた。
「シャイニンッスピアー!」
胸を刺し貫かれた騎士型は抜け出そうと苦しそうにもがくが、スピアーの槍からは逃れられない。
「このまま…シャイニンッライトニング!!」
槍を刺したまま至近距離から、必殺の一撃を内部に向けて放つ。
騎士型は直撃をくらい、黒い粒子のようなものをまき散らしながら、崩れ落ちて消滅する。
その間も俺は両手で顔を庇う少女型に向けて、無言で石を叩きつけ続けていたのだが、騎士型が消滅すると同時に少女型は背後に転がって距離を取り、怒りを込めた声で言った。
「ふざけやがって、次に会ったときはお前ら皆殺しにしたやんよ!」
そう言って空に姿をかき消したのだった。
さて、ひとまずの危機は去ったが、こっちが本題だ。
「あの、ありがとうアームドライダー」
ぺこりと頭を下げて礼を言う杉さん。
語呂が悪いな、この名前は失敗だった。