その13
電車に揺られながら、流れていく外の景色を眺める。見慣れている筈の景色はどこか寂しく、私の事を憐れんでいるようにも笑っているようにも見えた。一回そう思ってしまうと、周りにいる乗客も私を笑っているように見える。
ふと、桜田さんの言葉を思い出す。
「男なんて腐るほどいるわ。なんなら紹介してあげてもいいよ」
その時は丁重にお断りしたが、今になってその言葉が心に染み込んでいく。確かに男性は沢山いる。今私がいるこの小さな箱の中ですら、何十人という男性がいるのだ。校内なら数百人。世界なら何億人といる。その中から私は、三山さんただ一人を選んだのだ。
あれから考えてみても、私達の間には何も無かった。どこかで出会ったりとか、助けてくれたりだとか、そういった花咲くロマンスが何も無い。気が付いたら私は三山さんを追いかけていた。そこには何があったのだろう。やはり桜田さんの言うように、「その程度の恋」だったのだろうか。
「まもなく、千種、千種」
アナウンスの無機質な声が車内に広がる。あと少しで私はこの電車を降りる。家に帰り、自分の部屋に入り、ベッドに寝転がるだろう。何一つ変わらない日常の風景なのに、今日の私は昨日までの私とは違う人間だ。
昨日までの私はくっきりと人の形を保った私で、今の私は泥のような不定形だ。三山さんという一人の男性の存在は、私の日常を彩り、脳内を彩り、散々塗りたくった後で壊していった。残ったのは、溶けてどろどろになった私だけ。
窓に幾筋もの線が通った。先程まで快晴だった天気は曇り、雨が降り出していた。
私は再度落ち込む。今日の私は、傘を持って来ていない。




