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日常賛歌  作者: しろくろ
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第三十二話 しーちゃんといくつかの野望

「待ち合わせ、ですか?」


 意味わかんねーよという思いを顔一面に浮かべた奈央は、玄関に立つ遥人に弁明を求めた。


「だからぁ、待ち合わせしたいんだって。紫音さんが」


 俺だって意味わかんねーよという思いを声色で表現した遥人。


 いつもは寝癖を適当にアレンジして誤魔化している彼だが、今日に限っては甲斐性の片鱗が見え隠れしている。


 整えられた頭髪と母親譲りの端正な顔立ちが相まって、普段とは別人のような雰囲気を醸し出している。


「何で同じ建物に住んでいるのに、わざわざ駅で待ち合わせですか?」


 これは、直視したら危ないかもしれない。そう思った奈央は、遥人と目を合わせないまま言った。


「だって、そう言ったら拗ねたんだもん。紫音さん」


 その様子があまりにも可愛いくて、断ることができなかった遥人。


 自分の不甲斐なさに呆れつつ、携帯で時間を確認する。さて、そろそろだろう。


「じゃ、俺は行くわ」


「あ、はい。早く帰って来てくださいよ……その、真央ちゃんが悲しむから」


 取ってつけたような言葉に苦笑しつつ、遥人は手を振り出て行った。


 目的地は駅。紫音さんを待たせるわけにはいかないので、急ぎ足でアパートを出た。


 それを見送りながらかすかに手を振り返すと、奈央は居間へと踵を返した。


「そろそろ真央ちゃんが起きるころかな」


 寝起きの妹の可愛らしい姿を想像して心を踊らせる奈央。居間に戻ると案の定真央が座っていた。


「んー。おはよう、奈央ちゃん」


 眠そうに目を擦る真央をうっかり抱きしめそうになる奈央。それができなかったのは、視界の隅に存在する誰かのせい。


「おはよう真央ちゃん。で、それは何?」


 努めて明るく質問した奈央だったが、途端に妹が不機嫌になったのを感じた。


「なんか、目が覚めたら枕元で正座してた」


 サンタからのプレゼントを期待して見た靴下は空っぽで、おまけに謎の女が座っていた。


 なんだか切ないクリスマスの朝だなぁなどと思いつつ、視界の隅で紅茶を飲む女に目を向けた。


「……あの」


「おはようございます♪」


 目が合った瞬間明るく挨拶された。何が楽しくてそんなに笑顔なのか。


「……いったいなんの用なんですか。本宮さん」


 女の名前らしきものを呼んだ真央ちゃん。あれ?知り合いなんだ?


「そんな他人行儀に呼ばないでくださいよー。お姉さんって呼んでくれて良いですからねっ」


「ちょっっっと待てえええい!!」


 ニコッととんでもないことを吐いた女の胸ぐらを掴み上げた奈央。


「な、ん、で。うちの可愛い真央ちゃんがあんたみたいなどこの馬の骨ともしれない女を『お姉さん』となんぞ呼ばにゃならんのだあああ!!」


 頭のネジが吹っ飛んだかのような壊れように、日和は耳を塞ぎつつ答えた。


「耳元で喚かないでくださいよ。ちゃんと自己紹介しますから」


 そう言って奈央の手を振りほどくと、背筋を伸ばし胸に手を当て名乗りをあげた。


「私は本宮日和。氷名御さんのクラスメイトにして相棒です!」


 相棒ってなんだ!?そう突っ込みたい衝動に駆られたが、突っ込んだら負けな気がするので質問を続けることにしたた。


「その相棒さんがなんの用ですか?生憎、遥人さんはお出かけですけど」


 できるだけ嫌味っぽく。そう心がけて言った言葉も、彼女の太陽スマイルによって鮮やかなカウンターされてしまった。


「いえ、私が用があるのはあなたがたなんですよ。シスコンの奈央さん」


「しっ、シスコンとは失礼な!てか何で私のこと知ってるんですか!?」


 遥人さんは極力私たちの存在を隠すはずなのに。いくら友人といえども、だ。


 そう思って、真央ちゃんが彼女と面識があるのを思い出した。確か、失踪騒動のあった日。


「気をつけて、奈央ちゃん。この人、なんでも知ってるから」


 真央としては、前に本宮邸に訪れたときに嫌な思いをしている。そのため、決して良いイメージはない。


「なんでもって……真央ちゃんのスリーサ」


「仰る通り、お二人のこともたくさん知ってますよ。あなたがたのおうちのこととか、ね」


「「!?」」


 奈央の危険な発言をスルーしつつニコニコと話す日和の一言に、背筋を凍らせた二人。


そんな様子を見てまずいと思ったのか、日和はもう一言つけ加えた。


「いえ、遥人さんには何も言ってないですから安心してください」


 それを聞くと、安心したのか二人とも力無く崩れ落ちた。真央がほっと溜め池をついたのが聞こえる。


 この話題には触れない方が良さそう。そう判断した日和は、早急に本題へと移ることにした。


「では、これを持ってください」


 そう言って二人が渡されたのは、見慣れない電子機器。


「……トランシーバー?」


「今回のキーアイテム。トランシーバーのしーちゃんです!」


 しーちゃんて……。いったいあんたのテンションの高さは何なんだ。呆れつつも、話を聞いてやることにした。


「トランシーバー……しーちゃん……」


 何かを呟きながら、じっとトランシーバーを見つめる真央。


「何に使うんですか?これ」


 とりあえずは質問。確かこれ、連絡とったりできる機械だよね?


 隣で真央ちゃんが、物珍しそうにトランシーバーを弄っている。気に入ったのかな?


「まぁ、その説明は現地でってことで。行きましょうか」


「へ?行くってどこへですか!?」


 手を引かれて外に出ると、すぐにタクシーを拾った日和。


「駅まで、お願いします」


 駅かぁ。なんか、誰かさんの待ち合わせ場所だった気がしなくもない。


 一瞬嫌な予感がしたが、気にしないことにした。せっかくのクリスマスだ。この際、何が何でも楽しんでやろう。


 隣で真央ちゃんがトランシーバーを……破壊した。いったいしーちゃんに何をした!?


 しーちゃんの残骸に涙を溜めている真央ちゃん。そんなに気に入ってたのか、しーちゃん。羨ましい。


 その後、すぐに新しいのをくれた本宮さんに可愛い過ぎる笑顔でお礼をする真央ちゃん。


 今度はアンテナを引っこ抜いてしまって本格的に泣き始めたり。


 いろいろやっているうちに目的地にたどり着いた私たち。


 余談だが、タクシーを降りるときの一幕。


「では、代金の方をお願いします」


 そう言った運転手に、日和は微笑みながら耳元で何か囁いた。


 その途端に真っ青になった運転手。ひきつった笑みを浮かべながら、私たちを降ろしてくれた。ちょっと泣いてたような……。


「あ、ありがとうございました……。またご利用ください、ぐすっ」


 あ、やっぱり泣いてた。


「……あんたいったい何をしたんですか」


「ふふっ。ちょっとお願いしただけですよ♪」


 これが友人とはねえ。遥人さんにちょっとだけ同情した瞬間だった。


 真央ちゃんが運転手の頭を優しく撫でてから降りて来た。うん、今一人救ったね、真央ちゃん。


 駅には予想通り遥人さんと織崎さん。ちょうど今、合流したところらしい。


 二人に気づかれないようにしながら、私たちはある人と合流した。


「おーっす。ってあれ?遥人んとこの姉妹ちゃん」


 桐原疾風。私たち姉妹も面識がある、遥人の一番の友人といったところだろう。


 右手にはトランシーバーもといしーちゃん。つまり、彼もこれから起こる何かに参加するのだろう。


「お久しぶりです」


 この人には真央ちゃんの失踪騒動のときに、錯乱していた私を止めてくれた恩がある。


 そのうえ、真央ちゃんが帰って来た後に遥人さんと気まずい状態になってしまったときも、私たちを仲介してくれたりもした。


 遥人さんはダメ人間と言ってるけど、なんだかんだ信頼しているらしい。


「二人も今回の計画に参加するんだね」


「計画?」


 トランシーバーに夢中で今の状況を忘れかけていた真央。


 いや、正確には遥人と紫音が一緒にいるのを見たくないから、気をそらそうと必死だったからなのだが。


「本宮、説明してねーの?」


「今からしますよ。さぁ、よーく聞いてください」


 息を飲んで耳を傾ける姉妹。それを微笑ましく思う疾風。


 そして、説明が始まった。


「では、簡潔に目的・手段の二つに分けて説明します」


 うんうんと頷きながら、二人の視線は日和に釘付けである。


「目的はズバリ、遥人さんのデートをダシにして楽しむことです!」


「人はそれを妨害という」


「手段は……何でもアリです!しーちゃんを有効活用できるように準備もしてあります」


「ちなみに遥人には盗聴機がついている。しーちゃんの赤いボタンを押すと、そっちの音声を拾えるようになる」


「楽しければなんでも良いんです!さぁ、幸せを壊しに行きましょう!」


「以上。行動開始っ!」


「い、いえっさー!」


「真央ちゃん、なんか体育会系のノリになってるから……」


 早々に合点して気合いを入れる妹と、呆れつつもわりとやる気満々の姉。


「私はですね、人を陥れることに関しては何人たりとも前を行かせないつもりですよ」


「最悪だな」


 狂気満々の情報屋と、嫉妬心を秘めたる廃人。


「遥人さんには悪いですけど」


「このクリスマス」


「幸せ気分にはぁ」


「させませんよっ!」




 かくして始まった、『日和とみんなのワクワクデートぶち壊し大・作・戦☆』。


 果たして、遥人と紫音はクリスマスを無事に過ごすことができるのだろうか?


そして、このクリスマスはいったい何を変え、何を終わらせるのだろうか。



 それを知るのはただ一人。そして、それを変えられるのもまた、ただ一人である。


 歩き出すことだけは、自分じゃなきゃできないから。自分の足でなきゃ、いけないから。




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