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サンマ食べに行かないか

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「だからなぜ一々ポエムを挟む?」

「ンー、やりたい年頃なんだろ、ほっとけ」


 俺の話した出来事は、まぁ頭がいかれてるとか妄想だとか、いろいろアレな内容なんだが、デリとクロスケは、割と俺的に一番どうでもいい部分に反応した。


 その時の缶コーヒー片手に休憩していた俺は、フリル満載のピンク色の衣装を身にまとい、ド派手なエフェクトをまき散らすステッキをブンまわして、黒い粒子状のオーラだとか魔力だとかいうものを吹き出す、四つ足の獣のようなものと殴り合う少女の姿だった。


「この、てやてや、シャイニンボム、シャイニンレーザー…うああ、なんで今回の黒魔獣しぶとすぎぃぃ」


 なんか、ぶつぶつ言いながら叩いたり、光って破裂したり、光ってコゲ臭い香りが漂ってきたりしたが、黒魔獣とやらにはあまり効かず、全く怯まない。

それどころか正面から体当たりを受けて吹っ飛ばされるありさまだ。


「ぷぎゃえう!」

「たぬぅぅ!スピアー負けないでたぬ!」


 おお、これはピンチというやつか。周囲を見渡すと公園の隅の方で直立するタヌキのような生物がどこかの動物園の人気者のような格好で応援している。いわゆるお付きの妖精的なものか。

 さてどうしたものか。


 傍のベンチに腰掛て缶コーヒーを味わいながら、少女に追撃を仕掛ける黒魔獣を観察する。前足で蹴り上げたり踏みつけたり、牙のようなものでつついたり、輪郭がぼやけててよくわからなかったが、そいつは猪に近い外観をしていた。

 そうしている間に例のタヌキは、果敢にも背後から体当たりしたり掴みかかったりしたが、全く相手にされず尻の一振りで公園の隅まで吹き飛ばされてしまう。


「たにゅぅぅ、だれか、スピアーをたすけ…」


 どうやら意識はあるようだが、身動き取れないらしい。

 魔法少女は地面に転がりながらも急所を守るガード姿勢をとり、必死に耐えている。


 こういう時は仲間の魔法少女だの、バラを投げる男の助っ人だのが出てきそうなものだろうと思い手を出さないでいたが、どうやらソロ活動するタイプらしく一向にその様子がない。


 これは俺が手を出さなんといかんのか。


 などと考えているうちに魔法少女の衣装は泥にまみれ、見るからにピンチの色を増してゆく。あれだけボコられているのに顔に腫れやあざ、出血がないのは何らかの防御的な力が働いているからだろうか。

 仕方ない。

 空き缶をゴミ箱にそっと投げ入れると、OGK製ジェットタイプのヘルメットをかぶり直し、顔を隠すように濃色のインナーバイザーを下す。

 そして近くの花壇から手ごろな大きさの石を手に取り、


「よっこいっと」


 そのまま黒魔獣とやらの側頭部めがけて放り投げた。


 ぐしゃりと、肉を打つ音が聞こえたような気がする。


「ごげぇぐが」


 それまで声や鳴き声らしきものを上げなかった黒魔獣が、苦しげな声を上げ悶絶する。

 これには俺もびっくりだ。魔法少女の攻撃が利かなかったのに石は効くのかと、割と驚きながら魔法少女に声をかける。


「今だ、立ち上がりとどめを刺したまえ!」


 芝居がかった口調、俺はちょっとテンションが上がっていた。


「ハイ、やります、シャイニンライトニング!」


 立ち上がった少女がキリっとした表情でステッキを振りかざすと、今までのしょぼい攻撃とは比べ物にならない極太の光が走り、黒魔獣を飲み込み跡形もなく消し飛ばした。

 少女はふわりとスカートを翻しこちらを向くとペコリと頭を下げる。


「あの、ありがとうございます、おかげで助かりました!あの、貴方はもしかして…」

「俺のことより、あの子を何とかしないといけないだろう」 


 俺は倒れたままのタヌキを指さした。


「いけない、タミー、しっかりして!」

 

タヌキにタミーって、あれか。三毛猫にミケとか黒猫にクロとかつけるタイプか、この娘は。

そして少女がタヌキを抱き上げている隙に、俺はバイクに跨るとその場を走り去った。


「という事があったのだが」

「ンー、それ上代公園だろ?あそこ時々結界が張られてて、なんかドンパチやってたっぽいから、そんな珍しいもんじゃなかったり」


 今クロスケのやつ、サラっと重要なこと口走らんかったか?


「そんなことより、今日の昼飯どうするよ?焼き魚食いてぇから二丁目チェーン食堂で食いたいんだが」


 デリは軽く流したが、俺には無視できない発言があった。


「恐ろしい話がある」


 語りだす。


「実は納車前日。前祝いに二丁目チェーン食堂でサンマ定食を頼んだんだ」

「ほう」

「ンー、聞こう」

「メシはツヤツヤ、サンマも程よく焼き上がり、大根おろしもピッカピカ、実に食欲をそそる素晴らしい仕上がりだった」

「「ほうほう」」

「俺はものすごい勢いで調味料棚から醤油の器を手に取り、勢いよくぶっかけると飯と一緒にかきこんだ!」

「「おおおう」」

「そして時は止まる!俺がかけたつもりでいたのはウスターソースだった」

「あちゃー」

「ンー、あそこ醤油とウスターソース同じ容器にいれてるからな、よく確認しろよ」

「納車前日でテンション上がって忘れてたんだよ!」


 と言ってる間にチャイムが鳴りホームルームが始まり、俺たちはそれぞれの席に戻り前を向く。

 例の一件はたまたま通りがかっただけ、と思い込みたいところだが。

 ちらりと斜め前の席を盗み見る。


 いるんだよなぁ。

 

 例の魔法少女は顔丸出しのタイプだった。

 そしてそれは、見間違いようなく俺の斜め前に座る杉明菜さんのものだった。

こんなもの

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