念願のバイクを手に入れたぞ
文体変更
誤字脱字修正
スロットルを開けると、四気筒エンジンが吠え加速する。
左手に力を籠めクラッチを切ると同時に、左足のシフトペダルを上げると、スコッという気持ちの いい感触が伝わるとともにギアが上がり車体は加速する。
体重移動を繰り返し、目の前に広がるワインディングロードを軽快に駆け抜ける。
その車体『衝撃-インパルス-』の名にふさわしいその走りは…
「な、サク。そのポエムいつまで続くん?」
「まだ始まった所なんだが、デリよ」
高校一年生の二学期初日、始業式が終わり暇を持て余す時間を利用して俺、佐久間市は友人である井出利正、黒須啓介に夏休みの出来事を報告していたのだが…。
「長ぇよ」
正面の席に陣取る井出利正こと、デリの無粋なツッコミに中断された。
「な、クロスケ、どうよこれ?」
不満げな俺を無視して隣に座る黒須啓介ことクロスケに話を振る。
ちなみにこいつは最初から興味なさげにスマホをいじって何かのゲームをやっていた。
「ンー、サクがバイトして免許取ってバイクを買って、慣らし運転に出発したってあたりまでは聞いてた」
「ああ、そこまでは聞くに耐えうる範囲ではあるし、俺も興味のある話だ。問題はそこから先だ」
クロスケはようやくスマホから目を離し、こちらに顔を向ける。
「サク、お前さん、バイクに乗るときはいつもポエム口走りながらなん?」
改めて指摘されると反応に困る問いをしてきやがる。
「おおう、少しハッスルしすぎたか。しかし、割と皆やってるんじゃないの?あるあるだろ?」
「ンー、やらないかな、俺は。デリはどう?」
「俺もやらんよ」
なんだと!?
「スズキ乗りだけだろ」
「これだからスズキは…」
言うに事欠いて、ついでにスズキをディスり始めやがった。
ちなみにデリはホンダ・ジェイド、クロスケはヤマハ・セローに乗っている。
クラスでバイク所有者はもう一人、へいぞーだけだがこの場に居ないなので、共感を得られるかと思ってこの二人と話していたんだが。
「期待外れだ、がっかりだよ、失望した絶望した!」
俺は天を仰ぎ大袈裟に絶望してみる。
「いや、そういうのいいから、本題は他にあるんだろ?」
デリはあっさりスルーして、先を促す。
「お、そうだった。その先の話なんだが」
一通り近所の山中を走り帰路に就いた俺は、一杯の缶コーヒーを求めて近所の公園にバイクを停める。
脳に染み渡る微糖の甘みと豆の苦みを噛みしめて、次の旅へと思いをはせながら周囲を見渡したその時…
俺はピンク色のフリフリの衣装をまとい、きらびやかに輝くステッキを振り回しながら。謎の奇怪生物を戦う、魔法少女の姿を目撃したのだった。