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日常賛歌  作者: しろくろ
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第五話 望んだこと、手に入れた物

 欲しい物はいつだって、大事な何かと引き換えだった。


 こんにちはありがとうさよなら。帰れない帰り道、何度も手を振った別れ際。


 幼い頃思い描いていた全ては、叶えられたかのように見えたのに。


 冷たい雨が降る、記憶と心の奥底。すれ違う人の数だけ、いっそう冷たく絶え間なく。


 それが、あれからの日々で。




「真央ちゃんがいません」


 いや、そんな死にそうな顔して言われても。今日も奈央さんはどこまでも奈央さんだ。


 さてこんにちは。今日も今日とて俺は俺、つまらん締まらんけしからんの三拍子こと遥人です。


 迫り来る真夏の猛暑から逃れようと窓際に張り付く俺でしたが、どうも奈央さんの様子がいつもながらにおかしいようで。


「真央ちゃんがどこにもいないんですよ!靴は玄関にあるのに!」


「うん、そうだね暑いね」


「全然聞いてないっ!?」


 的外れな返答に衝撃を受ける奈央さん。そんな彼女を横目に、俺は立ち上がり冷蔵庫へと向かう。


「ちょっとぉ!無視するにしてもあんまりじゃないですかあ!」


「知らんわ。アイス食えアイス」


 冷凍庫から取り出した一口サイズのアイスキャンディを一つ投げつけて、俺は自分の袋を開ける。


「……なんだ、食べないのか?」


 アイスをキャッチしたまま俺をじっと睨みつける奈央さん。あらあら、怒ってる怒ってる。


「食べますよっ!でも私もグレープ味がいいです!」


「ああそう。はいよ」


 アイスを食べたい気持ちと無視された怒りとが中途半端にごっちゃになると、奈央さんは怒りながら味の変更を所望した。


 いや、素直にありがとうくらい言えないのかと。


「いや、やっぱグレープが一番美味いわな」


「グレープは遥人さんのこと嫌いですけどねー」


 いつか俺が言ったことをそのまま返された形だ。いや、奈央さんが俺のこと嫌いなのは良くわかった。


「グレープは私のことが好きなんですよねー?」


「すげえ愛しげにしゃぶってんなオイ。もうアイスと結婚しろよ」


 一口サイズの棒アイスを口一杯に頬張り、じゅるりと音を立ててしゃぶる。少なくとも奈央さんは物凄く幸せそうだった。


 そして然り気無く扇情的と言えなくもない。


「何ですか?グレープちゃんに嫉妬してるんですか?愛されたいんですか?」


「いや、そんな暑苦しい愛情は願い下げだ。だから真央さんにもウザがられんだよ」


 それより何より、ときどきこの女は全力で鬱陶しい絡みを始めるわけで。それを常日頃から一身に受ける真央さんの気持ちたるや。


 正直、あんな中身が真っ黒になるのも仕方ないというか。とにかくこの姉は、自分の置かれた立場を早く理解した方がいい。


「わっ、私がいつ真央ちゃんにウザがられたっていうんですかっ!真央ちゃんは天使だから他人を嫌いになったりしないんですぅ!」


「おい、前話のことをもう忘れたのか。つーか真央さんを神格化し過ぎだろ、何だよ天使って」


 迷惑だよなあ、勝手な幻想を押し付けられるのってさ。初恋の男女が思わずやってしまうことだけど。


「だいたい、ちょっと真央ちゃんに優しくされたくらいで調子に乗らないでくださいよ!」


「いや、俺は別に優しくされてるわけじゃないだろ。奈央さんが全力で煙たがられてるだけであって」


 ここまで会話すると、そろそろこの女に口喧嘩で負けることはないという自信が芽生え始めた。


 こんな理路壊滅の平静皆無な奈央さん相手になら、どんな返しをされても怯む理由がなかった。


「私は煙たがられてなんかいません!真央ちゃんのことわかったように言わないでください!」


「おーい自分に跳ね返って来てるぞ、その台詞。真央さんに『お姉ちゃんのことどう思ってる?』って聞いてこいアホ」


「アホとはなんですか!言っておきますけど、私も真央ちゃんも遥人さんのことなんかなんとも思ってないんですからね!むしろ嫌いなんですからね!」


「真央ちゃんは天使だから他人を嫌いになったりしないんじゃなかったのか?」


「それとこれとは話が別ですぅ!」


 いや、どれとどれだよ。まったく同じ話でしかないと思うのだが。今の彼女にまともな思考能力は期待できなそうだ。


「あっ、そうでした!真央ちゃんがどこにもいないんですよ!」


「おーい忘れてたろ。好き好き言うわりに忘れてたろ今。アイスで話逸らされて忘れてたろ」


「そんなわけないでしょ!ちゃーんと覚えてたに決まってます!さあ、真央ちゃんを出してもらいましょうか変態野郎!」


 何故か彼女の脳内では、真央さんは俺に監禁でもされたことになっているらしい。駄目だこいつ、早く処分しないと。


「まあ、あながち間違ってはないがな。真央さんは俺の部屋にいるわけだから」


 今朝の話だ。俺の部屋の大量の本に興味を示した真央さんが、脇目も振らずに読書に没頭してしまった。


 真央さんに俺と同じ活字狂の気があるのは嬉しいことなので、とりあえず扇風機と麦茶を用意して部屋を後にした俺。


 それからもう随分と時間が経つものの、どうやらまだ真央さんは俺の部屋に籠っているらしい。


 それで奈央さんが探し回っていたわけだ。


「そんな筈はありません!私、遥人さんの部屋の前で何回も真央ちゃんを呼びましたもん!」


 普通に怪しまれてたんだなぁ俺。さて、真央さんが無反応なのは読書に集中していかからか。はたまた。


「はたまた、単にウザがられて無視されたのかな」


「っ!?」


 普通に考えれば、可能性はそちらの方が高いに決まっている。どんな大声で呼ばれても読書中は気づかないのなんて、俺だけで十分だろう。


 ただ、それを納得できないでいる奈央さんは……枯れた。


「枯れたっ!?どんな比喩だよと思ったけど、これは比喩じゃないっ!?」


 桃色の髪は灰色に、美白の肌は土色に。瞳の光は既に絶え、口元は緩く開かれていた。


 これはゾンビですか?


「ごめん奈央さん!冗談、冗談だから!」


 俺にフォローを入れさせるとは大したものだ。それだけの危うさ、極度の情緒不安定。月島奈央は、俺と同格の欠陥人間なのかも知れなかった。


「真央さんにはウォークマン貸したから、多分イヤホンしてるせいで聞こえないんだよ!なっ?」


 真っ赤な嘘だった。それでも、真っ青な顔を前にしては吐かないわけにもいかない嘘だった。


「そっ……そうですよね!真央ちゃんが私を無視するわけなんか。あんなに何度も呼んだんだもんね!」


 そんなに何度も呼んだのがいけなかったんじゃねえの?とは言えないでいた。


「それならさっそく会いに行かないと!私の身体が真央ちゃんを求めて言うことを聞かないんですよ!」


「確かに言うこと聞いてないな!汚いからよだれを垂らすんじゃねえ!」


 もうこれは、妹好きとかシスコンとかそういうレベルですらないのかもしれない。精神異常というには、意志がはっきりし過ぎているし。


(特殊性癖、か……)


 嫌な答えだった。けれどやけにしっくりきてしまったので、おそらくこれが彼女そのものなのだろう。


「ああ、奈央さん?その、出来れば後にしてあげてくれ。真央さん夢中で読書してたから、邪魔したくないんだよ」


 俺が部屋から出てきたのも、最初に奈央さんを無視していたのも、全ては真央さんの邪魔をしないためだった。


 たまにくらい、全部忘れて物語に入り浸ってもいいじゃないか。なんて、自分のことのように思うから。


「……そういうことなら仕方がありませんね。真央ちゃんの楽しみを邪魔したらいけません」


「奈央さんが言うと今更っぽいけどな」


「表に出なさいこの野郎」


 話のわかる女だとは思ってたし願ってたけど、ちゃんと妹の意を汲める姉で良かった。


 なんとか真央さんの自由を守ることができた。それならば、後は。


「うーん……真央ちゃんと遊べないとなると、どうしましょうか?」


 そう後は、この手持ちぶさたになった姉の面倒を見てやることだろう。何やら姉妹の兄な気分だ。


「俺と遊ぼうか?」


「イヤですよ気持ち悪い」


「奇遇だな、俺もイヤだ」


「気が合いますねー」


「そうだな、死にたくなるよ」


「ふんっ」


「はっ」


 互いに一瞥して背を向けると、奈央さんは自室へ、俺は再び窓際へと戻って行く。


 ……あれっ、どうしてどこからこうなった?俺は奈央さんの面倒を見てやるんじゃなかったのか?


 そりゃあちょっとカチンとはきたけど、奈央さんの性格上あれは反射行動であって、悪気があったわけでは……。


 いや悪気は間違いなくあったけど、それも含めて受け入れていこうと決めたじゃないか。


「馬鹿か、俺は」


「ええ、ほんと、馬鹿ですねえ」


「っ!?」


 うおおっ!?独り言に返答が返って来た!?何があったんだ!


「……奈央さん?」


「そんな疑問符付けなくても、私は奈央ですよ」


 部屋の入口のドアに、部屋に戻った筈の奈央さんが寄りかかっていた。


 後ろ手に手を組んで、目を逸らしながら俯いている彼女。チラチラとこちらを伺う視線が何か可愛らしかった。


「馬鹿な遥人さんのために戻って来ましたよ」


「余計なお世話だ。けど、ありがとよ」


 せっかくもう一度チャンスが巡ってきたのだ。もう過ちは犯さないし、くだらない意地も張らない。


 醜いのも狡いのもなんでもいい。全部含めて、俺は受け止めなくちゃ。


 そっと、彼女のもとに歩み寄って。


「……あのさ、奈央さん。俺と」


「うるさい黙れ」


 ものっそい拒絶されたっ!?んなアホな!


 そうかと思えば、顔を真っ赤にして俺の言葉を遮った奈央さんが、必死で俺の目を見ようとしていた。


「私と遊びなさい。いや遊びましょう?ああもうっ、遊んでください!」


 何を言ってんだ、この娘は。これじゃまるで、奈央さんが過ちを認めたみたいじゃないか。


「……それと、ごめんなさい」


 嘘みたいな本当の言葉が、瞳を潤ませながらしっかりとこちらを見詰める奈央さんから放たれた。


 自分で言うために、俺の言葉を遮ったのか?


 だとするなら彼女は、あるいは俺の思っている以上に、見上げた女の子なのかもしれない。


 そう考えると、思わず頬が緩む。声に出して笑いたいのを必死で堪えて、俺は彼女の頭を撫でた。


「お安い御用で。それじゃ何をしようか?」




「しかし、どうして俺達は会話すると喧嘩っぽくなるんかねえ」


 テーブルに二人で向き合い、懐かしのオセロなんかを楽しんでいた。


 昔はよく、父さんや母さんとやったっけ。俺はいつも黒を選んで、油断してかかる二人を返り討ちにしていた。


 真っ黒に染まった盤面を見た父さんなんかは、真っ赤になって再戦を申し込んで、また返り討ち。


 そんな日々が、ただただ楽しかった。


「そんなの、遥人さんがひねくれてるからに決まってるじゃないですか」


「良く言うよ。奈央さんにも大いに原因があるだろ」


「知りませんよーだ。ってか遥人さん、手加減ってものをしましょうよ」


 盤面は限りなく黒。昔を思い出すようで、どんどん黒に染めていくのが楽しかった。


「いや、そういうの嫌かと思って」


「そりゃ、嫌ですけど」


 ボロクソにやられるのだって、好きな筈ないでしょうが。私はMか、なんて呟いて、彼女は溜め息を吐いた。


「認めたくありませんが、妙に楽しいですねぇ」


「とても楽しんでる風じゃないけどな」


「だから、認めたくないんですよ」


 また、どこか喧嘩っぽくなる俺たちの会話。でもこれは、なんだか今までよりも温かい気がして。


 なんか、いいな。こういう感じ。奈央さんが楽しいって言ってくれたのも、内心飛び上がるほど嬉しかったり。


「ああ、わかったぞ」


「はっ?」


 ついに盤面を黒に染め上げた俺は、ニヤリと笑って呟いた。口許を歪めて悔しがる奈央さんが、怪訝な顔をする。


「俺達が喧嘩っぽくなる原因だよ。あれな、腹が減ってるからだ」


「んな安直な……」


 奈央さんは呆れた様子だが、直後に微かなお腹の音が響く。顔を赤らめた彼女は、恥ずかしそうに俯いてしまった。


「待ってな。シュークリーム買ってあるんだよ」


 聞こえないフリをしてやって、俺は冷蔵庫へと向かう。元々、どちらかといえば洋菓子派の奈央さんを意識して買ったシュークリームだ。


 今のタイミングは多分、千載一遇なんだと思う。


「ほら、美味そうだろ?」


「わあ……」


 基本的に意地っ張りな奈央さんも、このときばかりは素直に瞳を輝かせた。


 こうやって笑ってれば、真央さんみたいに可愛い女の子なのにな。


「早く食べましょう!冷めちゃいます!」


「いや冷めねえよ、シュークリームだぞ」


 落ち着け。そして覚めなさい。などとわざわざ言ってやるつもりはない。


 さあ、早く食べようか。


「それじゃあ」「いただきますっ!」


 ぱくぱく。おいしー!

むしゃむしゃ、うまい!


「御馳走様です」「お粗末様でした」


 妙に息が合うのが不思議な気分だ。普段から少しでも今のような気持ちでいてくれたらな、と奈央さんに注文をつけたいところ。


「あれっ?もう一個は真央ちゃんの分としても、一つ余りますよ?」


「ああ、買ったのが行き付けの店でね。一個おまけしてくれたんだよ」


 あの店頭の綺麗なお姉さんは、うちの両親がもういないことなんか知らないんだろうな。


 考えてみたら、今までと同じ三つの注文だ。変わったことがどれだけあっても、知らない人には知らないことなんだ。


「奈央さん食べなよ。洋菓子好きなんだろ?」


「ええ、食べたいのは山々なのですが」


 本気で食べたそうにする奈央さんだが、何故か躊躇いつつチラチラとこちらの様子を伺っていた。


「俺はいらないぞ」


「いえ、そういう話ではないのですが」


 密かにテーブルで隠れたお腹をつまむ奈央。ちょっとした懸念と、時を同じくする男の子の存在が、それを躊躇わせていた。


「そ、そうです!真央ちゃんにあげましょう。ご機嫌取りも兼ねて」


「まあいいが、ちゃんと機嫌損ねてたことは自覚してたんだな」


 ちょっと打算的過ぎやしないかとも思うけど、たいがい優しさなんてそんなもんだ。


 俺も、真央さんの幸せそうな顔を見たいから、なんて理由でそれに賛成した。


 いつの間にか、俺も随分と真央さんに甘くなっていた。奈央さんに影響(おせん)されたせいだろうか?


 まあ、それも悪くないと思えるのだけど。


 そんな話をしていると、噂をすれば影あり、だろうか。部屋のドアが開いて、目を擦る真央さんが姿を見せた。


「遥人さん、お気遣いありがとうございます。夢中になりすぎちゃいました」


 礼儀も備えた天使こと真央さんは、余程たくさん読破したのだろう。結構に疲れていた。


「お疲れ様、もういいの?」


「いえ、あれだけあると目移りしちゃって」


 まだまだ読みたいものがあるらしい。というより、下手をすれば端から読破していくつもりなのかも。


「持ち出しても構わないからゆっくり読みなよ。もちろん俺の部屋も使っていいし」


「本当ですか?ありがとうございます!」


 真央さんがこんなに読書家だったとは。後で読み終えた本の感想でも聞いてみたいところだ。


「真央ちゃん、シュークリーム食べなよ!」


「わっ、シュークリーム?ちょうどお腹空いてたんだよね」


 姉同様に目を輝かせた真央さんは、奈央さんの引いた椅子に素早く座る。


 それから手を合わせて『いただきます』と小声で呟き、シュークリームを口に頬張った。


 なんつー幸せそうな表情なんだろう。この娘には多分、癒し系としての才能が備わっているに違いない。


「二つあるんだから、そんなに大事に食べなくてもいいんだよ?」


 その姿を見詰める俺と奈央さんの頬が、どこまでも緩んでいた。奈央さんがシスコンに目覚める気持ち、ちょっとわかるよ。


「それにしても、二個ずつ買ってくるなんて遥人さんも太っ腹ですね!」


 そう言った奈央さんが俺に目配せしたのをしっかりと受け取る。この女、めずらしく姉らしいことをしてるじゃないか。


「まあな、一個じゃちょっと物足りなかったし」


 真央さんが気兼ねなく二個食べられるようにという配慮。奈央さんのこと、少し見直した。


「二人とも、私を甘やかしすぎですよ。この箱に六つも入るわけないでしょう」


「うっ」


 それでも、真央さんは黙ってそれを享受するほどの甘ったれではなかった。ちゃんと、人の配慮に気づくことができる。


「三等分にしませんか?その方がきっと、美味しく食べられると思うんです」


 みんなで食べたら、きっと何より美味しいと思うんです。そう言って、真央さんは微笑んだ。


 まったく、見直したよ。この姉妹。


「よし、包丁持ってくる」


 うまく三等分できるだろうか。なんせ相手はシュークリームだしな。


「私がやりますよ。遥人さんなんとなく不器用っぽいですし」


「奈央さん、人が気にしてることをはっきり言うのはやめよう」


 居場所、見つかったかなって。自分がこの姉妹と一緒にいてもいいんだって、思えた。


「早くしましょうよ!シュークリームが冷めます!」


「いや真央さん、シュークリームは冷めないよ……って、さっきもしたぞこのやり取り」


 流石は双子の姉妹というわけか。目を輝かせてるところとかも、そっくりだもんな。


「よし、うまく切れましたよ。それじゃ二人とも、そっと手にとって」


 奈央さんが切り分けたシュークリームを、クリームが溢れないよう細心の注意を払って手にとる。


「それじゃ遥人さん、お願いします」


 真央さんに促され、俺は二人を交互に見た。なんだろうな、この親近感。いつから感じるようになってたのか。


 久々に思うよ。なんだか少し―――幸せだなって。


「それじゃお手を拝借しまして……いただきます」


「「いただきまーす」」


 三等分のシュークリームを見詰める。なんだかこういうのって、兄弟や姉妹がいる家庭みたいだなって。


 そういや昔は、その兄弟や姉妹を欲しがってたっけな、俺。


 願いの成就は大切な大前提と引き換えだったけど。それでも今はただ、叶った願いに思いを馳せよう。


「今度は、プリンでも買ってくるよ。……三つ入りのやつ」


「期待しましょう」


「私も、楽しみにしてますから!」


 手にいれたのはいつだって、全部失った後だった。


 欲しい物はいつだって、大事な何かと引き換えだった。


 だからもう、俺は何一つ望まない。今のこの日々と引き換えてまで欲しい物なんて、失ってまで掴みたいものなんて、ある筈がないから。


 望まないままで、きっと何もかも、掴み取ってみせるから。



 こんな一日

 そんな日常




 快調。三年前の文章の編集というのも、なかなか楽しいもので。2011.5.30


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