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日常賛歌  作者: しろくろ
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第三十話 勘違いもほどほどに

 放課後。部活に向かう生徒や街へ繰り出す生徒がせわしく移動している。


 そんな喧騒の中、桐原疾風は一人ゲームに熱中していた。


 その指の動きは目で追うこと叶わず、その集中力は他の介入を一切許さない自分だけの世界を構築している。


 何とも近寄り難い空気を放つ男を遠目に見た遥人は、一瞬頬をひきつらせて目を逸らした。


 ……友達選び間違えたかなぁ。小学生のとき疾風とつるみ初めてから、同じことを何度思っただろう。


 女好きでゲーム好きな、あらゆる意味で俺の反面教師として君臨し続ける男。


 なぁ、おまえは気づいているか?周りからの冷たすぎる視線に。


 そう心の中で語りかけると、それが通じたのか彼はゲームの電源を切った。


 そしておもむろに遠くの空を見つめると、大きくため息をついた。


「今のため息の分しばらく息すんなよ。そもそも、地球資源はおまえのために使われるべきじゃないんだから」


「人をさも不必要な生物かのように言うな」


 なんとなくそのため息が気になって、俺はためらいながらも疾風に近づいた。


 既にゲームをしていたときの近寄り難い雰囲気はなく、俺の吐いた毒にもしっかり対応してくれた。


 しかし、なんだかツッコミに元気がない。キレは元からない。


「いや、どちらかというとおまえは不必要と言うより消える必要があると思うんだ。そうだろ少年」


「少年って誰だ」


「頭の中が半永久的に少年時代な君のことだよ」


「半ってつけたのは多少フォローしたつもりなのか?だとしたらおまえの優しさは歪んでる」


「何言ってやがる。歪んでるのはおまえの顔の造形さ」


「……死ね」


 うわぁ、やっぱ元気ねーや。どうしようこれ。


「てか何でおまえ、そんなに元気なんだよ。珍しい」


「ほら、おまえが元気ないのを見るとなんだか嬉しくってさ」


「……死ね」


「大丈夫。おまえより先にだけは死なないから。それより、何で元気ないんだ?ため息なんからしくもねぇし」


 やっぱり、もっと怒ってくれないと張り合いがないな。まずは元気づけよう。そしてまた貶そう。


「今日、何日だ?」


「ん?十二月の二十二日だけど」


 ついにそんなこともわからなくなったか。ゲームの中の時間とごっちゃになってんだろうか。


「しあさっては何がある」


「しあさって?」


 えっと、明後日のさらに次の日だから……あぁ、なるほどね。


「クリスマスがどうしたんだよ」


 いや正直、この時点でだいたい後の展開はわかっていたんだけど。


「……彼女がいない」


「………だから?」


「一人の、一人のクリスマスなんてっ……悲しすぎるだろうがぁぁぁ!!」


 急に叫び出した疾風だが、ちょっと涙目なのは気のせいだろうか?


「俺はおまえの単純な思考回路に対して哀しみを覚えるよ。哀れすぎる」


 どうしよう。こいつに対する評価が首相の支持率みたいにどんどん下がっていく。


「遥人、おまえに頼みがあるっ!」


「嫌だ!」


 なんかものすごく嫌な予感がしたので、首相の交代くらい迅速に断ることにした。


「そう言わずにさぁ、聞いてくれよぉ」


 その声とか表情とかがあまりにも可哀想なもので、聞くだけ聞いてやることにした。


「で、なんだよ」


「おまえんとこの姉妹、どっちか紹介して」


「却下だバーロー」


 この女好きめ、マジで見境ないな。いや、見る目あるとは思うけど。


「そこを何とか!」


「何ともならねぇよ!むしろあっちからもお断りだろ」


 俺が疾風についてろくなこと話してないからな。姉妹の評価はかなり低いだろう。


 奈央さんの方はこの前話したこともあり少しだけ認識を改めたっぽいけど。


「なんだよなんだよぉ。おまえだけ美少女二人もはべらして楽しいクリスマスなんてずりぃぞ!片方俺によこせやっ!」


「どっちもてめえにはもったいないわ!あと、二人とは一緒じゃないぞ。クリスマス」


 全力で頼みを却下した俺だが、ここでちょっとした失言をしてしまった。


「……二人とは、一緒じゃない?『は』ってなんだよ。まさかおまえ…」


「あ、俺帰るわ」


 旗色が悪くなり始めたところで退散……とは、させてくれないらしい。


「ちょっと待てや」


 後ろから肩を掴まれる。やばい、逃げなきゃ……。


 遥人は逃げ出した。


 しかし、回り込まれた。


「で、答えて貰おうか。貴様、いったい誰と何をしやがる」


「いや、その……」


 紫音さんとコンサートに行く。そう言えば良いだけなんだけど……言いたくないよなぁ。


「確か、織崎紫音さんとデートに行くんでしたよね」


「いやデートって言うかコンサートに行くだけ……って、何であんたがここにいるんだ。本宮日和」


「何でそれを知っているのか、っていうのは最早スルーなんですね」


 どうせそんなの聞いたって、答えは返ってこないだろ。あまり知りたいとも思わんわ。怖いし。


「おう、本宮。てか誰だ?その織崎ってのは」


「前に教えたでしょう。氷名御さんのアパートの」


「……ああ!そういえばおまえ、その人に惚れてたんだっけか?」


 うん、いろいろ言いたいことはあるがとりあえず。


 本宮、おまえちょっと黙れ。俺のプライバシーを返せ。


「惚れてるとかじゃねーっての。まぁ実際きれいな人だけど」


 その分人間的には最低レベルな人だけど。彼女の名誉のためにそれは言わない遥人だった。


「そっか、おまえにもついに彼女ができてしまったか」


「いやだから違っ」


「酷い!私というものがありながらっ!」


「ねぇ、俺の話を聞こうよ?」


 もう嫌だ。このなんかしみじみとしてる男と泣き真似をする女、二人まとめて冬眠して欲しい。


「俺は帰るぞ。食料品調達しないといけないし」


 付き合ってらんねーし。


「はいはい、幸せ幸せ。いいねぇ」


「なんだその投げ遣りな返答は。おいちょっと泣くなって!そのうちいいことあるって!」


「あんなにあなたに尽くしたのに、飽きたらポイですか?」


「やってろ」


 さて、買い物買い物。早く帰って紫音さんと合流しないと。


 いろいろとツッコミ所を無視した遥人は、うらめしそうにこっちを見ている二人から逃げるように帰路につくのだった。




 その後、ある同盟が成立した瞬間。


「遥人め、楽しいクリスマスになると思うなよ」


「疾風さん、私に良い考えがありますよ」



 放課後、誰もいないはずの教室から二つの笑い声が響いたという。


 もちろん、どこの悪役だと言わんばかりの邪悪な笑い声であったのは言うまでもない。




 こんな一日。

 そんな日常。




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