第五十二話 虚弱シスターと配布物
学生の味方、春休み。激動のようでわりと平凡なこのアパート生活にも馴れてきた遥人にとって、本当の意味で休暇となるはずだったこの時期。
しかし、彼には仕事が残っていた。ある女の子をこのアパートに迎え入れるという、楽なんだけどスムーズにはいかぬであろう仕事が。
アパートの前で立ち尽くす彼女。空栄小夜が引っ越してくることが本格的に決定されたため、今日は住民に挨拶まわりをしようというわけだが。
「もういっそ、タオルを投げつけておけば大丈夫なのでは?」
「どんな挨拶まわりですかそれは」
いざ始めようというときになって、あまりの緊張からかすっとんきょうな発言をする小夜ちゃん。
今日も頑なにシスターの服装で現れた彼女。なんのコスプレだ、と言いたくなるが、彼女にとってはこれが制服のようなもの。
「とりあえず着替えませんか?その格好じゃ、挨拶まわりもうまく行かないと思いますけど」
「そうですか?タオル投げつけるのに服装もへったくれもないように思われますけど」
「だからちゃんと挨拶をしてくださいよ?変なことして責任負うのは俺なんですから」
んなことしたら確実にクレームが来るわ。ただでさえ女の子を連れてくると怒りだしそうな住民たちだし。
何より、今回は甲斐さんが連れてきたわけじゃない。連れてきたのは俺。言い訳はできない。
「ってことで、できる限り好印象を与えられるように。それが自分自身のこれからの生活のためになるから」
だから挨拶まわり用のタオルを俺にぶつけて練習するのはやめて欲しい。正直鬱陶しい。
「そうですか……せっかくコントロール良く投げられるようになってきたんですが」
べしっと、彼女の放ったタオルが俺の顔面に直撃。そして、そのタオルをすかさず投げ返す俺。
「緊張するのはわかりますけど、人間第一印象が肝心なんですからね?しっかりやっておけば隣室関係がスムーズに……って、小夜ちゃん?」
先ほどの俺と同じように、タオルが顔に直撃した彼女。痛みはないはずなのに、なんと彼女はその場に崩れ落ちた。
何故か疲れきった表情で汗をかいている。良く見れば顔色も悪く、息もあがっている。
え?俺、タオルぶつけただけだよね?
「大丈夫ですか!?まさか俺のタオルスロウがそんなに影響するとは」
焦って助け起こす俺に、ゆっくりと力なく首を振った小夜ちゃん。違う、と言いたいらしい。
「タオル……投げ過ぎて……疲れちゃいました……」
「弱っ!タオル五六回投げただけで虫の息になるんですか!?」
必死に呼吸を繋ぎながら紡いだ答えがあまりにも情けなさ過ぎて、思わず口が滑る。
「うぅっ、どうせ私は弱いですよ。どうせ階段の上り下りで虫の息ですよ」
「それはもう弱いを通り越して欠陥のレベルだからね?」
「私が欠陥人間だと言いたいんですね?」
「とりあえずポジティブという言葉が欠落してるのは確かだよね」
彼女との会話は、何故か気持ち的に楽だったりするわけで。それが彼女の秘める欠陥と直結しているなんて、知る必要がないから。
「うん。このリズムで会話できれば、すぐにみんなと打ち解けるよ。一人かなりリズムの悪い人もいるけど」
どうも虚弱で繊細なところがある彼女。緊張すると奇行に走るのは俺の知り合いの中だとわりと普通だし、うまくやっていけないこともない、はず。
「さて、最初の相手は秋隆さん。名前と顔を一致させような?そしたらタオル渡して一礼。たったそれだけだよ」
だからあんまり緊張しないように。そう言った俺の声は、果たして呼吸を整えつつ胸の鼓動を抑えている彼女に通じたのか。
わからないけど、まずは一人目。入居したらお隣になる秋隆さん。彼に好印象を与えられるかは、彼女のこれからの生活を左右しかねない重大事項だ。
「よーし……チャイム、鳴らしますよ?」
いざ秋隆さんの部屋の前に立つと、深呼吸してノブに手をかける。緊張の色は、消えていた。
澄んだ高音。アパート自慢の綺麗なチャイムの音が響く。ドアに近づく足音が徐々に迫ってくる。
その足音が、彼女の中から一度は消えた緊張を呼び起こす。ドクドクと脈打つ心臓の音と、近づく足音の音がシンクロする。
俺は黙って彼女を背後より見守る算段だ。小夜ちゃんがぎゅっと挨拶まわり用のタオルを握り締める。
そして、扉は開かれた。
「はい、どちらさまでしょうか……っ!?」
一瞬の静寂。止まる時間。秋隆の鼻先に向けて放たれたタオル。投げたのはもちろん彼女である。
緊張のあまり、というべきか。明らかにパニックになり我を失っている小夜ちゃんから至近距離で放たれた凶弾は、瞬時に秋隆の鼻先に辿り着く。
あとはそう、べしっと覇気のない音がして、タオルが虚しく床に落ちるだけ。そうなるものだとばかり思っていた。
職業柄、こういったことは得意なのか。秋隆は至近距離から放たれたタオルをあっさりキャッチしてみせた。
そして、無意識に第二の砲撃を開始しようと振り上げられた小夜ちゃんの腕を掴み食い止めるおまけつきだ。
「あー、どなたか存じませんが、とりあえず落ち着きましょう」
どことなく遠慮気味に、掴んでいた手をそっと離しながら説得にあたる。目線は当然俺の方。
「あ、あのっ……えと、タオルを」
秋隆が返却したタオルを、今度はしっかり手渡すことができた小夜ちゃん。しかしまだ、緊張は解けてない様子。
「小夜ちゃん、落ち着いて。秋隆さんはボクサーじゃないんだから、タオル投げたって作中から消えてはくれないよ?」
「それは暗に作中から消えろと言っているんですね?遥人くん、君だけは味方だと思っていたが……」
君だけはと言っても、秋隆さん相手だと俺が一番疎遠な気がする。
姉妹は元より、最近は紫音さんとも妙に結託し始めた秋隆さん。俺はといえば、姉妹からのいじめに対する愚痴を聞いてあげる程度だったりする。
「で、その娘はいったい誰なんだい?ハローワークの使者かなんかですか?」
「なんかやけに自虐的ですね。仕事は見つかったんでしょう?日和のおかげで」
紫音さん同様、この秋隆さんも俺が依頼したことにより職を得ることに成功しているはずだ。確か、うちの高校の用務員だったか。
日和がわざわざ秋隆さんを学校に配属させたこと。なにか裏がありそうなんだけど、理由が思いつかないでいる。
「いえ、確かに職は頂いたのですがね。肝心の出勤は春休み明けからで、それまでは実質無職なんですよ」
残念そうな表情。秋隆さんに対しては限りなくドSなあの姉妹が見たらとんで喜びそうだ。
「じゃあもしかして、ドアの隙間から見えるあの大量のプチプチ(割れ物とかのクッションにするあれ)は……」
確かに見える。あの潰すときの音が快感で仕方ないプチプチが、秋隆さんの部屋に溢れかえっている。
秋隆さんは大きく深くため息を吐いた。遠い目をしている。何か辛いことがあったんだろう。
十中八九姉妹が原因であることは間違いないが。
「私がこの春無職を続けることを知った真央様がですね……」
『秋隆。暇ならこれ潰してて。妥協はなし。ひたすら潰しなさい』
とっても笑顔で言ったらしい。同時に奈央さんによって運び込まれた大量のプチプチ。
それが、秋隆のプチプチライフの始まりだった。
「それからは来る日も来る日もプチプチプチプチと。快感が虚無感に変わってもひたすらプチプチプチプチ潰し続ける日々」
秋隆が見ているのは現世ではない。プチプチ地獄から解放された幸福な来世の夢だ。
しかし、そんな幻想は突然聞こえだした奇妙な歌によってかき消されたのだ。
「プチプチプチプチ。一つ潰しては秋隆の時間」
「プチプチプッチプチ。二つ潰しては秋隆の人生」
「プチプチプチプチ。三つ潰しては秋隆の臓器」
「プチプチプチプッチ。四つ潰しては秋隆の希望。ハローワークの使者、奈央真央姉妹参上!」
「いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえずその恥ずかしいのに加えてエグい歌を歌うのはヤメロ」
意味もなく得意気に胸を張って現れた奈央さんの頭をぐりぐりとしてやると、途端に声は裏返り奈央さんはしゃがみこんだ。
「い、痛いじゃないですか!いったい私が何をしたっていうんですか!?」
「ない胸に聞いてみろ」
「遥人さん、それ微妙にセクハラ発言」
真央さんの的確なツッコミさえもろともしない。俺はさらに奈央さんにぐりぐりぐりぐりと攻撃を仕掛ける。
「やっ、痛いっ!どうして私ばっかりいじめるんですかーっ!」
「姉の責任じゃボケ。なんつー歌を歌ってんだ」
ちなみにそれは秋隆さんのセリフだろ。どうしてそんなにいじめんだよ。
「理不尽です!」
「理不尽も不条理も世の中にはつきものだよ」
嫌に現実的なことを言って誤魔化す俺。いや、真央さんを攻撃するなんて、そんな外道なこと俺にはできない。
「ちなみに、曲名は『理不尽と不条理のプチプチライフ』です」
「んなピンポイントな曲名だったんか!?」
「や、今考えました」
えへっ、と可愛らしく舌を出す真央さん。やっぱりこの娘を攻撃するのは無理だと実感した瞬間だ。
「あ、遥人くん?人が、人が増えたよ?」
そして小夜ちゃん。君は何でうちの住民を増殖するアイドルグループのメンバーみたいに軽い畏怖を込めて見ているの?
「まあ、この際だ。小夜ちゃん、この二人にもタオル投げつけてやって」
「とりあえず、あまり飛ばないので濡らして飛ばしやすくしていいですか?」
「ついでに凍らせよう。威力増大間違いなしだ」
「そこ。微妙にとんでもないことを計画しないでください」
しかたないだろ。小夜ちゃんの緊張をほぐすためには、こうやって冗談みたいなやり取りを続けるしかないんだから。
「せっかく三人揃ったんだ。自己紹介もいっぺんにしちゃおう。さあ」
「さあって言われましても……自己紹介、ですか?」
頭を抱え悩む小夜ちゃん。考えがまとまったのか意気込んで三人の方を向くが、目が合わせられずに俯いてしまった。
あんたは転校初日の小学生か?でも、扱い方としては結構アバウトでも良い気がする。よし。
「はい、みんな席についてー」
いきなり三人の前に立ち音頭をとり始めた俺。さすが、うちの住民たちは素早く意図に気づいてくれたらしい。
「先生、後ろの女の子は誰ですか?」
真央さん。のってきてくれるのは嬉しいんだけど、こう見るとマジで小学生みたいでなんか不安だ。
「まあ落ち着け。今日は新しい友達を紹介するぞ。今日からこのアパートに移住してきた、空栄小夜ちゃんだ。みんな仲良くするように!」
途端にはしゃぎだす真央さん。ヒソヒソと内緒話を始める奈央さんと秋隆さん。何でこんなにリアルな演出をしてくれるのか。
「みんな、小夜ちゃんに質問したいことはあるかな?」
なかなか教師っぷりが板についてないか?少なくとも俺の小学生のときの担任よりは教師らしいに違いない。
そんな風に悦に入っていると、それよりも万倍『小学生っぷり』が板についてる真央さんが手を挙げる。
「はい、はーい!私質問あります、先生に!」
「ん?俺かよ。まあいいや、言ってみろ」
先生とか呼ばれちゃってるのはどうなんだろう。真央さんは楽しそうにしてるからいいけど、よく考えると結構アホらしい芝居だと思う。
ん?真央さん、いくらなんでも笑顔すぎない?ちょっと嫌な予感が……。
「先生、どうしてまた年頃の女の子なんですか?何を求めてるんですか?」
「ちょっ、真央さん目がマジだぞ?小学生はそんな怖い顔しないよ普通」
誤魔化せ誤魔化せ。ここでこのての話題にもってかれたらろくなことにならないのは目に見えてるからね。
「ほんと、次々と女を拾ってくるよね先生は。ハーレムを求めてるんでしょう?」
「奈央さんの分際でやなこと言うな。そしてこっちも目がマジだよ」
「先生の好みで連れてきたんでしょう?もう言い訳しなくてもいいんですよ?」
と言うより、言い訳はさせねえぞという確固たる意思が姉妹からビリビリ伝わってくる。
「知ってますよ?今回は甲斐さんの斡旋じゃないそうじゃないですか。言い訳がききませんね」
「何で知ってんだよ!?」
一番知られたらまずいことが事前に知られてるってのはいったい……。これバレたらもう、俺の好みだから連れてきたって断定するに決まってるもんな。
「本宮さんから聞きました。今度遥人さんが女を連れ込んでアパートに住ませるらしいって」
「とんでもない伝達のしかただなオイ!」
あのアマァァァァ!どんだけ俺の風当たりを強くしたら気が済むんじゃボケェェェェ!!
「あーやだやだ。ついに本性を見せやがりましたよこの男。ほら真央ちゃん、所詮この人はこういう人間だよ」
「そうだね。なんかもう、尊敬してた先生がクラスメイトへのセクハラで捕まったときみたいな心境だよ」
んな心境はなかなか味わえんわ!てかその社会のゴミを見るような冷酷な眼差しをやめてくれ。
「遥人くん。教師として教え子に手を出すのは不味いだろう。ましてや一見小学生の真央様に」
「おい、今この人真央さんを一見小学生って言ったぞ!てか真央さんに手を出したことになってんの?」
そしてまだこの小学校ごっこは続いてんのか?だんだん恥ずかしくなってきたぞ。
「秋隆ちょっとこい」
「は、はいぃ!」
ああ、やっぱり聞き逃してなかったか。秋隆さんも御愁傷様といったところだろうか。
「てえかおまえら、小夜ちゃんに質問しろや。文句言おうが言うまいが、これから同じアパートに住む仲だぞ?」
なんにしても、このままじゃほとんど小夜ちゃんが話せないまま時間切れってことになりかねん。
そこはまあ、(たまには)空気の読める女奈央さん。俺の望んでいた展開に導くように、質問をしてくれた。
「小夜さん……ですよね。遥人さんと同じ学校の人なんですか?」
そんな何気ない質問にさえあたふたと戸惑いつつ、やがて落ち着いて小夜ちゃんは答えた。
「い、いえ。年齢は同じですけど、通っている学校は違うんです」
「……ふーん。あ、私は奈央です。よろしくお願いします」
質問の答えに納得しつつ、次に話すことになるであろう真央さんに姉として模範を示したような。
自らも名を名乗ると、小夜ちゃんの纏うシスターの服が気になるらしく無言で彼女を見つめていた。
「さすが遥人さん。学校が同じですらないのに、よくもこんな美人さんを発掘してきましたね」
「恨み言はいいから、真央さんもなんか質問しような?」
どうして女の子の入居者がそんなに嫌なのか、甚だ疑問である。小夜ちゃん本人への印象は悪くないみたいだけど。
「あの、私は真央ですけど……」
お、この娘もなんだかんだ言ってちゃんと友好を図ろうとしてるじゃないか。感心感心。
「遥人さんとは、どういう関係ですか?」
感心、できねェェェェ!いきなり聞くことがそれって、なんかもっと他にないのかよ!?
ほら、小夜ちゃんもどう返したらいいものか迷ってるじゃん!可哀想に。
「えと……友達未満、奴隷未満。つまり、遥人さんにとって私は路傍の石ころみたいなものでして……」
「だから何で君はいちいちそんなネガティブな返答なの!?友達でいいじゃん、逆にこっちが悲しいわ!」
もうこれだけ心地よく会話ができてればそんなに悪い関係じゃないよな?そう思ってんの俺だけ?
「てか、奴隷未満て。遥人さん、いったいどんな鬼畜なプレイを強要してるんですか?」
「いかがわしいこと言うなって!プレイって何だよプレイって」
「路傍の石プレイ」
「どんなプレイ!?真央さんもいかがわしい発言は避けようよ!」
「もっと踏んでぇ……みたいな」
「何微妙に色っぽい声出してんだよ奈央さんは」
もうこの娘らいやだ。話が進まないにも程があるっての。こんなんじゃいつまでたっても小夜ちゃんのことを知ってもらえない。
「まあまあ遥人くん。質問なんて別にしなくていいじゃないか」
「秋隆さんまで。しなくていいなんてどうして」
「だって、ねぇ?」
発言の意図をつかみきれずにいる俺を横目に、何かを確かめ合うように頷いた三人。
不安そのものな状態の小夜ちゃんの顔を見つめると、真央さんは可愛らしく笑って言った。
「だって、これから知っていけばいいだけだから」
「ここに住むんですよね?なら、きっとすぐにわかりますよ。お互いのこと」
そんな二人の言葉を聞いて、目に見える成長に感慨深いものを感じた俺。確かに、おっしゃる通り。
「小夜ちゃん。自己紹介、やめよっか?」
「はい!私、早くここに慣れて皆さんとたくさんお話しますね!」
彼女の方も、うちの住民を気に入ってくれたらしい。手を前で組んで軽く目を閉じる姿。まさにシスターといったところか。
「住民の方、意外と少ないんですね?みんな話し易そうで良い人たちですけど」
その考えは、甘い。安心したせいか気が抜けている彼女だが、最後にもう一人うちで一番の偏屈人間と対峙しなければなるまい。
「残念。まだものすごく話し難くて厄介な人が残ってるから」
秋隆さんの部屋の右隣、今日はまだ姿を現さないあの人の部屋を見つめながら言う。
「厄介な、人?」
小夜ちゃんがそう呟くのと同時に、俺が見つめていたあの人の部屋のドアが開いた。タイミング、最高。
「紹介するよ、小夜ちゃん。この人は紫音さんっていって」
「……さっきから、何をやっているんですか?遥人さん」
「うんちょっと、新規入居者の紹介とタオル配りと小学校教師ごっこを」
「……小学校教師ごっこ?」
何でいちいち一番どうでも良いところに目をつけるかね、この人は。どうやら彼女、外が騒がしいのを聞いて出てきたらしい。
「こちら小夜ちゃん。仲良くしてあげてね?」
「よ、よろしくお願いします!」
うん、いいねその挨拶。ついでにタオルを差し出せば完璧。紫音さんにも見習って欲しいよまったく。
「……はぁ、よろしくお願いします」
軽く戸惑いながらもタオルを受け取り返答した紫音さん。ちょっと前から比べたら、コミュニケーション能力はいくらかマシになったように思う。
ん?何故だろうか。紫音さんが小夜ちゃんを頭の先から爪先まで凝縮している。奇抜な服装に興味を持ったのかな?
「……敵」
「ってオイ!敵って何さ敵って!」
ぼそっと何を言い出すかと思えば、初対面の人間を敵呼ばわりとは失礼極まりないなこの人。
「いえ。なんでもありません。……つまり、遥人さんは一緒にタオル配ってまわってたんですね」
「うん。あとは紫音さんだけね」
「なら、次は私がコレを配るのを手伝ってくれませんか?」
そう言って紫音さんが見せてくれたのは、招待状のような紙切れだった。
『結婚式招待状 遥人、紫音の式に是非ご参加ください。 場所→織崎グループ本部』
式っ!?しかも何で結婚式?何で紫音さんと俺?今日はひきこもってこんなもん作ってたんか。
てか、織崎グループ本部って……実家か?実家なのか?どうでもいいとこで必要以上に芸が細かいな。
「あー、その……小夜ちゃんそろそろ帰ろうか?送るよ」
「え?いいんですか?それ」
「いいの!じゃあ行ってくるから!」
華麗にスルーし素早く逃亡した俺。なんか、あれを真剣に相手しちゃいけない気がする。
小夜ちゃんを送り届ける道を歩む間、ちょっとだけ新たな住民の好スタートを喜びつつ、歩幅を合わせてゆっくり歩くのであった。
さて、また一つ日常が変わる。逃れようなく、逃れる気もなく。それが幸せに繋がることを願うばかりである。
一方、招待状を握り締めた真央さんと勝ち誇る紫音さん。
「なんで真っ先に私に渡すんですかね?これは挑戦と受け取っても?」
「真央ちゃん落ち着いて!」
(この二人の争いにはついていけませんよ!遥人さん早く、カムバーーック!)
激しい温度差に悩む少女がいたとかいないとか。それはまあ、どうでも良いことだけど。
こんな一日
そんな日常
虚弱シスター空栄小夜。茜ちゃんとこの娘をどう動かしたら良いものか。とりあえず、アバウトにいこうと思います。




