そしてグダグダなる日常再開
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俺は痛む体を引きずりながらインパルスに跨る。
目線の先では体長1m程度に巨大化したタミーが黒魔女に襲い掛かり、返り討ちにあっている。
その決死の猛攻に、黒魔女はスピアー杉さんを地面に投げ捨てて応戦する。
黒魔女の両手から火球が放たれ、直撃したタミーが炎に包まれ地に倒れ伏す。
杉さんスピアーは、よろよろと喉を抑え咳をしながらも立ち上がろうとしている。
そして俺は――
部外者を拒む結界。
クロスケですら容易には入れないこの中に。
俺だけが入れた理由。
他との違い、それは俺がこのバイクに乗っていたから。
細かい理由や事情は分からないし、もはや確認のしようがない。
それでも分かる。
このバイクに乗っていたから結界を跨ぎ、この世界に足を踏み入れることができたのだ。
だったら――
「だったらイケるぜ!400をブチあててやる」
俺はセルを回しエンジンをかけ、スロットルを全開にする。
「行くぞインパルス!」
こいつだって、効くはずだ!
「必殺当て逃げブレイク!!」
体重移動、フロントを持ち上げ黒魔女にそのまま激突する。
ぐしゃっと何かを潰したような音。がしゃんと機械の壊れる音。
俺は衝撃で投げ出され地面に倒れこむ。
どうなった?
目をやると黒魔女の鎧は大きく凹み、全身から黒い霧状の物を吹き出し、悲鳴を上げ苦しんでいる。
インパルスは…フロントフォークがひしゃげ、タイヤも変形し、倒れた拍子にオイルやガソリンが漏れ出し無残な姿へを変わり果てている。
全損。
脳裏をよぎる不吉な単語を振り払い俺は叫ぶ。
「今だ、魔法躁者エルスピアー!」
「あ、あの、…ハイ、やります!」
彼女はまっすぐに立ち上がり槍を構える。
決意を込めた鋭い眼差しと、凛々しい表情で叫ぶ!
「くらいなさい、私とあの人と、そして妖精達の思いを込めた一撃を!シャイニンッスピアー!ファイナル!!」
槍が黒魔女を貫き眩い閃光がほとばしる。
黒魔女はもがき苦しみ、そして全身から霧状の黒い粒子が吹き出し空に蒸発するかのように消滅した。
「あ、あの、終わった、のかな?」
「ああ、やったな」
「あの、ありがとう、貴方のおかげで」
倒れたままの俺の傍に駆け寄る杉さん、ぱんつ見えそう。
「気にすんな、なりゆきだ」
彼女は俺の傍に正座で座ると膝の上に俺の頭を乗せる。
膝枕してくれるのは嬉しいんだが、ヘルメットを被っているので、温かく柔らかいであろう膝の感触は味わえない
「たぬ、治療するたぬ」
燃えていたタミーも無事だったようだ。タミーは治癒魔法が得意だったらしい。
全身バキバキだった俺の体は普通に動けるようになるまで回復した。
「あの、これからどうするんですか?」
「とりあえず、バイクは押して帰る。さすがにここまでやっちまうと直らんな」
「たぬぅ、機械までは直せないのたぬ」
「そこまで期待してねぇよ」
主にお財布的な意味で少し後悔する。
「お前たちはどうするんだ?」
「あの、私はもう何事もなければ普通の生活に戻ります。タミーはどうするの?」
「たぬ、妖精国にはもう同胞もいないし、仇ももういない、たぬ。スピアーが良ければこのまま一緒にいさせてほしいたぬ」
「うん、じゃこれからも一緒だね」
笑顔でタヌキを抱きしめる。
「じゃ俺はこれで」
俺はインパルスを起こすと、そのまま押し帰ろうとする。
「あの、私も何かお手伝いを…」
「いらね。短い付き合いだったけど大事な相棒だったんだ。二人きりで別れを惜しませてくれ」
一人と一匹はそれ以上何も言わず見送ってくれた。
そして翌日放課後。
「ンー、おつかれ。バイクは残念だったね。良ければいい仕事紹介するよ」
「朝見てきたぞ、ありゃひでぇな。わっはっは」
自分も無関係ではないと、いたわってくれるクロスケと、自分は全く無関係だと笑い飛ばすデリの姿があった。
杉さんは、見た感じ昨日までと変わった様子はない。朝教室に入ったときに、目が合ったので挨拶をしてそれっきりだ。
「くっそ、使えるパーツを外してオクで売れば、そこそこ返ってくるだろ。作業すっから先に帰るわ」
「またなー」
「ンー、気ぃつけてな」
鞄を持って席を立つ。
廃車処理、パーツ取り、オク出品とやることはたくさんあるのだ。
そして校門を出たところで杉さんに待ち伏せされていた。
「あの、佐久間君、少しいいかな?」
「…何か用かい?杉さん」
杉さんは顔を寄せると、俺だけに聞こえるよう小さな声で囁いて。
「改めてお礼を言いたくてね、アームドライダーさん」
彼女は悪戯が成功した子供のように無邪気に微笑んだ。
俺が赤面したのは制服姿であの名前で呼ばれたからだろうか、それとも彼女の顔が近かったからか。
それとも……。
「なんで分かったの魔法躁者エルスピアーさん」
彼女の耳元で囁くと、今度は彼女が赤面する番だ。
「あの、バレバレだったよ、声はそのまんまだったし、席近いしね」
そう言うと、彼女は俺の手を握って駆けだした。
俺はまた友人たちに、からかわれる要素を増やしてしまったのかもしれない。




